*つくば市の水質保全と環境教育に対する提案*
第2章 *水質保全の提案*
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2-1 はじめに
  現在、つくば市の上水道は霞ヶ浦で取水され、廃水は利根川に放流されている。 しかし、利根川下流域では富栄養化現象が手賀沼、印旛沼などの閉鎖性水域を中心として問題と なっている(図2-1-1富栄養化現象の概念図)。これは、利根川上流からの窒素化合物の蓄積の ために生じている問題である。その原因としては、廃水処理施設における窒素除去の欠如、田 畑での農薬散布、畜産による汚染などが上げられる。窒素化合物の汚染は、下流域の上水道に おける水質の悪化を招いている(図2-1-2千葉県の導水事業)。利根川の水質保全を考えたと きに、統合水環境管理(Integrated Management)の重要性が認識される。これは水量・ 水質・場を良好な状態に維持するために、流域の健全な水循環を確立し、持続可能な発展 (Sustainable Development)のための方法を模索し、原料から廃棄までのライフサイク ルで環境を保全するという管理手法である。本研究では窒素化合物に注目して、つくば市の水 環境管理の手法を提案する。より広い地域での分析も必要ではあるが、本研究では、その中で のつくば市の取り組みを考える。まず、2.3、2.4でつくば市の水の流れ、窒素化合物の流れを 明らにし、窒素化合物の排出特性について分析する。次に窒素化合物を削減するための手法を 提案する。本研究では、廃水処理場(利根浄化センター)での窒素除去設備の導入に関する分 析を行った。
  ISO14001を認証済みの自治体は、水質保全では主に(1)下水道整備の促進、 (2)浄化槽整備の促進を掲げている。下水道がおおむね整備されている板橋区では、特に目 標を掲げてはいない。つくば市においては、下水道整備率は61.9%であり茨城県平均の36.0% や全国平均の54.0%と比べて高くなっている(下水道整備率:地域経済総覧‘98東洋経済社に よる)。そこで、下水道整備率については特に注目しないこととした。 

     
図2-1-1 富栄養化現象と有機汚濁の概念図





図2-1-2 千葉県の利根川からの導水事業(合計491万人に給水:H11.3現在)



2-2 分析方法
  まず、つくば市の窒素負荷量を明らかにするために、水の流れと窒素濃度を調査した。 窒素濃度の測定はHACHの比色法で5/28〜6/10に、つくば市およびその近辺の数カ所で行った。 利根浄化センターにおける窒素除去設備導入の分析では、包括固定化担体を用いた硝化促進型 循環変法(以下ペガサス)の導入を考え、その建設費用を7市町の下水道料金でまかなうものと して分析した。
ペガサスは、日本下水道事業団と日立プラント建設が開発した、日本発の技術である。

2-3 つくば市の水の流れ

つくば市の水の流れを明らかにするために、つくば市と近辺の流量のデータを収集した。以下にその データを表示する。

表2-3-1 H9年のつくば市の年間の流量(単位:106m3
データ流量出典 データ流量出典
1雨量265.7気象庁9桜川(藤沢新田)89.9建設省
2蒸発量223.0推計10花室川11.6
3浸透量223.0推計11小貝川(黒子742.8建設省
4上水道20.9中央配水場12(中郷)744.0
5工業用水1.4新治浄水場13利根川(布川)5437.8
6簡易水道1.8市水道統計14谷田川43.3推計
7専用水道0.215小野川1.3推計
8個人水道2.0推計16下水道32.3利根浄化センター

  次に、各データの詳細を示す。

(1)雨量 
  雨量は筑波山でのものを用いた。気温は土浦市での値をつくば市のものとする。蒸発量の推定の際に使うため、ここで表示した。気温は℃、雨量はmmである。

気温雨量気温雨量気温雨量気温雨量
14.014413.6104724.91311016.512
25.018517.5155825.5711112.3101
38.768621.5138921.5177126.835
(出典:気象庁)

