令和元年度 都市計画マスタープラン実習 2班

コンパクトシティ構想

 土浦市では、人口減少と高齢化の中で住宅や店舗等の拡散による低密度な市街地の形成、それによる財政圧迫やモータリゼーションの進行が起きています。こうした状況下で持続可能な都市を形成し、人と土浦を「くらしやすさ」でつなぐために、都市機能と居住を各拠点に集約・誘導し、自家用車を必要としない公共交通ネットワークを構築したコンパクトシティの推進によって、世代を問わず住民が暮らしやすい都市を目指します。都市機能を誘導する拠点として土浦駅・荒川沖駅・神立駅周辺を設定し、居住を誘導する拠点として先述の3つに加えておおつ野地区・藤沢地区を設定し、図のような土浦市に隣接する都市も含めたネットワークを構築します。




1. 移住促進事業

1) 背景
 現在、土浦市では「第二期土浦市中心市街地活性化基本計画」の一環として「まちなか定住促進事業」を実施しており、土浦市外から土浦駅周辺の中心市街地エリア内の民間賃貸住宅への住み替えや、住宅の購入・新築、空きビルの住宅転用に対して補助金を出しています。この事業を活用し、土浦市外からの移住者だけでなく、市内間の移住に対しても補助を行うことで居住の集約が促進されると考えられます。

2) 概要
 新たに土浦市外あるいは今回設定した拠点地域外から拠点地域内へ移住する新婚・子育て世帯に対して、以下の通り資金的援助を行います。



※新婚世帯:申請時点で婚姻後5年以内かつ夫婦いずれも40歳未満であること。
※子育て世帯:申請時点で18歳未満の子と同居し扶養していること。

3) 費用
 拠点への移住支援における費用については、国から、社会資本整備総合交付金の基幹事業である都市再生整備計画事業の一環として補助を得ることができます。さらに、人口密度を維持するための都市再構築戦略事業であれば、年間で国から費用の1/2、最大2,000万円までの補助を見込むことができます(土浦市役所ヒアリングより)。したがって、事業全体としての年間予算は最大4,000万円(うち国からの補助金2,000万円)が想定されます。

4) 効果
 また、新婚・子育て世帯に対する居住誘導施策によって居住移動の促進ないしは拠点地域の人口密度の維持を見込むことができます。これによって、拠点地域の住民に対する生活サービスの質を維持することが期待されます。また、現在転出超過傾向にある新婚・子育て世帯の社会減抑制にも繋がると考えられます。


2. 公共施設再編

1) 背景
 コンパクトシティを進めるうえで、都市機能を拠点内に誘導する必要があります。そのため、拠点外に立地している公共施設については、拠点内の同様の施設との統合が考えられます。
 また、土浦市の公共施設が続々と更新時期を迎え、投資的経費の増大が市の財政を圧迫することが懸念されています。土浦市も、「公共施設等総合管理計画」において、施設総量を40年間で30%削減することを目標として掲げるなど、公共施設を大幅に削減する姿勢を見せています。

2) 概要
 都市機能を各拠点に誘導するにあたり、拠点区域外に立地する公共施設を中心に再編を行います。稼働率、築年数、民営化可能性などを考慮し、再編が住民に与える影響が小さいと考えられる17施設を選出しました。



3) 費用
 公共施設再編にあたり、既存施設の解体費用が生じます。解体費用を25,000円/㎡とすると、延床面積ベースで411,446,500円の解体費用が見込まれます。また、平成26年度の収入をもとに試算すると、対象施設があげる収入約2,600万円/年が減少すると想定されます。



4) 効果
 公共施設の再編によって、更新費・維持管理費・事業運営費が削減可能です。対象17施設を削減した場合、全ての施設を市が管理し続けた場合と比べ、2040年までに(60年更新とした場合)更新費約38億円の削減が見込まれます。また、平成26年度の維持管理費・事業運営費をもとに試算すると、維持管理費5,800万円/年、事業運営費約1億3,000万円/年の削減が想定されます。



3. コミュニティサイクル

1) 背景
 土浦駅、神立駅、荒川沖駅周辺は土浦の都市拠点として市内外を問わず多くの人の利用が想定されます。その際に決められたルート、目的地しか通ることの出来ない路線バスなどでは、人々の需要に応えきることが難しい現状があります。また、徒歩による移動はあまり長距離になると利便性という面で好ましくなく、これらの要因は拠点中心部でも車利用を助長することに繋がりかねません。そうした中で、土浦駅周辺を始めとして近年自転車道の整備なども計画され進んでいますが、あくまで自転車目的の観光者に向けた取り組みが主流となっています。

2) 概要
 土浦市内にコミュニティサイクルを導入します。コミュニティサイクルとは一つのサイクルポートを中心に往復利用を想定した一般的なレンタサイクルとは異なり、複数のサイクルポートを設置することで、ポートの設置範囲であれば乗り捨て感覚での自由な移動を可能とする交通システムです。コミュニティサイクルの導入により、観光客だけでなく市民の面的な移動を助け、生活交通の利便性向上に繋がります。  導入に際し、土浦駅周辺への先進的な導入を行い、市民の反応や普及具合を確認しつつ、最終的には神立駅、荒川沖駅といった都市拠点中心部への導入を目指します。

