現在土浦では空き家率が上昇傾向にあり、その中でも不動産流通に乗っておらず使用もされていないその他の空き家率が上昇しているという問題がある。また、市街地では高齢者が持ち家を離れる際に空き家発生の恐れがあり、これらにより市街地における人口減少や空き家発生による治安悪化などの問題が懸念される。
このような問題を解決するために、転居や老人ホーム入居などで持ち家を離れる高齢者には不動産を担保とした借り入れシステムであるリバースモーゲージローンを改良した、賃料を担保とした土浦において現行の仕組みである「住活スタイル」を推進、今後も持ち家に居住予定だが空き家化後の用途が決まっていない高齢者には市で新たに事前登録対応の「空き家バンク(図3)」を設置して対応、これら2つの制度により空き家を居住物件として利用することで空き家化防止を図る。
このほかにも、空き家を所有しているが住宅利用以外を希望する人対象にランドバンクを設置し、市街地内の土地を統合・高度利用するなど効率的な土地利用を促進する(制度の詳細については後程記述する)。
図3
現在、土浦市は多くの公共施設を管理しており、このままでは維持管理費だけで財政を圧迫してしまう恐れがあるため、施設再編を行わなくてはならない。しかし、再編を急ぐあまり住民の利便性が失われることのないように、施設の再編は集約化とともに行われる必要がある。そこで、市民の声や現在の状況と自分たちの掲げる将来像を照らし合わせて、図4で示した5つの施設再編計画を提案する。
①新治総合福祉センターの機能を新治公民館に移設、公民館の複合化
②老人デイサービスセンターの機能を津和公民館に移設、公民館の複合化
③上大津公民館の解体
④生徒数の問題が生じ、現在進行形で再編が求められている菅谷、上大津西、上大津東の三つの小学校を解体し、おおつ野地区に統合した小学校を新設
⑤荒川沖東部地区学習等供用施設の解体
これら5つの計画は、使用状況や近隣地域に同機能を持つ施設があることなどから、地域住民の方々に不便のないように施設の特性に応じて集約化を進めれば、負担をかけないまま将来像の実現に近づき、40年間で61億円の予算の削減が可能であると考える。
図4
下の図5は、一年間あたりの自動車を使用した際のコストとバスを利用した際のコストを示している。
図5
訪れる場所と回数は、拠点内の市役所支所、公民館、飲食店、銀行に合計49回、中心拠点の市役所、図書館に合計20回を想定している。これらは、全国の高齢者の各外出先への外出頻度を元に算出したものとなっている。(学生、社会人はそれぞれ通学定期、通勤定期を利用する可能性があるため考慮していない)また、自動車の年間維持費は34万706円(コンパクトカー)、ガソリン150円/L、燃費10km/Lで計算している。すると、1年間あたり30万円以上の差額が生じることになる。
このような事実があるにも関わらず、依然として車への依存度は高い。これはバス路線のすぐ近くに住んでいる人にも同様のことが言える。要因としては、上述のような価格差が浸透していないこと、車がないと目的地に行けないこと、バスの利便性が低いことなどが挙げられる。
そこで私たちは、街のコンパクト化に加え、特定のバス路線に定期を設けることによる公共交通利用の促進を提案する。特定のバス路線とは、生活拠点から地域拠点を経由し、中心拠点へと至るバス路線を指す。市民は定期を本来の値段の半額で利用することができる。実際の収入額との差額は、土浦市が民間企業に補助として出す。こうすることにより、市民は非常に安い金額で、1年間好きな時に好きなだけバスを利用することができる。前述の生活拠点内では、徒歩・自転車により移動し、他拠点への移動にはバスを利用することを想定しているため、普段必要な施設へのアクセスには困らないと言えるだろう。最終的には、脱車社会を目指す。
公共交通利用をさらに促進するために、普段はバスを使い、どうしても必要な時は車を使いうという新しいライフスタイルを提案する。車を持つことなく、このような環境を実現させるには地域内カーシェアの実現が必要になる。具体的には、現在駅前にのみ立地している民間企業のカーシェアリングシステムを各地区の生活拠点に誘致する。
現在土浦市では起業支援や新興企業が中心市街地のテナントを借りる際の家賃補助などが行われているが、それらは主に個人経営の飲食店などがターゲット層である。このように土浦市ではIT企業や技術系ベンチャー企業を支援する制度が無い。土浦市が高校生・大学生に行ったアンケートでは、仕事に合わせて住む場所を選択するという回答が多かった。就職先選択の幅を広げ、若者の雇用を確保し人材流出を止め、地域経済を活性化させるためにもIT企業や技術系ベンチャー企業を支援する制度を整備すべきと考え、下記のような支援策を提案する。
・資金支援
事務所の月額賃料を1年間補助する。
・スタートアップ支援の拠点となるような場所・相談窓口の創生
起業支援だけでなく、起業した後の問題についても相談できる窓口を作る。窓口に関しては、個人経営の飲食店なども利用できるようにする。SOHOオフィスも併設する。
また、事業の費用は以下の表2の通りである。(つくば市の事例および土浦市内の類似建築物を基に試算)
表2
集約後残った土地を放置してしまうと、その土地が再度宅地化・再開発される可能性が出てくる。またそのような郊外に残った土地は拠点に移転した後は使いづらい上に地価も安く、遺産として相続しても持て余してしまう場合も多い。そこでそういった土地を手放したいと考えている人には土浦市と連携しているランド・バンクに土地を寄付、もしくは安価に売却してもらい、専門家等による調査ののち適正管理・適正利用することを提案する。仕組みは図6のようになる。