(2)蒸発量 
  蒸発量は東京管区気象台でのみ測定している。その値から、気温と蒸発量との間の相関係数は0.90であり,高い正の相関があった。降水量と蒸発量との間 では0.72と、高い相関はなかった。つくば市の蒸発量は、つくば市の気温を東京都の気温と蒸発量の回帰式に代入して求めた。表は東京都の気温と蒸発量である。気温は℃、雨量はmmである。

気温蒸発気温蒸発気温蒸発気温蒸発
16.826.8415.299.1726.6143.91021.593.5
27.013519.291.4827130.61110261.7
310.586.9622.7108.5922.985.31246.537.2
(出典:気象庁)

(3)浸透量 
   蒸発量と同じとする。
  つくば市の総浸透量 868mm×259km =265.7×106

(4)上水道量 
   年間流量は20.85×106 である。(出典:中央配水場)

(5)工業用水量 
  年間流量は1.4×106 である。(出典:新治浄水場)

(6)簡易水道量 
  年間流量は1.81×106m3 である。(出典:つくば市水道統計)

(7)専用水道量 
  年間流量は0.17×106m3 である。(出典:つくば市水道統計)

(8)個人水道量 
  給水人口が簡易+専用水道と同じために1.98×106 と推計した。

(9)桜川(藤沢新田) 
  流量は以下のとおりである。年間の総流量は189.85×106 であった。

流量流量流量流量年総量(106 )
167.35413.9879.59107.73189.85
219.91513.01810.04117.68平均(m/s)
311.93611.3698.54129.186.02
(出典:建設省霞ヶ浦工事事務所)

(10)花室川(永国) 
  流量は以下のとおりである。年間の総流量は11.56×106 であった。
流量流量流量流量年総量(106 )
10.7441.0071.27100.6011.56
20.7351.5481.23110.60平均(m/s)
30.7561.5490.98120.680.54
(出典:建設省霞ヶ浦工事事務所)

(11)小貝川(黒子) 
  流量は以下のとおりである。年間の総流量は742.80×106 であった。

流量流量流量流量年総量(106 )
128.94445.94771.061035.38742.80
221.045144.73893.971133.46平均(m/s)
321.646120.99982.521243.1323.55
(出典:建設省霞ヶ浦工事事務所)

(12)小貝川(中郷)
  年間の流量は774.0×106であった。

(出典:建設省下館工事事務所)

(13)利根川(布川)
  流量は以下のとおりである。年間の総流量は5437.75×106であった。

流量流量流量流量年総量(106m )
1237.094397.987474.6710373.375437.75
2177.625680.818635.4811265.08平均(m/s)
3194.836759.799910.2612344.20172.43
(出典:建設省利根川下流工事事務所)

(14)谷田川 
  谷田川の流量は市が年4日間測定している。以下の式で年間の流量を推計した。
  谷田川の年間流量=0.5(谷田川の4日間の流量/(桜川の4日間の流量/桜川の年間の流量)) 
                +0.5(谷田川の4日間の流量/(花室川の4日間の流量/花室川の年間の流量)) 
                =0.5×(0.329/(1.225/189.9)+0.5(0.329/(0.106/11.56)
                =43.43

採水日谷田川の流量桜川の流量花室川の流量
H9. 5/290.1130.3870.032
H9. 7/300.1380.3160.036
H9. 9/240.0540.2800.023
H9. 11/250.0240.2420.015
年4日流量0.3291.2250.106
年間総流量43.43189.911.56
出典:つくば市環境白書H10年度版)

(15)小野川 
  小野川の流量は市が年4日間測定している。以下の式で年間流量を推計した。
  小野川の年間流量=0.5(小野川の4日間の流量/(桜川の4日間の流量/桜川の年間の流量)) 
                +0.5(小野川の4日間の流量/(花室川の4日間の流量/花室川の年間の流量)) 
                =0.5×(0.01/(1.225/189.9)+0.5(0.01/(0.106/11.56)
                =1.32

