霞浦のテラス事業
1) 背景
はじめに、土浦の中心市街地が抱える課題について触れます。土浦駅西口では、ここ数年の間に市役所の移転やPLAYatreTSUCHIURAやアルカスの開業によって、歩行者の増加や賑わいが促進されました。一方で、モール505では空き店舗の増加や東口では賑わいの不足が目立っており、西口の賑わいが中心市街地全体に波及していないことが課題として挙げられています。そこで、私たちは東口に着目しました。東口は、霞ヶ浦から直線距離で75mという近さに立地しています。また霞ヶ浦は、船着場やレンコン畑、りんりんロードなど多様な風景を有しており、さらに茨城県立土浦第一高校の校歌にその名が取り上げられていることからも、市民から長く愛され続けていることがわかります。しかし、現在の東口駅前はビルや駐車場が湖の風景を遮断しており、湖の風景を感じることができません。そこで、東口駅前において霞ヶ浦の風景を活かした賑わいづくりを行い、人とまちを霞ヶ浦の「風景」でつなぐことを目指します。多くの人が日常的に利用する駅前で、霞ヶ浦という固有の資源を活かした賑わいを創ることで、人々の土浦への愛着や誇りに繋がると考えられます。
2) 概要
土浦駅の東側で、霞ヶ浦の水辺を活用した一体的な開発を提案します。図の青色のゾーンは、今後土浦市が温浴施設や展望台を開発する計画があるため、今回はレクリエーションゾーンとして位置付けました。私たちの提案では、このレクリエーションゾーンの他に、新たにさんぽゾーン(緑)と商業ゾーン(赤)という2つのゾーンで開発を行うことで、土浦駅東口から連続的な賑わいを創出します。

ⅰさんぽゾーン
現在すでに整備されている緑道に、市民自身が苗植えや収穫を体験できるレンコンビオトープを連続的に設置します。地元の小学校の授業の一環として、小学生やその親御さんを対象に地域の住民を巻き込んで苗植えや収穫をし、管理は地元の農家の方々の協力のもとで行います。霞ヶ浦の水辺に沿って、市民が育てるレンコンが配置された風景を創出することで、地域への愛着に繋げます。
ⅱ商業ゾーン
霞ヶ浦の風景を活かして、住民はもちろんのこと観光客にも土浦に愛着を持ってもらえるような賑わいづくりを行います。導入施設としては、住民と観光客の交流を促すコミュニティカフェや、地元の食材を使ったカフェやレストラン、土浦市や霞ヶ浦周辺の市のPRを行う物産館、地産地消のスーパーなどを配置します。

導入施設
・コミュニティカフェ
住民同士及び住民と観光客の交流を目的に、住民によるコミュニティカフェを設置します。カフェの運営者には、土浦に愛着を持ちコミュニティを大切に思う住民を数十名募集します。運営者となった住民には、通常のカフェの業務の他に、月に一度まちづくりに関するワークを行ったり、住民を巻き込んだイベントを行ったりなどしてカフェを活用していただきます。どのようなイベントを開くかなどのカフェの使用用途については、カフェの運営者が自由に決めることができ、市がそれをサポートする形をとります。これにより、住民や観光客にとって常におもてなしされる空間となり、コミュニティの活性化が図られます。さらに、住民の主体的なまちづくりへの参加も期待できます。

・物産館
物産館では、土浦市の物産だけでなく、霞ヶ浦周辺の市やりんりんロードで結ばれている筑波山周辺の市と広域連携を行い、各市の物産品を置くスペースやPRブースを設けます。サイクリング観光の拠点となる土浦駅に物産館をつくることで、観光客の消費単価額の増加や回遊性の向上が期待できます。土浦市以外のメリットとしても、旅の出発点となる土浦駅で、市の魅力を発信することで、足を運んでもらうきっかけになることや、帰りにお土産として市の物産を消費してもらう機会が増えるなどといったメリットが考えられます。実際に、桜川市とかすみがうら市にヒアリングを行ったところ、「広域的な観光の活性化が期待できる」ということで、自分たちの提案に賛同をいただくことができました。広域連携にあたっては、既存のプロジェクトである水郷筑波・サイクリングによるまちづくりプロジェクトを活用します。水郷筑波・サイクリングによるまちづくりプロジェクトは、サイクリングと各地域の多様な地域資源を結びつけることで、東京圏を中心に国内外から多くのサイクリストを含む観光客の誘客を図るとともに、訪れた方の地域での消費を促進する仕組みを構築することで、活力の維持と活性化した稼ぐ地域づくりを目的としています。現在連携している市町村は、茨城県、土浦市、石岡市、潮来市、稲敷市、かすみがうら市、阿見町、鹿嶋市、桜川市、行方市です。このプロジェクトを活用することによって、事業費の半分を地方創生推進交付金の補助で賄うことが可能となります。