適正利用の具体例として、下記のようなことが考えられる。
・土浦市中心市街地における活用
中心地区(一中地区)では、商業区域内において狭小な住宅地が点在しており、良好な住環境を形成できていない・土地が効率的に活用できていないなどといった問題が生じている。そこでランド・バンクを利用して土地の統合・高度利用を行うことによって良好な住環境の形成を図る。
・土浦市郊外における活用
集約が進むにつれ、郊外に空き地が発生すると考えられる。そのような空き地をランド・バンクによって道路整備、隣地の整備、農地化などで活用する。
・農地活用
土浦市の農業の現状として、農業従事者の減少・高齢化、また耕作放棄地の増加が挙げられる。またランド・バンクによって農地が増え、農地を持て余す可能性も出てくる。そこで「継ぐ」農業から「就職する」農業へ転換し、新たな層の人材を惹きつけ、技術により労働生産性の向上を行うことで現状の問題に対応できると考えた。そのためにアグリテック導入企業を支援すべきであると考える。
・アグリテック
アグリテックとは、IoTやビッグデータ等を用いて行う農業の形態のことであり、アグリテックを導入することで農業の効率化、ノウハウの分析と可視化などができるようになるとされている。例えば、農業の効率化によって担い手不足の解消等が期待できる。またノウハウの分析と可視化で熟練農家の知識を共有することができるようになる。
アグリテックについて土浦市には現在農業者の創意工夫による生産意欲や農業生産技術の向上を図る取り組みを資金面で支援する制度がある。しかしこれは研究開発そのものへの支援であり、営利団体である農業法人の事業や運営への資金援助は無い。そこでこの支援を農業法人そのものへの支援に広げるべきであると考える。また、アグリテックを導入した農業法人のスタートアップ支援や法人税減税を行い、新規参入者が増えやすいようにする。そういった新規参入者と地域で元々農業をやっていた人達との仲介役も市が行うべきである。
また、費用については山形県鶴岡市のランド・バンクを参考に算出した。鶴岡市の面積は約1,311㎢である一方で土浦市の面積は122.9㎢であり、鶴岡市の面積の約10分の1である。よって土地の整備費用も約10分の1程度であると考えられる。しかし、つるおかランド・バンクでは職員の人数が10名ほどであり職員の数はこれ以上減らしようがないため人件費等は同様にかかるものとする。これらのことから土浦市で同様にランド・バンクを行った場合、年間で約630万円の費用が掛かると試算される。
また資本金についてであるがつるおかランド・バンクは2MINTO機関から1,000万円、鶴岡市から1,800万円、関連団体から200万円の出資を受けてファンドを設立している。
図6
コンパクト化後のもう一つの問題は、拠点外のサービス水準が低下し、不便を強いられてしまう人が出てくることである。これに対し、本来は市がサービスを支給するべきであるが、少子高齢化社会による財源不足や担い手不足により、現状では厳しい。その一方で、高齢者の6割以上が定年後も働きたいという就業意欲を示しているデータがあり、リタイア後の再雇用の需要が見込める。高齢者の雇用の安定に関する法律の改正などからも、働く高齢者の割合はますます増えることが予想される。しかし、企業内の継続雇用拡大には限界がある。様々な職種において、国内企業の拡大が限られており、縮小の可能性もあるためである。さらに、高齢者はその時点における健康度や老後の備えの状況などに多様性が見られるため、高齢者就業には多様な選択肢が求められていると言えるだろう。多様な高齢者の雇用機会の提供をしている代表例として、シルバー人材センターという地域社会への貢献を目的とした全国的な組織がある。センターは、地域の家庭や民間企業、公共団体などから請負もしくは委任契約により仕事の受注業務を行い、会員として登録した高齢者の中から適任者を選び、仕事を割り振るという役割を担っている。しかしシルバー人材センターには、ホワイトカラーの受け皿になりきれていないことや『センター』と『個人』のやり取りによる利用率の伸び悩みなど課題がある。
よって、土浦市内の高齢者、さらには主婦や自営業などの正規雇用についていない人材を活用し、財政負担の軽減とともに、市民が自ら地域を支えることのできるシステムを提案する。
具体的には、中学校区ごとに図7で示したような人材バンクを設置することを考える。人材バンクは、市内の働きたいと思っている人と、人を雇いたいと思っている団体の両方の関係を仲介し、雇用のマッチングをする。個人の登録も推進するが、同時に、各中学校地区の町内会と連携を取り、登録率の上昇や地域への浸透を狙う。ここが、シルバー人材センターとの違いの一つでもある。市はバンクの運営をし、さらにバンクを通じて、業務の発注も行う。
図7
このシステムにより、
・市街区公園管理(市民が公園組合を結成)
・既存の福祉政策であるふれあいネットワークを部分的に市民が担う(専門技術を必要とされない家事手伝い、送迎等)
・移動販売の運営(市民が資格を取り、運営することも視野に)
などの広範囲な活用が考えられ、地域の利便性向上に繋がるだろう。各中学校区における働く可能性がある高齢者(高齢者全体-後期高齢者-要支援・要介護の前期高齢者)とサービスを求めている可能性のある高齢者(高齢者全体-施設入居者)の比率は以下の図8ようになっており、実現可能性は十分であると考える。
図8