採水日小野川の流量桜川の流量花室川の流量
H9. 5/290.0010.3870.032
H9. 7/300.0010.3160.036
H9. 9/240.0030.2800.023
H9. 11/250.0050.2420.015
年4日流量0.0101.2250.106
年間総流量1.320189.90011.560
(出典:つくば市環境白書H10年度版)

 

(16)下水道量 
  利根浄化センタ−では7市町の排水を除去している。合計処理量は32.3×106 である。うちつくば市の負担は17.2×106である。以下に7市町の下水道量を表示する。

自治体名年間流量自治体名年間流量
つくば市17.22河内町0.035
茎崎町2.53利根町1.37
牛久市5.90新利根町0.061
竜ヶ崎市5.167市町合計32.27
(出典:利根浄化センター)

以上の値から、つくば市の水収支を明らかにした。流入の桜・小貝川は流入-流出の値である。     

表2-3-2 H9年のつくば市の水の収支(単位:106 )
流入流量出典流出流量出典
雨量265.7気象庁蒸発量223.0推計
上水道20.9中央配水場下水道17.2浄化センター
工業用水1.4新治浄水場花室川11.6茨城県
簡易水道1.8市水道統計谷田川43.3推計
専用水道0.2小野川1.3
個人水道2.0推計
桜・小貝川228.0推計地下浸透223.0推計
合計520520

 つくば市近辺での水の流れは以下の図で表すことができる。つくば市の水の流れは霞 ヶ浦から利根川までとなっている。

図2-3-1 つくば市近辺での水の流れ(数値は流量、単位:106)

 

  • まとめ 
      つくば市への水の流入は、主に雨量と桜川・小貝川からであった。それらの水の殆どは 蒸発か地下浸透で、河川に流れるものは全体の2割ほどであった。河川は桜川などは霞ヶ浦に、 小貝川などは利根川に流れ込んでいる。次項では、河川の汚染に注目し、窒素化合物の循環に ついて考える。


    2-4 つくば市の窒素の流れ
     まず、調査データを表にする。窒素濃度の測定は5/28〜6/10に行った。機材はHACHの 簡易測定器(比色法)を用いた。以下、測定値の窒素濃度はアンモニア+亜硝酸+硝酸の値で ある。他の機関の測定値は、全窒素である。           

    表2-4-1 つくば市近辺の窒素濃度(単位:mg/l)
    データ濃度出典データ濃度出典
    1雨量0推計9桜川(藤沢新田)3.1測定
    2蒸発量0推計10花室川2.2
    3浸透量2.3推計11小貝川(上流)2.6
    4上水道0.4県水道統計12 (中郷)2.4
    5工業用水0.5新治浄水場13利根川(布川)3.4
    6簡易水道0.4市水道統計14谷田川2.5
    7専用水道0.415小野川2.2
    8個人水道4.8推計16下水道15.3利根浄化センター
                                     

    次に、各データの詳細を示す。

    (1)雨量、(2)蒸発量 0.0(mg/l)とする。

    (3)浸透量 
      田の測定値をとって2.3(mg/l)とする。

    (4)上水道 
      茨城県水道統計から窒素濃度は0.4(mg/l)であった。以下に測定結果を示す (単位:mg/l)。環境基準(V:水道3級)は0.4(mg/l)以下である。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度
    H9. 4/ 220.28H9. 9/ 170.52
    H9. 5/190.52H9. 10/ 210.30
    H9. 6/ 170.38H9. 11/ 180.30
    H9. 7/ 150.55H9. 12/ 160.19
    H9. 8/ 190.56平均0.40
    (出典:茨城県水道統計)

    (5)工業用水 
      窒素濃度は0.5(mg/l)であった。環境基準(W:工業用水)は1.0(mg/l)以下である。

    (出典:新治浄水場)

