君たちはどう学ぶか

1 調査方法

 本調査ではより多方向からの分析を可能にするため、筑波大学の学生のアンケート、教員へのヒアリング、そして他の教育機関での先行事例やデータ、という3者を比較しながら考察を進めることとした。

1.1 学生・教員への調査

 本調査ではより多方向からの分析を可能にするため、筑波大学の学生のアンケート、教員へのヒアリング、そして他の教育機関での先行事例やデータ、という3者を比較しながら考察を進めることとした。

2 調査結果

2.1 文献調査

 本調査ではより多方向からの分析を可能にするため、筑波大学の学生のアンケート、教員へのヒアリング、そして他の教育機関での先行事例やデータ、という3者を比較しながら考察を進めることとした。

2.1.1 ブレンド型授業について

 始めに、オンライン授業と実空間授業を組み合わせる手法として、近年国内外で注目されている「ブレンド型授業」について文献調査を行った。ブレンド型授業とは対面授業にオンライン教育を取り入れる形式のことで、予習や復習にIT技術を活用する型と教室での講義をオンラインで代替し教室の役割を縮小する型の2つが主流である。そして複数の文献に当たってみたところ、このブレンド型授業には全体としての意欲、出席率、学力の向上が見られたケースが多いが、他方では学生と教員の負担の増大や格差の広がりなどの問題点も抱えていることが浮き彫りとなった。今回はこのブレンド型授業をベースに提案を考察するが、これについての先行事例や文献調査の内容に対してはいくつかの疑問も浮上した。その中でもとりわけ大きかったものが、先例の結果が筑波大学でも当てはまりまた応用ができるのかということと、見落とされている観点はないのかということである。この調査からはやはり筑波大学の実情に即した精度の高い授業モデルの構築のためには、総合的な深いアプローチが必要であると言える。

2.1.2 学校教育法

 学校教育法第92条第5項では「教育は基本的に学部の専権事項である」と規定されており、また「個々の授業は個々の教員に帰属し、教員自身の専門性・信念に基づいて行われる」ものとされている。したがって授業の特性などにより様々な授業形式を使い分けることが可能である。

2.2 教員へのヒアリング調査の概要

 教員へのヒアリングでは同一科目について、昨年度までの実空間授業と今年度のオンライン授業を様々な観点から比較してもらった。下の図では各教科で教員の感じている「提供している内容のレベル」、雑談やインタラクティブな授業から生まれる「授業内容以外の知識」の量的・質的変化の評価を示した。またオンライン授業のメリット・デメリットの評価なども含め総合的に見た教員の実感、オンライン授業を今後も活用していきたいかについても質問し、その回答を示した。簡単のため変化を表す矢印と〇×を用いた。 図より、「知識授与型」「双方向知識授与型」の科目においてはどの項目もあまり変化がないことがわかる。またこれらの科目の担当教員は今学期以降もオンライン授業を活用したいと考えている。「情報更新型」に分類された科目においては、その時々の学生に合わせインタラクティブな授業が展開されていることから、すべての項目において実空間には劣るという結果となった。土地利用計画については授業方針の変更により同様の比較ができなかった。

2.3 学生へのアンケートの概要

 学生へのアンケートでは、各科目において昨年度の実空間での受講者と今年度のオンラインでの受講者に同一の質問をし、その評価についてt検定を行った。図1に各項目についての検定結果を示した。また視覚的に科目間での変化をわかりやすくするため図2を示した。また、この検定は「毎年の受講生は同質である」という仮定の下で行っている。検定結果の解釈については、各科目の詳細結果にて記述する。(下図は左から図1、図2である)

2.4 各科目の比較

2.4.1 政策公共事業評価

 都市計画主専攻の科目で、主に政策評価の手法に関する知識授与型の授業である。オンライン授業を通して、先生としては、伝えられる内容に変化はなく、官庁のHP紹介などはむしろ丁寧にできていると感じていた。しかし昨年度の実空間での受講生に比べ、今年度の受講生の内容理解度は有意に低くなっている。これは先生の「オンライン授業では漫然と動画を眺めて勉強した気になっている可能性がある」という懸念が顕著に表れているからだと考えられる。このことからやはり実空間の方が学生にとって良いという事ができる。また先生は知識伝達の比重が大きいときやHPを紹介したいとき、出張に行きたいときなどにオンライン授業を活用したいと仰っていた。これらのことから、知識授与型の「政策公共事業評価」は基本的には実空間で授業を行い、内容や状況に応じてオンライン授業を取り入れていく形がふさわしいと考えた。

