第2章 本論
2.1 実態調査
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目標を実現する際に、そもそも現状のつくば号につくばセンターから乗客を乗せることが可能なのか。つくば号のつくばセンター到着時間の適合性、つくばセンターからの空席数の有無という2つの側面から実態調査によって調べた。
2.1.1 TXとつくば号のつくばセンター到着時刻
つくばセンターのターミナルにはTXの乗客以外にも高速バスや循環バスの乗客がいる。交通サービスの消費者の立場から見ると、交通モード間の乗り換えが容易であることはサービスの質において重要な要素である。仮に、TXは遅くまで運行しているにも関わらず、つくば号は早めに運行サービスが終了してしまうと、私たちが考える、帰宅手段に困っている人たちをつくば号に乗せることはできない。また、TXだけではなく、つくばセンター周辺で遅くまでアルバイトをする人なども利用できるようにするためには、つくば号のつくばセンター到着時刻が適当な間隔になっている必要がある。そのため、私たちはTXとつくば号のつくばセンター到着時刻を調べることにした。図1は22時40分以降のTXとつくば号のつくばセンターに到着する時刻を表している。
図2.22時40分以降のTXとつくば号到着時刻を示した図
図2で分かるように、TXとつくば号のつくばセンター到着時刻は、TXでつくばセンターまで来た人をつくば号に乗せられるほど、到着時刻が適当な間隔になっていることが分かる。また、この時間間隔は、つくばセンター周辺に夜遅くまでいる人の帰宅にとっても、時間帯のばらつきがあり、都合がよいといえる。以上より、現状のつくば号のセンター到着時間は、目標実現にあたって大きな問題とはならないことがわかった。
2.1.2 つくば号のキャパシティの調査
次に、つくば号につくばセンターから乗車可能にする際に、実際に乗客を乗せるだけの十分な座席(以下、キャパシティと記述)があるのかを調べた。事前に、ホームページの情報によってつくば号のバスの座席数は50席程度と知り得ていたので、現状のつくば号の乗客の中で、つくばセンター以降に降りる乗客の数を調べることで、空席の数を求めた。日付など、詳しい概要は表1の通りである。調査結果であるつくば号のキャパシティは以下の図3で示した。
表1.キャパシティ調査の概要
図3.つくば号の便別空席数(キャパシティ)
この調査結果より、つくばセンターから十分にお客を乗せるキャパシティが、つくば号にあることがわかった。 ※1 0:55からのつくば号は、ミッドナイトつくば号という通常のつくば号より料金の高い深夜バスであるため、ここでは区別できるように表した。
2.1.3 小括
2.1.1、2.1.2の2つの実態調査より、現状のつくば号はつくばセンターから乗客を乗せる場合を想定しても、キャパシティが十分にあり、かつつくばセンター到着時刻も適当であるため、十分可能であるということがわかった。
2.2 アンケート調査
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2.1の実態調査で目標の実現が可能であると分かったが、この情報だけではバス事業社に提案する際の提案材料には到底なり得ない。提案するには、私たちの目標が実現した場合に、
実際に利用してくれる人々が多く見込める
という情報が必要である。そこで私たちは、アンケート調査によって我々の目標が客観的にみて、実現する価値があるものなのかを調査した。
2.2.1 アンケート調査の目的
私達がアンケート調査を実施した目的は3つある。
1.普段の交通行動の確認
筑波大生の現在の交通行動を把握する。どのような交通手段を利用しているのか、公共交通機関
をどれくらいの頻度で利用しているのか等を知る。
2.つくば号をつくばセンターから乗車可能にした場合の予測を立てる
我々が提案する、22時40分以降つくばセンターから乗車可能となったつくば号の需要予測をする。
どのような人が乗るのか、需要量はどのくらいなのかを把握する。
3.どのような条件を加えればつくば号の利用者が増加するか調べる
22時40分以降つくばセンターから乗車可能となったつくば号に、個別に条件を追加する。そして、
どのような条件を追加すればつくば号の利用者が増加するのかを把握する。
2.2.2 アンケート調査前の仮説
アンケート調査をする前に以下のような仮説を立てた。
1.少なくとも筑波大生だけである程度の利用者がいるのではないか。
