背景・問題提起
高齢化の進行が日本における大きな社会問題の一つとなって久しい。高齢化の進行に伴う、交通や福祉といった地域サービスの衰退が問題視され、今後どのように対処していくかが問われている。我々は、その地域サービスの中でも「買い物」という、高齢者にとって身近で重要な問題に焦点を当てた。現在、日本には『流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々』いわゆる「買い物弱者」が全国に約600万人存在していると推計されている。地域内の商店が撤退・廃業し、交通の足を失った高齢者が買い物弱者化するケースが増加しているのだ。
対してつくば市は、研究学園都市として活力のある都市というイメージが定着しており、一見すると高齢化を起因とする問題とは無縁に思われがちである。しかし、つくば市にも高齢化が進行し、衰退が進む地区が存在している。特に、買い物弱者に関しては、つくば市ではこれまでほとんどクローズアップされてこなかった問題であり、その対策も近年ようやく始められた段階である。今後さらなる深刻化が予想される買い物弱者問題に対して、その実態を明らかにすることは、つくば市「全体」の将来を考える上で欠かせないであろう。
目標
本実習では、つくば市の「買い物弱者問題」の実態把握、及びその解決に向けた提案・提言を行うことを目標とする。なお、高齢化が進行する地区において、買い物弱者問題はその深刻化が予想されるため、提案・提言に当たっては「現在」の視点のみではなく、「将来」の視点も併せることで、より有用性のあるものとする。
対象地設定
最初に、つくば市における地区別の高齢化率に着目した。その中で高齢化率がつくば市平均だけではなく、全国平均をも上回っていた地区は、筑波地区と茎崎地区であった。(図1) 次に、商業施設(スーパー、コンビ二)の立地に着目した。つくば市における商業施設の分布(図2)と、各地区における人口1,000人当たりの店舗数(図3)より、筑波・茎崎の両地区において、商業施設が他の地区に比べて少ないことが明らかとなった。 以上の高齢化率と商業施設のデータから、我々は対象の「候補地」として筑波地区と茎崎地区を取り上げた。 〇筑波・茎崎地区の特徴〇筑波地区は、農村集落が広く分布する地区である。区会長へのヒアリングでは、筑波地区のような昔から続く農村集落は地縁が濃いことから、高齢者になり身体的に不自由になったとしても、家族や地域の支援を得やすい、との結果を得た。一方、茎崎地区は、農村集落と、70〜80年代にかけて造成された新興住宅団地が混在する地区である。自治会長へのヒアリングでは、団地での自治会への加入率が年々低下しているとの結果を得た。高齢化率の急上昇が端的に示すように、地縁は薄いため、子どもは団地には残らない傾向にある。 〇対象地の確定〇筑波・茎崎地区ともに、高齢化が進行し、商業施設が少ない地区である。しかし、「地縁が薄い」という点において、茎崎地区の新興住宅団地は買い物弱者問題がより深刻になっているのでは、と考えた。地縁が薄いと家族・地域の支援を得にくいためである。よって、茎崎地区の団地に着目し、数ある団地の中でも最も規模が大きい「森の里団地」(図4)を対象地として設定した。 |
![]() 図1 つくば市における地区別の高齢化率 ![]() 図2 商業施設(スーパー、コンビ二)の立地 ![]() 図3 各地区における人口1,000人当たりの店舗数 ![]() 図4 森の里
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