    (6)簡易水道 
      市の水道統計をもとに0.4(mg/l)と推計した。環境基準(V:水道3級)は0.4(mg/l) 以下である。

    (7)専用水道 
      市の水道統計をもとに0.4(mg/l)と推計した。環境基準(V:水道3級)は0.4(mg/l) 以下である。

    (8)個人水道(地下水) 
      個人水道のデータはつくば市内では1箇所しかなかったため、県内36カ所の値の平 均値をとった。1.0(mg/l)以下の値は不検出となっているため0.5(mg/l)として計算した。各値 は下表(単位:mg/l)のとおりであり、平均は4.8(mg/l)であった。

    番号所在地窒素濃度番号所在地窒素濃度番号所在地窒素濃度
    1水戸市2.613岩間町1.325玉里村9.5
    2日立市1.314岩瀬町2.126八郷町6.0
    3下館市2.115那珂町11.027新治村(1)3.8
    4結城13.016緒川村不検出28新治村(2)不検出
    5下館市不検出17水府村2.829新治村(3)不検出
    6常陸太田市1.918美里村7.130伊奈町不検出
    7高萩市不検出19旭村8.931協和町17.0
    8北茨城市不検出20波崎町2.132八千代町11.0
    9つくば市不検出21麻生町7.933境町(1)2.2
    10 ひたちなか市4.422北浦町24.034境町(2)4.2
    11鹿島市4.923河内町2.135利根町不検出
    12美野里町不検出24桜川村不検出36牛久市13.3
    (出典:茨城県生活環境部)

    (9)桜川 
      本研究での測定値は※3.1(mg/l)であった。以下、参考に市の測定値を示す。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度平均
    H9. 5/302.0H9. 11/251.82.3
    H9. 8/41.4H10. 1/263.2
    H9. 9/252.3H10. 3/163.0
    H11. 6/43.1※
    (出典:つくば市環境白書H10年度版)

    (10)花室川 
      本研究での測定値は※2.2(mg/l)であった。以下、参考に市の測定値を示す。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度平均
    H9. 5/291.7H9. 11/251.31.8
    H9. 7/301.4H10. 1/262.7
    H9. 9/241.5H10. 3/162.1
    H11. 6/42.2※
    (出典:つくば市環境白書H10年度版)

    (11)小貝川(上流) 
      本研究での測定値(H11.6/4)は※2.6(mg/l)であった。

    (12)小貝川(中郷) 
      本研究での測定値(H11.5/28)は※2.4(mg/l)であった。

    (13)利根川(布川) 
      本研究での測定値(H11.5/28)は※3.4(mg/l)であった。 

    (14.1)東谷田川 
      本研究での測定値は※2.9(mg/l)であった。以下、参考に市の測定値を示す。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度平均
    H9. 5/292.2H9. 11/252.42.7
    H9. 7/301.2H10. 1/263.7
    H9. 9/242.6H10. 3/163.8
    H11. 6/102.9※
    (出典:つくば市環境白書H10年度版)

    (14.2)西谷田川 
      本研究での測定値は※2.5(mg/l)であった。以下、参考に市の測定値を示す。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度平均
    H9. 5/292.7H9. 11/252.93.5
    H9. 7/301.4H10. 1/265.1
    H9. 9/243.1H10. 3/165.6
    H11. 6/102.5※
    (出典:つくば市環境白書H10年度版)

    (15)小野川 
      本研究での測定値は※2.2(mg/l)であった。以下、参考に市の測定値を示す。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度平均
    H9. 5/291.7H9. 11/253.53.6
    H9. 7/300.9H10. 1/265.7
    H9. 9/243.7H10. 3/166.2
    H11. 6/102.2※
    (出典:つくば市環境白書H10年度版)

    (16)下水道 
      放流水中の窒素濃度は15.3(mg/l)であった(出典:利根浄化センター)。

    (17)霞ヶ浦木原取水場 
      茨城県水道統計から窒素濃度は0.9(mg/l)であった。以下に県の測定結果を示す(単位:mg/l)。

    採水日窒素濃度採水日窒素濃度
    H9. 4/80.95H9. 9/20.78
    H9. 5/131.30H9. 10/70.79
    H9. 6/30.89H9. 11/40.67
    H9. 7/11.20H9. 12/20.84
    H9. 8/50.88※平均0.93
    (出典:茨城県水道統計)