・その他施設
カフェ、レストラン、スーパーを運営するテナントを運営会社が公募し、選出された出店者と定期建物賃貸借契約を締結して運営にあたっていただく、という形をとります。なお、レストランの外には菜園を設置してもらい、菜園で収穫された野菜・果物もメニューに活用される、という仕掛けを作ります。
事業の流れ
まず、土浦市が市民討議会などを開催し、無作為で抽出された住民に「霞浦のテラス」構想について意見を求めます。また、商工会や地元企業、金融機関にも意見を求めます。賛同が得られると判断されれば、土浦市・商工会・地元企業・金融機関などの様々な主体が出資して、まちづくり株式会社を設立します。また、土浦市は「霞浦のテラス」対象区画内の建物を解体し、公園として認定します。そして、コミュニティカフェと物産館は土浦市が、その他施設(カフェ2店舗・レストラン・スーパー)はまちづくり会社が費用を負担して、建設します。そして、市民討議会やワークショップを通じて積極的に事業に関わりたいとの意向をもった住民を中心として、コミュニティカフェや物産館のスタッフとして働いていただきます。なお、スタッフの住民には、給料として1コマ(4.5時間)ごとに1,000円分の報酬が支払われます。また、内装デザインや利用者へのサービス内容を含め、運営にはスタッフの住民の意向を可能な限り反映できるようにします。さらに、コミュニティカフェでの売り上げは市の基金に入り、スタッフの住民からの予算要求に応じて、コミュニティカフェの運営に還元できるような仕組みを構築します。物産館の売り上げについては、広域連携の一環で周辺自治体の特産品を販売しているため、土浦だけでなく特産品を提供していただけた地域にもメリットが行きわたるように、広域に還元できるような仕組みを構築します。なお、大規模改修時には市の予算が活用されます。一方、その他施設については、まちづくり株式会社の負担で設置した後に公募を行い、テナント事業者を募集します。事業者とまちづくり会社が定期建物賃貸借契約を締結した後、事業での売り上げは事業者に入る一方で、事業者は年度ごとにテナント料をまちづくり会社に支払う、という形をとります。
なお、この仕組みは滋賀県大津市「なぎさのテラス」の事例を参考にしているため、事業実施前に視察を行うなど連絡を取り合い、ノウハウを共有できるよう努力します。
3) 費用
対象地区の商業施設の運営は、主に運営会社が担います。運営会社は、市や商工会、地元企業、金融機関など様々な主体が出資しての設立を想定しています。土浦市は出資額の約20%を担い、支出は約960万円と想定されます。本事業において、土浦市は、対象用地の買収費用、用地内の既存建築物の解体費用、芝生・広場・ステージなどの整備費用、物産館・コミュニティカフェの建設費用を負担します。さらに、コミュニティカフェに関しては毎年人件費と運営費を負担し、物産館に関しては毎年運営費を負担します。
市は初期投資として、用地費5億7,948万円、解体費2億5,280万円、建設費1億1,000万円、整備費1億円の、計10億6,028万円を負担し、ランニングコストとして、人件費219万円、運営費500万円の、計719万円/年を負担すると試算されます。
4) 効果
土浦市は運営会社から、1年間で約552万円(630円/m² × 730m² × 12カ月)の土地の使用料を収入として得ます。経済面では、本事業で創出される建設費と飲食サービス売上、食料品売上をもとに、経済波及効果を測定しました。結果、初年度には約13億700万円の経済波及効果が生まれると試算されます。その他の効果としては、西側の開発と合わせた中心市街地の面的な賑わいの創出や、風景を介した市民の街への愛着の創出が考えられます。観光に対しては、コミュニティカフェをきっかけに、観光客に対する住民の受け入れ態勢の強化や、物産館による観光客の消費単価額の上昇と回遊性の向上が効果として期待されます。

動画
霞浦のテラスのイメージを分かりやすく伝えるために、LUMIONにてイメージ動画(36秒間)を作成しました。
最終発表会でも会場の皆様にご覧いただき、好評を博しました。
ぜひご覧ください。