<土浦駅周辺での導入計画概要>
 土浦駅周辺におけるコミュニティサイクル導入案は以下の通りです。

・設置ポート数:16箇所
メインポート4箇所(20台収容可能)
サブポート12箇所(10台収容可能)
※主要な施設などの都市機能近辺及び主要な交差点やバス停付近をポート設置場所として設定。ポート間の距離は利便性の面から望ましいとされる150mで設定。

・車両導入数:150台

・利用料金
1回使用:100円(30分以内)以降60分ごと+100円
1日利用:300円
1ヶ月利用:1,200円
1年利用:8,400円
※後述するMaaSでの月額定額パッケージでは月額500円



3) 費用
 土浦駅周辺への導入に対する費用を算出します。ポート設置費用やシステム導入費といった初期費用は過去の事例と本事業の規模から1億円を想定します。運営費用は放置自転車を利用することで、人件費や車両整備費などの面で従来よりも大幅に抑えることが可能となります。その上で過去の事例より、年間の運営費として人件費1,700万円、整備・点検費500万円、光熱費、消耗品費等800万円の計3,000万円を想定しています(従来の同規模コミュニティサイクルではおよそ4,000万円/年)。

4) 効果
 コミュニティサイクルのみで採算を取ることは難しく、コミュニティバス等と同様に市の助成金を前提とした事業になることが想定されます。一方で、コミュニティサイクル単体の利用料金、MaaSにおける利用料金、広告収入などにより一定の収入は見込め、現状の自転車観光産業や他の公共交通、商業と組み合わせた波及効果も期待されるため、財政的にも持続性は十分にあると考えられます。また、事業概要でも述べた通り、拠点内における面的な自由移動を可能とし、市民の生活利便性向上及び拠点内の魅力創出に繋がり、自家用車利用の抑制も期待されます。


4. MaaS

1) 背景
 コンパクトシティにおいて世代や特性を問わず、住民が「くらしやすさ」の恩恵を受けるには自家用車に依存しない公共交通の整備が必要不可欠です。都市拠点内でのさらなる利便性の向上及び拠点外におけるサービス機能の維持を公共交通で図ることにより、「くらしやすさ」で繋がる土浦を目指します。

2) 概要
〇IKIMaaS・KIMaaS
 MaaS(Mobility as a Service)とは自家用車以外のモビリティ(移動)を1つのサービスとして繋ぐ新しい移動の形であり、近年日本でも注目が集まっています。IKIMaaS・KIMaaSとは「行き・来」+MaaSをコンセプトとした、土浦発の新たな交通サービスです。それぞれアプリを媒介としてサービスを展開します。

・IKIMaaS
 土浦市内におけるコミュニティサイクル、路線バス、電車の3つの公共交通を組み合わせた、住民自らが目的地に「行く」交通サービスです。特徴としては、アプリによる目的地までの経路検索と移動手段の指定による事前予約及び一括決済、3つのパッケージプランによる公共交通の月額定額化、また、目的地に応じたサービスの展開があります。パッケージプランは下の図の通りです。目的地に応じたサービスとしては移動手段の予約・決済と同時に、飲食店の場合、席及び飲食内容の予約・決済、アルカス土浦のような図書館では、事前に借りたい本を指定することにより、到着次第待つことなくサービスを受けることができます。これらのように、定時制を有する公共交通だからこそのサービスを展開していきます。



 各公共交通の説明と、月額定額の値段設定は以下の通りです。値段設定としては、それぞれの公共交通における現在の最低運賃で利用するよりも安く設定することで、全ての市民がIKIMaaS導入の恩恵を受けることが出来るようにします。また、持続性の面から市の財政にとっても無理のない値段設定を前提とします。

「コミュニティサイクル」
 前述した本マスタープランで拠点部中心に導入予定のコミュニティサイクルです。IKIMaaSにおいては全てのパッケージに導入することで、電車や路線バスからの乗り換えや、目的地までのラストワンマイルに対応する交通手段としての利用を推進します。また、月額パッケージに組み込むことによりコミュニティサイクルにおける安定した収入も見込め、持続的な運営を可能とします。値段設定はすべてのパッケージで500円を想定しています。

「路線バス」
 土浦市内で運行する路線バスを対象とします。市内から利用し市外に出た際には、通常運賃における合計金額と市内までの金額の差額が運賃として別途請求されます。市外からの利用も同様です。値段設定は現状の最低運賃として関鉄バスを最低運賃170円で平日利用する状況を想定し、その際の月合計金額よりも1割安く設定しています。
 [170円 × 2回(往復分) × 20日 × 0.9 = 6,120円/月]