      以上の値に、流量をかけてつくば市の年間の窒素化合物の流れを明らかにした。流入 の殆どは桜川・小貝川からであり、上流からの汚染が原因になっている。流出量は、地下に 浸透するか、河川に流れるかしている。しかし、下水道の窒素量が263.2トンと高く、人間な どの生物活動が利根川の汚染に影響していることは明らかである。

    表2-4-2 H9年のつくば市の年間窒素収支(単位:トン) 
    流入窒素量出典流出窒素量出典
    雨水0推計蒸発量0推計
    上水道8.4中央配水場下水道263.2利根浄化センター
    工業用水0.7新治浄水場花室川25.5測定
    簡易水道0.8市水道統計谷田川116.9
    専用水道0.1小河川2.9
    個人水道9.6茨城県
    桜・小貝川640.0
    農薬など4.8推計地下浸透500.0推計
    合計664 合計909 (mg/l)

      つくば市近辺での窒素の流れは以下の図で明らかにできる。つくば市の物質循環を考え たとき、利根川の窒素濃度を抑えることが必要である。現状では、河川の窒素濃度は比較的高 く、廃水処理場を経由する度に値は上昇している(参照:参考文献(1))。


    図2-4-1 つくば市近辺の窒素濃度の分布(単位:mg/l)

          

    図2-4-2 つくば市近辺の年間の窒素の流れ(単位:トン)


  • まとめ

      つくば市に流入してくる窒素664トンの殆どが、河川からのものである。そのうち500トン が地下に浸透している。地下水の窒素濃度が4.8(mg/l)と、河川の窒素濃度よりも上回ってい ることから、窒素化合物は地下に蓄積している事が分かる。これは、人間以外の生物活動の影 響だと思われる。水道利用者の窒素化合物の安全基準は10.0(mg/l)であるが、窒素濃度のばら つきを考えると、個人水道の利用者は安全とは言えない。上水道・簡易水道の整備は必要であ る。つくば市の窒素負荷量は263.2トンであり、これは廃水処理場からの流出量に当たる。この ことから、窒素化合物の量を減らすためには、廃水処理場での窒素除去が最も有効な手段であ ると言える(参照:参考文献(2))。現在、利根浄化センターでは窒素除去は行われていない。 次節では、利根浄化センタ-での窒素除去導入のための分析を行う。


    2-5 窒素除去導入の計画

    (1)廃水処理設備の概要
     現在、利根浄化センターで行われている除去方式は、標準活性汚泥法(図2-5-1(1))+高 速凝集沈殿法+急速濾過法である。凝集沈殿法と急速濾過を行うことで、除去効率を高めてはい るが、それでも現在の設備では窒素化合物の除去率は40%程度が限界である。窒素化合物を除去 する方法としては循環式硝化脱窒法(図2-5-1(2))がある。これは全国で10箇所ほどで行われて おり、霞ヶ浦流域廃水処理場でも、この方法にリンの除去も加えた嫌気無酸素好気法を用いてい る。しかし、この方法は、タンクが2漕あること、窒素化合物を除去する硝化細菌の増殖速度が 遅いことなどの理由で、処理タンクの滞留時間を従来の6〜8時間から、12〜16時間にする必要があ る。つまり既存の施設を改造するときには、タンクを2倍の容量にする必要がある。今後、既存 の処理場でこの方式を導入するときに、土地面積などを考えると難しくなることが予想される。 そこで開発された方法が、ペガサス(図2-5-1(3))である。この方法は、窒素化合物を除去する 硝化細菌を、直径3mmキューブのポリエチレングリコールに閉じこめることによって、好気漕で の窒素化合物の除去速度を高めて、滞留時間を標準活性汚泥法と同じ6〜8時間で除去できるよう にしたものである。この方法を用いれば、タンクを新設する必要がないため、改造コストは低 く押さえることができる。また、土地面積も変わらないことから、既存の施設を改造するには 有効な技術である。この方法の導入を検討する。現在、ペガサスは国内の自治体では、福岡県 宗像終末処理場、岡山県芳賀佐山浄化センター、岩手県陸前高田浄化センターの3箇所で導入され ている。以下に廃水処理設備の概要を図示する。

