調査結果・考察

仮説1

公的自己意識2)(以下、人目を気にする度合いとする)の高い人ほど「服装の規範」と服装許容度3)(以下、「『着ていけるか』」)の乖離(以下、ズレ4)とする)は小さくなる。 人目を気にする度合いの高い人は大学に行くのにスウェット・ジャージでもまあいっか、と思うことは少ないのではないかと考えた。アンケート項目より通学手段別に人目を気にする度合いとズレの大きさの間に相関があるかを検証する。

注2) 公的自己意識:特に自己の服装や髪型など他者が観察しうる自己の側面に注意を向ける意識※3
注3)服装許容度:その服を着ることができるかの度合い
注4)ズレ:「着ていけるか」と「服装の規範」 の差

仮説1の検証

この検証では、人目を気にする度合いが高いグループと低い人のグループに分けて、交通手段と服装ごとにその差の平均値をとり、2つのグループでt検定を行う。これによりジャージ・スウェットで学校に来ることをふさわしくないと考えているが実際には着用してしまう、というジレンマを引き起こしている原因が、人目を気にする度合いであると解明することができると考えた。
分析の結果、「服装の規範」と「着ていけるか」のズレの大きさを縦軸にとり、自転車、徒歩、クルマ、バス、電車の順に、ジャージ・スウェットを着用してその交通手段に乗ることがよりふさわしくないと考えられていることが分かった。このことにより、上述の順に、服装の規範が高くなっていくということが検証された。

仮説2

「服装の規範」と「着ていけるか」のズレは交通手段によって異なり、自転車が最も大きく、徒歩、クルマ、バス、電車の順に小さくなる。 仮説2は仮説1に基づくことで導かれる。他者に見られる要素が強い公共交通である電車、バスは「服装の規範」が高くなると考えられる。特に電車はより人目につくということでバスより高くなると想定した。また、自転車は人目につくという点以外にも、運動要素を伴う交通手段であり、汚れやすい等の要素も含んでいるので、これらを考慮して「服装の規範」は一番低くなると考えた。徒歩は自転車と同等の要素を含むが、運動要素も自転車よりは低いので、この位置とした。クルマは運動を伴うものではないが、公共交通ではないので、徒歩より高く、バスよりは低く設定した。 「今日は電車で登校するから普段着を着よう」というように人目につく交通手段(電車、バスなどの公共交通)を利用するときの方が「服装の規範」と「着ていけるか」のズレが小さくなるのではないかと考えた。従って、「服装の規範」と「着ていけるか」のズレは自転車、徒歩、クルマ、バス、電車の順に小さくなるのではないかと考えられる。

仮説2の検証

仮説2を検証するために、一元配置分散分析を用いる。一元配置分散分析とは、3つ以上の母集団についての平均値に有意差があるかどうかを調べる方法である。服装別にデータを3つに分け、それぞれのデータについて分析をする。この分析の帰無仮説は「5つの交通手段の「服装の規範」と「着ていけるか」のズレの平均値に差はない」である。帰無仮説が棄却された場合、「服装の規範」と「着ていけるか」のズレに対する交通手段による効果が有意となる。よって、ズレの平均値の違いは交通手段の違いによるものといえるので、仮説2を検証することができる。
検証の結果、統計的有意が示されなかったため、そのズレは交通手段によらず、「服装の規範」と「着ていけるか」のズレは交通手段によって異なるという仮説は棄却された。 ただし、それぞれの交通手段において統計的有意は得られなかったものの、公共交通(バス、電車)とその他の交通手段(自転車、徒歩、クルマ)で分け、t検定を行った結果、統計的有意が示されたため、「服装の規範」と「着ていけるか」とのズレは、公共交通の方がその他の交通手段より小さいことが示された。

仮説3

「服装の規範」と「着ていけるか」のズレが大きい学生が多い大学ほど、実際に学生のジャージ・スウェット率が高くなる。 ここで、ジャージ・スウェット率は、実際にジャージ・スウェットで大学に来ている学生の割合のことである。つまり、大学生アンケートで調査する「服装の規範」と「着ていけるか」のズレが、実際に学生の服装選びに表れているのかを観察調査を用いて調査する。

仮説3の検証

各大学の交通手段ごとの「服装の規範」と「着ていけるか」のズレの合計値と各大学のジャージ・スウェット率には図6のように正の相関が見られ、仮説3は検証された。
つまり、服装選びの理想と現実のズレが大きい学生が多い大学ほど、学生のジャージ・スウェットの割合が高いことが言える。

仮説4

ジャージ・スウェット率が高い大学ほど、高校生からの大学のイメージは悪くなる。谷口らの研究により、ジャージ・スウェットでの登校は、大学の景観に悪影響を及ぼすことが示されており、大学の景観のイメージは直接、大学のイメージに置き換えられるのではないかと考えた。そこで、大学のイメージを最も強く描いていると思われる高校生を対象に大学のイメージをアンケート調査し、仮説3で検証される実際にジャージ・スウェットで大学に来ている学生の割合と高校生からの大学のイメージに関係性があるのかを調査する。

仮説4の検証

t検定で分析を行ったところ、ジャージ・スウェットと普段着では普段着に対するイメージの平均値の方が高く、ジャージ・スウェットに対するイメージの平均値の方は低く、統計的有意な結果が得られたため、仮説4は検証された。 つまり、ジャージ・スウェットを着ている学生が多いと高校生からの大学イメージに悪影響を及ぼすことが検証された。これは、イメージの悪い大学への進学希望者が減少する可能性が考えられる。
すなわち、大学生個人のジャージ・スウェットを着ることに対する「まあいっか」と思う程度が高校生の大学選択に影響する可能性があることが考えられる。