1.2の背景・問題提起でも述べた通り、循環バスの最終便後につくばセンターからの帰宅手段に困っ
ている筑波大生は多いであろうと考えのもと、少なくとも筑波大生のみの利用だけでバス運営会社
は利益を上げることができるのではないかと予想した。
2.特定の条件を加えることでつくば号の利用者数が変化するのではないか。
22時40分以降つくばセンターから乗車可能となったつくば号に、個別に条件を追加した場合、条件
を追加しなかった場合から利用者数が変化するのではないかと予想した。追加した条件は、
「2.2.4 アンケート用紙の構成」にて詳しく説明する。
2.2.3 アンケート調査実施の概要
アンケート調査は、実際に需要予測を計算するために筑波大生を対象として、筑波大学の講義(筑波大学内調査)で行った。また、それとは区別して、普段バスを利用している人(社会人も含む)を対象に循環バスのバス停(チョイスベース調査※1)でも行い、層別抽出法(※2)を用いた。
※1 「チョイスベース調査」とは、
調べたい交通手段を実際に利用している人を対象とした調査
※2 層別抽出とは、
調査において性質の違う集団ごとに母集団を区別
して、そこから適切な比率でサンプルを抽出する手法。
以下の表が実施日、日程、方法についてまとめた表である。
表2.アンケート調査の概要
2.2.4 アンケート用紙の構成
アンケートの構成は以下のようになっている。
1.個人属性
性別/所属/居住地/最寄りの循環バスのバス停
2.交通行動の基礎情報
循環バスの定期所持の有無/現在利用可能な交通手段/つくばセンターから大学周辺への移動頻度/つ
くばセンターから大学周辺への循環バス利用での移動頻度/つくばセンターへ向かうバス以外の交通手
段/バスを利用しない理由
3.夜間の交通行動
循環バス最終便発車以降、つくばセンターから帰宅する頻度/循環バスがない時間帯のつくばセンター
からの帰宅手段/学内循環バス最終便に乗るために時間を合わせた経験の有無/学内循環バスの最終便
に乗ることができないために東京駅からバスに乗車した経験の有無
4.提案するつくば号が実施された際の交通行動
つくば号につくばセンターから乗車可能にしたときの条件を以下のように設け、このバスの利用頻度を
尋ねた。
表3.つくばセンターから乗車可能になったつくば号の設定
また、このバスに以下の表4で示された条件を個別に追加した場合の利用頻度をたずねた。
表4.提案するつくば号に個別で追加する条件
2.3 アンケート調査結果
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アンケート調査により得られたデータ(講義421サンプル、バス停85サンプル)を用いて回答者が普段どのような交通行動をとっているのかを単純集計により、図で表した。また、2.2.4のアンケート用紙の構成でも触れた通り、提案するつくば号が実施された場合の交通行動の結果から、提案するつくば号に筑波大生だけでどの程度の需要が見込めるのかを求めた結果を、交通需要予測で示した。そして、回答者の交通行動、個人属性が提案するバス利用にどう影響しているのかを知るために、判別分析を用い、その結果をまとめた。
2.3.1 回答者の交通行動
22時40分以降のつくばセンターから筑波大学方面への帰宅頻度を集計することは提案するつくば号の誘発需要を把握することに繋がると考えた。図4がその集計結果のグラフである。
図4.22時40分以降のつくばセンターから筑波大学方面への帰宅頻度
図4より「22時40分以降につくばセンターから筑波大学方面へ帰宅する」という人は、筑波大生のみの講義アンケートでは約7割、筑波大生以外の人も含めたバス停アンケートでは約8割、という結果を示している。これより、提案するつくば号に乗車する可能性のある人は筑波大生内のみでも十分にいることがわかる。
次に、循環バス最終便(22時40分左回り)に乗車するために時間を合わせて(予定をきりあげるなどして)帰宅した経験の有無を聞いたアンケート結果を集計すると図5のようなグラフが得られた。
図5.循環バス最終便に乗車するために時間を合わせて帰宅した経験の有無
図5より「循環バス最終便に乗車するために時間を合わせて帰宅したことがある」、という人は講義アンケートでは約5割、バス停アンケートでは約7割存在する。彼らは我々の提案するつくば号に乗車する可能性が大いにあるであろう。
2.3.2 交通需要予測