       


    図2-5-1 廃水処理設備の概要

    (2)ペガサスによる除去率の増加
      現在の利根浄化センターの窒素除去率は45.6%である。ペガサスを導入することで、 除去率を約80%に向上できる。これにより、窒素化合物の放流量を494トン→216トンへと 削減できる。これは、利根川下流域の窒素化合物の1.6%以上を除去できる事を示している。 表2-5-1にペガサスを導入している4つの処理場の除去率を表示する。利根浄化センターでは、 高速凝集沈殿法と急速濾過法を合わせて行っているため、以下の数値より除去率は高まるこ とが予想される。
        

    表2-5-1 ペガサスによる窒素除去率と利根浄化センターの比較
    処理場名処理水量(・/日)流入 (mg/l)流出 (mg/l)除去率 (%)
    宗像終末処理場11,300401075
    芳賀佐山浄化センター2,68049786
    陸前高田浄化センター2,800421076
    Bellozanne下水処理場(英)77,760551082
    利根浄化センター88,000281546
    (出典:日立プラント建設・利根浄化センター)

    (3)ペガサスの導入費
      次に設備改造の工事費について表示する。利根浄化センターのエアレーションタンク にはサイズに2種類あり、それぞれ第1、第2系統とする。第1系統は計画処理水量が一日 132,000m3であり、第2系統は一日268,000m である。工事費の概算は、開発・施工を 行っている日立プラント建設に依頼した。以下に工事費を表示する。なお、これは機械設備 のみであり、現実にはこれに電気設備の費用がプラスされる。

    表2-5-2 第1系統の概算工事費
    機械名(反応タンク設備)形式数量価格 (千円)備考
    流入ゲート鋳鉄性手動可動堰240既設
    自動スクリーン自動微細目スクリーン24360,000 
    無酸素タンク撹拌費水中機械式撹拌装置72525,600 
    包括固定化担体 243,024,000好気タンク設備一式
    好気タンク設備担体分離スクリーン  3A+3Bの複合価格
    (硝化促進型) 散気装置    
    循環水路設備    
    風量調節弁電動クシ歯付バタフライ弁2460,000 
    風量計 オリフィス式2419,200 
    機器費計  3,988,800 
    据えつけ費  289,440(機器費?硝化漕設備)×0.3
    直接工事費  4,278,240 
    間接工事費  797,760直工費×0.2
    工事原価  5,076,000 
    一般管理費  913,680工事原価×0.18
    合計  5,989,680 


    表2-5-3 第2系統の概算工事費
    機械名(反応タンク設備)形式数量価格 (千円)備考
    流入ゲート鋳鉄性手動可動堰200既設
    自動スクリーン自動微細目スクリーン20400,000 
    無酸素タンク撹拌費水中機械式撹拌装置40720,000 
    包括固定化担体 205,780,000好気タンク設備一式
    好気タンク設備担体分離スクリーン  3A+3Bの複合価格
    (硝化促進型) 散気装置    
    循環水路設備    
    風量調節弁電動クシ歯付バタフライ弁2060,000 
    風量計 オリフィス式2020,000 
    機器費計  6,980,000 
    据えつけ費  360,000(機器費?硝化漕設備)×0.3
    直接工事費  7,340,000 
    間接工事費  1,468,000直工費×0.2
    工事原価  8,808,000 
    一般管理費  1,585,440工事原価×0.18
    合計  10,393,440 