2.4.2 ファイナンス

経営工学主専攻の科目で、企業財務と金融工学に関する知識授与型の授業である。先生はオンラインで提供している授業は内容・質ともに実空間授業と変わらないと感じており、学生アンケートからも有意な変化が見られなかった。また、オンライン授業によって出張を入れやすくなること、授業の為に早起きする必要がないことは利点と考えているが、この授業では学生の評価はテストでしか測れないと仰っていた。これらのことから知識授与型の「ファイナンス」では、授業はオンライン、テストは実空間で行うことが望ましいと考えた。

2.4.3 経済行動論

 社会経済システム主専攻の科目で、経済行動に心理学的側面からアプローチする知識授与型の授業である。受講生が200人を超える典型的な大教室授業で、学生同士の交流を持たせる授業になっている。先生はオンライン授業では伝えられる教科書的な情報量には変化がないが、雑談ができなくなったことで学生の興味を引くことが難しくなったと感じていた。しかし学生アンケートの結果から、学生の理解度は昨年度と比べて有意に高くなっている。これについて先生は、授業後に小テストを課しているからだろうと考察されていた。雑談は授業内容より身になり学生も覚えていることであるが、オンライン授業では雑談ができないこと、熱意が伝わらないことなどはデメリットと感じているが、東京からの通勤をしなくていいことや病気・忌引き等で学生・教員ともに欠席の必要がないこと、teamsの活用により学生・教員間の連絡のハードルが下がっていることをメリットと感じられており、どちらかといえばオンライン授業の継続を希望されていた。

2.4.4 会計と経営

 1年生向けの経営工学主専攻の専門導入科目で、会計と経営の基礎知識を習得する知識授与型の授業である。実空間では大講義室で劇場型の授業が行われている。オンライン授業では雑談も動画に入れているので提供している内容は変わらないが質は落ちているかもしれないと感じられているようだ。しかし、明確なガイドラインを定めた予習・復習を学生に課すことによって補っていると仰っていた。学生のアンケートからはコミュニケーションによる内容理解・学習意欲の項目は有意に下がっているが、これは音声付きpptでは劇場型の授業よりもコミュニケーションを肌で感じにくいことが要因の1つだと考えられる。先生は当初のオンライン授業では学習効果格差が生じるという予想に反して実際には提出物の点数が上がっていることや、現在のものよりさらに良いオンライン授業を提供出来る自信があるということを仰っていた。また100%実空間か100%オンラインでなければ効率が悪く、来年も今年と同じ形式のオンライン授業を強く希望されていた。

2.4.5 都市計画原論

 都市計画主専攻の専門基礎科目で、社会の動きに敏感になってもらうことを狙いとした、情報更新型の授業である。一昨年までは1年生向けの科目だったが、カリキュラム変更により今年度からは2年生向けになっている。この科目では、学生からの評価において有意な変化は見られなかった。このことだけを見ればオンラインと実空間のどちらでも構わないように思われる。しかし、先生の実感としては与えられる内容は量・質ともに減少しており、オンラインでは一期一会の生の学びがないことが欠点であると仰っていた。学生の評価に変化が見られないことについては、学生は与えられたものしか評価できないからであると考察されていた。また学生間の学習格差が生じているであろうことを確認すらできないのも問題であると仰っていた。これらのことから双方向で行われる情報更新型の「都市計画原論」は実空間授業を行うべき科目であることが分かった。

2.4.6 土地利用計画

 都市計画主専攻の3年生向けで、国家レベルから街区レベルまでの土地利用の制度を学ぶ情報更新型の科目である。カリキュラム変更により実空間での授業のデータが集まらず、学生の調査は今年度のもののみになっている。3年生向けの専門科目ということもあるが、授業と課題による内容理解、総合的な充実度という項目では、調査した6科目中でオンライン・実空間に関わらず最も高い値を示している。また1対1でのきめ細かなフィードバックの実践により、コミュニケーションによる内容理解の促進や学習意欲向上の項目も非常に高い値となった。先生へのヒアリングでは、現在は動画で制度を学んで自分で課題に取り組むだけのところを、ディスカッションを取り入れて同じ制度に対する様々な視点での捉え方を共有する機会を設けたいと仰っていた。「土地利用計画」においてはオンライン授業で制度を学び課題に取り組んだ後、各内容について実空間でのディスカッションを取り入れることがより質の高い学びにつながると考えられる。これらのことから、この科目ではブレンド型授業が活用できることがわかった。