私たちはアンケート内で、交通行動のほかに、2.2.4のアンケート用紙の構成の表3で示された設定のバスを回答者に提示し、その設定のバスが実在する場合、回答者がつくば号にどれほどの頻度で乗るかを尋ねた。その、講義で行った調査のみの集計結果が図6に示されており、この結果から、筑波大生では「毎回利用する」〜「利用するかもしれない」と答えた人は約70%を占め、バス停におけるアンケート回答者においては、約90%の人が「毎回利用する」〜「利用するかもしれない」と答えたことが分かった。
図6.上記のような条件のつくば号の筑波大生の利用頻度
この図6の集計結果と、図4の結果を元に、私たちは、筑波大生のつくばセンターから筑波大学方面へのつくば号の乗客数の需要量を推計した。この推計において、筑波大生のみの需要データを求めるために、講義におけるアンケート調査の結果のみを用い、バス停におけるアンケート調査の結果は用いていない。推計の結果は、筑波大生だけで1日に乗る人数が
約49[人/日]
であるということが分かった。これより、表3の設定の下で私たちが提案するつくば号の需要は十分にあるといえる。以下において、需要量を推計する際に用いた計算方法を記述する。
ここで求めた
「提案するつくば号が実現した時の筑波大生の利用頻度[回/年]」
をすべての講義データで実施し、合計した。そして、以下のような計算により、
筑波大生1人あたりの1年間における乗車回数[回/(年・人)]
を求めた。
さらに、以下のような計算方法で
筑波大学の全学生数の1年間における乗車回数[回/年]
を求めた。
そして最後に、1年間の乗車回数を1日あたりに変換し、
筑波大学の全学生数の1日あたりの乗車回数[(回/年)/日]
を求めた。
また、提案するつくば号に、2.2.4のアンケート用紙の構成の表4で示された条件を追加した際の、筑波大生の1日あたりの需要利用人数を同様の計算手法で求め、増加量を集計して得られた結果が以下のグラフである。
図7.各条件を追加した際の筑波大生の利用人数
図7の結果より、条件が個別に追加されることで需要の増加が見込めることがわかる。特に循環バスの定期が利用可能であることや、天候、体調条件が悪いときに、1日あたりの利用人数は二倍以上の大幅な増加をすることが分かった。
2.3.3 判別分析による個人属性、交通行動の影響力の推定
次に、アンケート調査で尋ねた個人属性、交通行動が私たちの提案するつくば号の利用頻度にどのように影響しているのかを調べるために判別分析を行った。
分析の目的変数は、2.2.4のアンケート用紙の構成の表3で示された設定のバスの回答者の利用頻度であり、この目的変数を、判別する際に「毎回利用する」「3回に1〜2回は利用する」「利用するかもしれない」「利用することはない」の4グループに分けた。正準相関は0.555であり、適度な当てはまり具合と言える。
図8.個人属性・交通行動が提案したつくば号の利用頻度に与える影響
表5.判別分析のグループ重心の関数
図8、図9から分かるように、アンケート調査で尋ねた個人属性・交通行動の中でも突出して利用する方向に影響を与えているものは
・「循環バスの最終便に乗るために時間を合わせたことがある」
・「つくばセンターから筑波大学周辺まで循環バスを利用し移動する年間回数が多い」
・「循環バス最終便に乗ることができないために東京駅からつくば号に乗ったことがある」
の3つであることが読み取れる。循環バスの最終便に乗るために時間を合わせた人は自身の予定を切り上げる等の損失があるため、その損失がない選択肢を選ぶことは当然の結果と言えよう。循環バスの年間利用が多い人やつくばセンターから大学方面へバスで帰宅できないのを見越して東京駅からつくば号に乗ったことがある人ほど夜間(22時40分以降)の帰宅手段としてバスを選ぶことも当然であろう。
逆の結果として、「アンケート調査で尋ねた個人属性、交通行動」の中でも突出して「利用しない」方向に影響を与えているものは、「循環バス最終便後の夜間の交通手段が自動車である」の1つであることが読み取れる。料金が高いとはいえ、自動車であればつくばセンター付近に駐車場は設置されているし、バスのように待つ時間が一切なく、自転車や徒歩のように疲れるという心配もない。このことを考えれば自動車を循環バス最終便後の夜間の交通手段として選択することも納得できる。
2.4 他事例及び制度の調査