      ここで、3つの案について検討する。案1は第1系統を改造、案2は第2系統を改造、 案3は第3系統を改造するものである。案1では総額は59.90億円、案2では103.73億円、 案3では163.83億円となる。現在の利根浄化センタ−の処理水量は一日88,000m であるから第1系統のみの改造でもほぼ全ての窒素化合物を除去できることが分かる。 現在の利根浄化センタ−の年間の窒素放出量は494トンで、窒素除去率は45.6%である。 ペガサスを導入すると、除去率を約80.0%に向上させ、窒素放出量は216トンにまで押 さえる事ができる。次に、ペガサスを導入したときの、各市町の返済計画について表示する。

    (4)自治体の返済計画案
      現在の廃水処理における市町分担金は、排水1m あたり50円である。この総額は 7市町で年間16.06億円(表2-5-4)である。7市町の下水道使用料金の総額は、年間21.42 億円(表2-5-4)である。この額に、建設費を上乗せして7市町で分担するものとする。建 設費のうち、国からの補助が55%支給されるため、自治体の負担額は45%である。この負 担額を起債を発行して返済するものとする。起債は利子3%で20年間で返済すると仮定する。 年間返済額は、単純に20で割ったものとし、以下の表に各案での返済計画を示した。結果と して、案1では下水道料金が11.4%、案2では19.7%、案3では31.1%の増加となる。案1でも ほぼ全ての窒素を除去できるため、結論として、案1を採用すれば利根浄化センタ−からの窒 素化合物の放出量を約300トン削減することができる。自治体の返済計画を表2-5-5に示した。

    表2-5-4 7市町の廃水処理分担金と下水道料金の総額(単位:千円)
     廃水処理分担金使用料金総額
    つくば市861,000648,000
    茎崎町127,000200,000
    牛久市295,000523,000
    竜ヶ崎市258,000596,000
    河内町1,8004,200
    利根町69,000164,000
    新利根町3,0006,800
    合計1,611,8002,142,000
    (出典:7市町のH9年度決算書)

    表2-5-5 自治体の返済計画案(単位:千円)
     案1案2案3
    計画処理水量・/日132,000268,000400,000
    概算工事費5,989,68010,393,44016,383,120
    国庫補助3,294,3245,716,3929,010,716
    自治体負担額2,695,3564,677,0487,372,404
    返済総額4,868,1128,447,26813,315,381
    (利子3%20年返済)
    年間返済額243,405422,363665,769
    H9年度下水道料金総額2,142,0002,142,0002,142,000
    下水道料金増分11.4%19.7%31.1%



    2-6 まとめ
      本研究によって、つくば市の水と窒素化合物の流れが明らかになった。 汚染のない水循環システムの構築は、今後達成されるべき目標である。つくば市など 下水道が比較的整備されている地域では、廃水処理設備の改造は、そのための最も 有効な手段であることは明らかである。利根浄化センターの設備改造には、下水道料金 を11.4%引き上げる必要がある。設備を改造して、窒素除去率が仮に80%に上昇した とすると、放流水の窒素濃度は5.6(mg/l)にまで下がり、現在の約3分の1に減少することが分かった。


    2-7 今後の課題

      今回はつくば市のみの水循環について考えたため、窒素化合物の除去は、利根浄化 センターのみの分析だった。しかし、つくば市など7市町の窒素負荷量は利根川全体の1 .6%ほどである。利根川の水質保全を考えるのであれば、今後はより広域での分析が必 要となる。その際には、窒素負荷に関する地域特性をより詳しく調査する必要がある。 今回は地域を特定したため特に触れなかったが、窒素化合物による被害地域の重みづけ も前提として必要となる。また、地下水の汚染状況、それに伴う上・下水道の整備率と 汚染との関係など、調査すべき要素は多く存在する。上下水道の整備と廃水処理場の建 設は、現在は自治体単位で行われているが、効率的に除去するためには広域での協力が望ましい。


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