都市計画実習2015 防災班

仮説の設定
施設部へのヒアリング調査の結果から、水たまりができないように道路の舗装などを行うハード面での対策は、予算が少ないため難しいということが分かった。
しかし、その少ない予算の中でできるハード対策はないか、あるいはそもそも本当に予算が足りていないのかを調査する必要があると考え、仮説1を設定した。
また、ハード面での対策の難しさから、水たまりがあったとしても泥はね被害に遭わずに済むよう加害者側・被害者側双方の意識を変えていく、
ソフト面によるアプローチから泥はね問題を解決することに本研究の主眼を置くこととなった。
ソフト面から泥はね問題解決の糸口を探るために重要となるポイントは、「被害者が泥はねを受けてしまう理由」「加害者が泥はねをしてしまう理由」の二点である。
これらを具体的に明らかにするため、プレアンケート調査の結果を基に班内でブレインストーミングを行った。その中で出た「どこで被害を受けやすいかわからない」
「そもそも水たまりを気にしない」「運転マナーが悪い」「運転者は罪や罰を認識していない」という意見に着目し、これらを元に被害者側・加害者側それぞれの立場
に沿い、ソフト面での対策に関する3つの仮説を設定した。
仮説1(ハード):現状の予算でもハード面の対策を行うことができる
仮説2(ソフト):泥はね被害発生箇所の周知は注意喚起の方策として有効である
仮説3(ソフト):運転マナーの悪い人は泥はねをする
仮説4(ソフト):泥はねをする運転者は罪や罰を知らない
道路の排水対策に関するヒアリング調査
筑波大学施設部へのヒアリングを行ったところ、水たまり問題は十数年前から取り組んでいる慢性的な問題であり、大学側も把握出来ていることが分かった。
また、苦情・要望の多い場所から対応するようになっているとのことであった。
しかし、問題箇所が年を追うごとに増加しており、把握はしていても、大学側の予算が足りていない現状があるということであった。
再度施設部へのヒアリングを行ったところ、発生する水たまりの広さは把握していないが、もし修繕する場合、道路1uあたりの舗装費用は6000円であることが分かった。
この他、道路全般の整備に使える予算は650万円程であるが、年々減少傾向にある上、そのほとんどがペデストリアンデッキの修繕に充てられていることが判明した。
また、排水管の詰まりを防ぐ落葉掃除は、地区ごとに年に総計48回行われているということであった。
泥はね実態に関するプレアンケート調査
大学側の水はけ・水たまり問題への対応を受け、実際の泥はね被害実態(被害・加害経験、発生箇所)の傾向を大まかに把握するため、プレアンケート調査を実施した。
被害経験に関しては、91人中60人と、約3分の2の人に泥はねの被害経験があることが分かった。
また、被害経験の大半は車からのものが占めていた。
加害経験に関しては、加害経験がないと答えた人が82人(90%)であり、加害経験数と被害経験数との間に明らかな差があることが見受けられる。
また、アンケートを実施する中で、「自分では泥はねをしているつもりはないが、もしかしたら気付かぬうちにやっているのかもしれない」といった意見が複数あった。
これら2つの要素から、加害者側は自覚なしに泥はねをしてしまっているのではないか、という推論が立った。
被害発生箇所に関しては、平砂学生宿舎・ココストア前の交差点や陸上競技場入り口など、いくつかの箇所に被害が集中していた。
実地調査
少ない予算でできるハード対策を考える上で、泥はねの根本的な原因となる水たまりの発生原因について、ヒアリング調査の結果を元に現地調査と議論を行った。
その結果、これには大きく分けて二つの原因があるという結論に至った。@道路にできた凹み、A泥や落ち葉による排水溝の詰まりである。
@の問題解決の糸口を探るため、実際に雨の日に凹みが原因で発生した水たまりの面積を測定し、道路1uあたりの舗装費用が6000円という施設部の情報を元に、
道路の凹みの修繕にかかる費用を推計することにした。
加えて、上述のAの問題解決のための作業時間を推計するため、私たち自身の手で実際にループ道路沿いにある排水溝の泥と落ち葉を取り除き、
必要な労力や時間を計測した。
この調査はグレーチング1枚分を対象とし、陸上競技場入り口にある排水溝で実施した。
アンケート調査において特に被害が集中していることが見受けられた、陸上競技場入り口、平砂学生宿舎・ココストア前、大学中央バス停、第三エリア北側駐車場前
での実地調査を行い、水たまり発生場所1か所あたりの整備費用を推計した。
この内、筑波大学の敷地内にある3か所の推計費用を合計すると約96万円となった。
なお、実施日の降水量は1時間当たり1mm前後であった。