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筑波大生の需要がわかり、提案材料として良い結果が得られたが、残った不安材料として、私たちの目標は法的に実現が可能なのかということがあった。そこで、既に私たちの提案するつくば号のように、高速バスでありながら短距離区間の乗客の乗降を認めるバスの先行事例を調査し、ヒアリング調査によって法的な障壁があるのかを尋ねた。
2.4.1 調査結果に関して
※この調査結果は、調査先から、取り扱い注意の情報とのことでしたので、ここでは掲載いたしません。
表5.仙台−山形線とつくば号の比較
図9.仙台−山形線とつくば号の路線図
2.4.2 山交バス株式会社の回答
※掲載いたしません。
2.4.3 小括
このの調査により、我々の目標とする、高速バスがある短距離区間で一般の路線バスのように乗客を輸送するサービスは、法的には障害のないことが分かった。また、先行事例の山交バス株式会社が、そのサービスによって多くの乗客を得ることができたことも分かった。地域内での公共敵な側面からみた利便性も向上するため、この先行事例のようにつくば号においても実現することが現実化した。
2.5 関東鉄道訪問によるヒアリング調査及び提案
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2.5.1 概要
平成25年6月14日(金)に、関東鉄道土浦本社にて、ヒアリング調査及び提案を関東鉄道へ訪問した。私たちは、第2章で調査した内容をもとに資料を作成し、提案時は、下記のように5つの項目に分けそれぞれの項目についてグラフ集計をしたもの・分析を行ったものをお見せしながら調査結果の報告・提案を行った。
2.5.2 関東鉄道訪問時に用意した資料の要約
1.回答者の夜間の交通行動について
アンケート調査結果をもとに回答者はどの程度22:40分以降につくばセンターから帰宅しているのか、またどの程度循環バスの最終便に乗るために時間を合わせて帰宅した経験があるかの集計し、グラフ化したものを中心に、筑波大学周辺に居住している人々の現在の夜間の交通行動について調査結果報告(図4、図5)
2.回答者が我々の提案する新たな帰宅手段を利用してくれるのか
夜間におけるつくばセンターから大学方面への帰宅手段として、関東鉄道とJRバス関東が共同で運行している高速バス「つくば号」に着目し、“つくば号に、つくばセンターから乗客を乗せてみてはどうか”という提案。また、もし実現した場合筑波大生はどのくらい利用してくれるのか。それを知る指標として、アンケート内でつくば号をつくばセンターから乗車可能にした場合を想定し、回答者に利用頻度を尋ねた結果の集計表(図6)
3.筑波大生にどのくらいの需要があるのか
実現した場合に、実際に1日に何人くらいの人々が私たちの提案するつくば号に乗るのか把握するために需要量の計算結果を報告。(2.3.2)
4.筑波大生の需要は、ある条件を加えることによって増加するのか
筑波大生の需要は、特定の条件を個別に追加することで増加しないかと考え(個別に追加した条件は2.2(3)に記載)、それぞれにおいてのバスの利用頻度を条件なしの条件と同様に、結果を集計・分析した結果を報告。(図7)
5.アンケートで回答者に尋ねた交通行動・個人属性が利用頻度にどう影響しているのか
私たちが提案するつくば号の利用する頻度に回答者の個人属性・普段の交通行動がどのように働いているかを分析結果を提示し、報告。(図8、図9)
以上のような私たちの提案後の、関東鉄道からのご意見は以下のようなものである。
1.高速バスの空いている便を使うことは有効である
2.JRバス関東との共同運行であるため、運営混乱の可能性あり
3.実際に、関鉄グリーンバスが単独で鉾田市で運行している高速バスにおいても、短距離区間のみでの乗客の輸送を行っている
4.現在、深夜に守谷〜つくばセンター間を運行している深夜バスは、会社内での意見を参考にして実現したものである
5.上り便に関しては、東京駅へ向かう乗客の席を確保するため筑波大学中央からつくばセンターまでの乗車は不可能である
これらを踏まえたうえでの、
「関東鉄道運行のつくば号から順次、実施を前向きに考える」
という回答を関東鉄道からいただいた。
2.5.3 小括
上記のヒアリング調査の結果より、私たちの目標は十分に実現可能性のあることがわかった。実現には時間がかかるかもしれないが、今後の実現を期待したい。
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