事前調査として,以下の二つのことを行った.
以下の図1がKJ法によりCOVID-19下の災害時避難の問題を整理した図である.
図1で発見した主要な課題を時系列ごとに述べる.
まず,災害が発生する前に考えられる課題は,平時から備えておくべきもの,住民同士や地域全体で迅速な避難ができるための心構え・方法などが不明確であることが挙げられる.
災害発生の時点では,避難所での密集を恐れ希望していても思うように避難できない状況が想定でき,適切な避難行動を瞬時に判断しにくい.内閣府公表の自治体避難所運営における方針では,安全な友人宅への避難や車中泊などを含めた分散型・マルチ避難による対策を呼び掛けている.だが,住民としてはいざ避難する際,事前に参考にできる具体的な避難基準が示されないと安全な避難行動が難しいのではないか,という点も重要な課題である.
避難後に考えられる課題として,3密を回避した避難所配置,例えば身体的距離を維持した生活環境や物資配給方法および体調不良者が発生した際の隔離スペースの確保等の避難所内における問題が目立つ.感染症予防と安全な災害避難の双方のために必要な支援物資に,避難後もアクセス可能かどうかについても考慮するべき問題である.ここでいう支援物資というのは,例えば,避難所用のマスクや体温計等の医療物品や身体的距離を置いた避難所内配置に必要な仕切り等が考えられる.また,通常時の自然災害後は,全国のみならず海外からの支援ボランティアや防災関係に詳しい職員の役割は大きい.しかし,COVID-19のような感染症下で想定されるのは,感染拡大を懸念する中でこのような外部支援者を自由に受け入れることが難しいという課題である.
全体的に,自治体が各地域内で自ら避難者の管理を行える体制がどこまで整っているか,疑問が残る.さらに,災害への平時の備えが難しいと思われる「要配慮者」の円滑な避難が行えるかという問題も考えられる.
ここで,第3章のKJ法によるグルーピング図(図1)を通して挙げられた,住民の立場からのCOVID-19下の避難時の課題を「住民ニーズ」と呼ぶこととする.これに対して,COVID-19下の避難前及び避難時に行政が住民に対して行うことができる情報伝達や支援,施設の運営管理のことを「行政サプライ」と呼ぶこととする.
KJ法による課題整理を行った際に,KJ法で列挙した住民ニーズを果たして行政が実際に対応できているかという疑問を持った.そこで,行政サプライには何が挙げられるかを把握し,住民ニーズと行政サプライが対応する項目を抽出する必要があると考えた.
住民ニーズに関しては防災科研が収集したCOVID-19下に関する自治体の情報[6]を参照し,KJ法だけでは不足していた課題を補い,より内容を深めた.そして,再分類し以下の11の大項目に分類した.
1.平時の備え | 5.車中泊 | 9.医療資源の不足 |
2.避難判断 | 6.避難所 | 10.外部支援の不足 |
3.共助 | 7.配給 | 11.避難弱者の避難 |
4.在宅避難 | 8.支援物資の不足 |
行政サプライは人と防災未来センターが指定した事前準備チェックリスト[5]を参照し,以下の8つの大項目に分けて分類した.
1.資機材の事前の調達 | 5.有症状者等の避難先の整理 |
2.安全管理 | 6.避難所開設 |
3.合理的配慮 | 7.長期の避難生活 |
4.関係機関への事前調整 | 8.避難所の閉鎖 |
表3において横軸が行政サプライ,縦軸が住民ニーズを表しており,対応する関係の箇所は黄色に着色されている.