「電車」
 月額パッケージは神立駅-荒川沖駅間を対象とします。運賃のシステムは路線バスと同様です。値段設定に関しても路線バスと同様です。電車においては土浦駅から一区間分の月定期代5,980円を現状の最低運賃として設定します。
 [5,980円 × 0.9 = 5,382 ≒ 5,380円/月]


・KIMaaS
 コンパクトシティの過程においてサービス水準の低下の可能性がある拠点外居住者に向けた「来てもらう」交通サービスです。内容としては、診療空間を備えた車両で訪問することでオンライン診療を可能とするヘルスケアモビリティの導入、食品を始めとした生活必需品の配送サービス、デマンドタクシーの基本乗り放題サービスがあり、これらを月額定額のパッケージで提供します。これらのサービスにより拠点中心部へのアクセスを保ちつつ、中心部へ行くことなく生活に必要なサービスを享受することが可能となります。パッケージプランは下の図の通りです。各交通サービスの説明と、月額定額の値段設定は以下の通りです。値段設定においては、拠点外居住者が拠点中心部に行く労力、費用等を考慮した際に、それらよりもKIMaaS利用のほうが安価かつ楽に済むような設定を行っています。



「ヘルスケアモビリティ」
 診療機能を持つ車両に看護師も同行し訪問することで、自宅に居ながら、機材による検査を受け、オンラインによる医師の診療を受けることが可能となります。利用は週1回までとなります。値段設定は現行の保険制度などを含め、下記のように算出しています。
[在宅患者訪問看護・指導科580点 × 10円 × 0.3(保険3割負担)× 1日 × 4週 = 6,960円
1回の診療代1,500円(1,100円+特別交通費400円)× 4回 = 6,000円
→12,960円/月]

「配送サービス」
 サービスとしては食料品など生活用品の宅配システムと送料の月額定額化です。既存のECサイトなども組み合わせ、1日1回までは送料を気にせず拠点外居住者は生活用品を宅配で注文することが出来ます。これにより拠点内に行かずとも生活用品を楽かつ安価に揃えることが出来ます。値段設定は拠点外から拠点中心部までを片道10分と仮定した上で時間や労力を費用化し、拠点外居住屋が自力で拠点中心部に行くよりも安価に済むよう、下記の通り算出しています。
[(往復20分+現地10分)×15日÷60分=7.5時間×時給900円=6,750円
交通費:50km/h×20分÷燃費21km/L×ガソリン代144円/L×15日=1,714円
→8,464円→8,000円/月]

「デマンドタクシー」
 現行の乗り合いタクシーをもとに、拠点外居住者においては年齢制限などなく誰でも利用できるようにします。月額内における月の最大利用回数は16回とします。値段設定は現在の乗り合いタクシーにおける需要をもとに、市の財政を圧迫しないことも前提に、下記の通り算出しています。
[現在利用者1人年間20回程度 → 600円 × 20 = 12,000円 ÷ 12ヶ月 = 1,000円/月
→拠点外市民へのサービス+利用対象者増加+乗り放題+市の負担あまり増やせないといった各種考慮すべき事項
→2000円/月(1500人の利用者想定で現在の市の負担額とさほど変わらなく済む)]

3) 費用
・MaaSシステム導入費
 現在行われているシステムの配布や国の「新モビリティサービス推進事業」による補助金(補助率は対象経費の半分以内で上限5,000万円)によって、従来よりも低コストでの導入が可能となります。同時に、これまでにないシステムの構築も必要となるため、最終的な費用としては2~3億円が想定されます。

・KIMaaS費用
「ヘルスケアモビリティ」
 車両1台の値段を車両価格330万円+各種診療機材の1,000万円と想定し、3台を導入した場合の費用3,000万円が初期費用としてかかります。

「配送サービス」
 運搬車両購入費として1台500万円×5台を想定した2,500万円の初期費用がかかります。その後の運営は民間に委託します。

「デマンドタクシー」
 利用者の増加に合わせたサービス拡大により費用の増加も考えられ、平成27年度における乗り合いタクシー費用の約2倍である年間5,000万円の運営費を想定しています。

4) 効果
・IKIMaaS
 利用者においては、自家用車の維持費用が年間約32万円の中、IKIMaaSの利用に変えることで年間約18万円の支出削減が見込まれます。また市としても、公共交通の普及や目的地に応じたサービス展開により、これまでにはなかった経済効果と市全体の活性化が見込まれます。

・KIMaaS
 利用者においては、拠点内に毎回出向くよりも安価かつ楽に生活に必要なサービスを自家用車を必要とせず受けることが出来ます。また市としては、拠点外からそれぞれの事情によって移動することの出来ない住民へのサービスを提供することで、コンパクトシティ形成時に問題となる拠点外居住者におけるサービス低下問題を防ぐことに繋がります。

作成者

令和元年度
都市計画マスタープラン実習
2班

安藤慎悟(班長)
有水瑛美
伊藤奎政
伊藤彩公子
奥村蒼
由井貴大
下津大輔(TA)