排水溝掃除を学生2人で行ったところ、所要時間は10分程であった。
このようなグレーチングの取り外しができるループ道路上の排水溝は、陸上競技場付近に4か所存在する。
また、1か所あたりのグレーチングは4~8枚分となっていた。
これとは別に、業者でなければ取り扱うことが難しい、道路の側面にある排水溝は400か所ほどあった。
学生・教職員へのアンケート
仮説2~4の検証を行いつつ、更に新たな泥はねの原因や対策を発見するため、筑波大学の学群生や大学院生、事務員を含めた教職員の方々を対象に、
泥はねの実態・運転マナー・交通規則などに関するアンケート調査を実施した。
アンケート調査結果の各項目をクロス集計し、それぞれの関係性を分析していく。
アンケート調査の結果、522部配布し、得られた有効回答数は392部であった(回収率は75%)。その内、男性は188人、女性は200人であった。
男女別の被害・加害経験を見ると、被害経験について、経験があると答えた男性は188人中47人、女性は199人中41人であった(図2)。
また加害経験について、経験があると答えた男性は165人中13人、女性は174人中16人であった(図3)。
通勤・通学手段を見ると、自転車は166人、自家用車は148人、バスは42人、徒歩は13人、原付は7人、バイクは5人であった(図4)。
自動車の所持を見ると、持っていると答えた人は208人、持っていないと答えた人は180人であった(図5)。
免許の所持を見ると、持っていると答えた人は330人、持っていないと答えた人は56人であった(図6)。
被害の多い場所が分かれば注意するのか
泥はね被害の多い場所が事前に分かれば被害に遭わないようより注意するかを尋ねた。
その結果、図7のようにより注意すると答えた人は回答した385人中325人、約85%であった。
これより、泥はね被害発生箇所の周知は注意喚起をする方策として有効である可能性がある。
また、特に注意しないと答えた人にそれは何故かを尋ねたところ、注意しても避けられないという回答や、普段から水たまりを視認したら注意するように
しているという回答の他、被害に遭ったことがないから注意しないという回答が複数見られた。
このような人達へどのようなアプローチをすべきか、考えなければならない。
運転マナーの悪い人が泥はねをするのか
当調査では、運転時のマナーを回答者に自己評価してもらう形で質問を行った。
これと泥はねの加害経験との関係性を検証したところ、図8のようにマナーの自己評価と加害経験との間に関係性は見られないという結果となった。
同様に、歩行者への配慮や交通違反経験と加害経験との関係についても検証したが、有意な結果は得られなかった。
泥はねをする運転者は罪や罰を知らないのか
泥はね運転が法律違反であることや反則金があることを知っていたかどうかと、泥はね加害経験との関係性を検証したところ、図9,10のような結果となり、
先述の事実を知らない人ほど泥はねの加害経験がある傾向にある、ということが分かった。
ただし、加害経験があると回答した人の数が少なかったため、より信頼性のある結果を得るならば、標本数をより大きく取る必要がある。
泥はね運転が法律違反であることや反則金があることを知って運転に対する意識が変わったかどうかを尋ねたところ、図11のようになった。
法律違反・反則金のどちらも知らなかった212人の内、約85%である182人に意識の変化が見られた。
また、反則金のみ知らなかった57人の内、約80%にあたる45人に意識の変化が見られた。
この結果から、泥はねが法律違反であることや反則金があることの周知は、泥はね運転に対する意識の向上を促すことに繋がる可能性があると推察される。
また、泥はね運転が法律違反であることや反則金があることを知って意識が変わったかどうかと、性別との関係性を分析したところ、男性と比較して女性
は意識が向上しやすいことが分かった。
これより、特に女性の目を引きやすい要素を広報活動に用いることで、より効果が上がると考えられる。
泥はね問題に関わるその他の傾向
泥はねの発生や抑制に関わる可能性のある傾向についても、アンケート調査結果を元に分析を行った。
普段運転している時どのような物に気を付けているかを8つの選択肢・複数回答の形式で質問した。
この回答と被害経験の有無との関係性を分析したところ、図12のように歩行者や自転車など周囲の様々な物に意識を向けている人ほど、
泥はね被害経験が少ない傾向にあることが分かった。
詳しい理由については推測の域を出ないが、運転中に常日頃から周囲に気を配っているような人は、歩行中にも周囲に注意を払い、
水たまりないし泥はね被害を回避しているのだと考えられる。