2011年度都市計画実習 社会的ジレンマ班
トップページはじめに風評被害と社会的ジレンマ予備調査アンケート分析・考察@リスクコミュニケーション分析・考察Aおわりに

予備調査
 研究に入る前に放射能に関する予備知識をつける。放射線、放射能や放射性物質の違いや内部被ばくと外部被ばくの違いなどの放射線とそれに関する部分の知識の習得を目指した。また、テレビや新聞などメディアを通じた住民への情報伝達のされ方や行政の行動に対しても調べ対応の確認や評価を行った。そのほかに風評被害とはどういうことをいうのかを理解し、つくば市(茨城県)の農業の現状を把握する。

東海村JCO臨界事故
 1999年9月30日、茨城県東海村で臨海事故が発生した。事故現場となったのはJCO(核燃料加工会社)で、作業員2人が死亡、また2000年4月までに667人が被曝したと確認されている。「健康や環境に影響を及ぼす恐れはない」と安全宣言が出されたのは事故発生から2ヶ月後のことであった。また、その後の影響として干し芋や納豆など茨城県の特産品に対する“風評被害”が問題となった。特に干し芋は東海村と隣のひたちなか市で全国シェアの約8割を占めている。干し芋の原料となるサツマイモは秋に収穫し、一度貯蔵される。その後12月後半から天日干しが始まり、翌年の2月に完成する。つまり、買い控えが問題となった干し芋は事故発生以前に作られたものであり、放射線の影響を受けたとは考えにくいのである。よって、この事故において“風評被害”は実際に起きていたと言える。

インタビュー
・JAつくば 飯竹忠さん
茨城県産の農作物の価格が軒並み下落した。被害の過大な報道をすることはよくないと懸念。外国人農業従事者は自分の国に帰ってしまった。近隣各国の日本に対するイメージダウンがあったり、千葉県や東京都など県外ではいまだに買い控えがあったりと深刻。チェルノブイリの死刑囚投入を例に原発問題の収束には機械だけではなく人的投入の必要性を提案。

・市村典子さん
農業で野菜ソムリエの資格を持っていて、生産者とのつながりが強い。また東海村出身であることから放射線や原発に関する知識は人一倍豊富。過敏な報道、各紙・各局バラバラの報道や単位が統一していないことにわかりにくさを感じている。母乳からの放射性物質の検出に強い不安を抱いている。子供や若者には放射性物質を含む農作物を極力食べないようにして欲しい。食材を提供しているレストランから東京都から観光客を迎えるイベントがキャンセルの続出によりイベントが中止となった。『味で産地を選んでほしい!』

・農業法人つくばの風 松岡尚孝さん
取引や売り上げの減少が実際にある。自社の畑で採れた農作物や土壌について独自に検査を行っている。消費者や取引先に測定値などに関する情報を発信するといった取り組みをしている。実際に放射性物質が検出されているのは事実であるから、安全ということはいえない。消費者の方々には安全性について自身でしっかり判断してほしいと考えている。また、農家にできることは判断基準となるような情報を発信していくことしかできないと考えている。

風評被害の再定義
・予備調査、農家の方へのインタビューを経て 
福島第一原発事故による放射能汚染では“風評被害”と呼ばれているものの一部に実被害の可能性が含まれており、また現在流通している農作物に関しても確実に安全と言い切ることができない現状がある。その一方で、JCO臨海事故では明らかな“風評被害”が見られた。つまり、この2つの問題には確実に“風評被害”と言い切れるのか、という点で違いがあると言える。ここで私たちは、消費者が危険だと判断し、慎重な買い控えすることに対して、一概に“風評被害”と呼ぶことに疑問を抱いた。そこで今回の研究を進めていく上で、“風評被害”について再度定義する必要があるのではないかと考えた。

・風評被害の再定義
 今回の研究を進めていく上で私たちは
 放射性物質などに対する知識なしに、主体的な判断をせずに買い控えることに対し
“風評被害”であると独自に再定義した。

研究目的の再設定
 当初私たちは“風評被害”に対して適切なコミュニケーションを行い、消費者の買い控え行動を防ぐことを目的としていた。しかし、農家の方へのインタビュー調査や学生へのアンケート結果から、最終目的そのものについても変更する必要があるのではないかと考えた。

農家インタビューから
放射性物質の影響を受けた可能性のある農作物を買うか、買わないかは個人で判断するべきであり、買うことを強制することはできない
学生アンケートから
実際に買い控えをしている人は少数であった
安全性を判断する情報が少ないと感じる人が比較的多い

ジレンマ班としてできることとは何かを考え、
2つの最終目標を以下のとおり設定した。

【最終目的】
・消費者に正しい情報を与え、リスク認知を低減させる
・消費者が情報に流されず、主体的に判断できるような手助けをする