商業
土浦市では、土浦繁盛記事業やキララ通貨、キララちゃんバス、食のまちづくり販売促進事業といった様々な市街地活性化事業が展開されています。これらの事業は一定の成果を上げている一方で、ヒアリング調査の結果から、市民に知られていない・特定の市民にのみ活用されているといった現状があります。
また、土浦市には、土浦一高旧本館や霞ヶ浦総合公園といった魅力ある土地が存在しますが、訪れる人が少ないのが現状です。
ここで私たちが取り入れる学習は情報化です。平成27年にはスマートフォンの保有率が50%を超えるなど、情報化が急速に進んでいます。このような状況の中で、金沢市では、市からのお知らせやイベント情報、防災臨時ニュースなどを提供する「公式金沢市アプリ」を市が提供し、宮城県では、2016年に世界的に大ブームとなった「Poke'mon
GO」によるまち歩き効果で、20億円の経済効果が生まれるなど、アプリケーションがまちを変える時代になりました。
そこで私たちは、土浦の強みである「経験・土地」に、「情報化」という学習を掛け合わせ、土浦市の公式アプリ「Tsuchiura GO」を提案します。「Tsuchiura
GO」には①市街地活性化事業の一元化と②まち歩きを喚起する2つの機能が備わっています。
①市街地活性化事業の一元化
土浦市で行われているさまざまな市街地活性化事業を「Tsuchiura GO」を通して一元化し、これらの事業を一括で見える化します。各事業を市民に広く知ってもらうことで、まちの活性化につながります。さらに、地域のタイムリーな話題や、イベントの情報、バス情報も同様に見える化することにより、生活の利便性が向上します。
図1 Tsuchiura GOイメージ
②まち歩きの喚起
「Tsuchiura GO」は市民のまち歩きを喚起することによって、土浦市を知り、学ぶことができるアプリケーションです。具体的には、土浦一高旧本館や霞ヶ浦総合公園など定められた土地に足を運ぶことで、地域ポイントを獲得できるゲーム機能を持たせます。この地域ポイントは、「キララ通貨」を電子化したものであり、地域の加盟店で利用できます。地域ポイント獲得を動機に、まち歩きが増えて、まちの活性化につながります。
図2 Tsuchiura GOイメージ
・実現可能性
Tsuchiura GOの開発費と維持費を、公式金沢市アプリを参考に、以下のように算出しました。Tsuchiura GOの開発に関しては、土浦商工会議所やまちづくり活性化土浦といった組織と連携して行います。開発費用に関しては、土浦市は地域創生加速化交付金を国から交付されているので、この交付金から、開発費用を捻出します。維持費用に関しては、市内店舗の広告費や、土浦商工会議所やまちづくり活性化土浦といった組織からの協賛金を利用します。
図3 Tsuchiura GO事業スキームと推定される費用
交通
土浦藩は9万5千石と、常陸国で水戸藩に次いで大きな領地を領有していました。その中心となるのが土浦城、通称亀城とその城下町です。土浦城は水路が張り巡らされた水城であり、水路の形が亀の甲羅に似ていることが亀城と呼ばれるようになった所以です。水路の多くは埋め立てられてしまいましたが、この水路の存在は土浦の強みと言えます。
また常陸国2番目の城下町として栄えた土浦は近代以降、茨城県南の行政・経済の中心となりました。そのため、現在でも国や県の行政機関が多く立地しています。具体的には、国が18施設、県が19施設と、つくば市の国が8施設、県が12施設と比べて多いことがわかります。
ここで私たちが取り入れる学習は、リノベーションです。韓国の清渓川では道路建設によって失われた川を再生、富山では路面電車(LRT)がまちづくりの軸になるなど、経済成長とともに忘れられたものが、近年再評価されています。
そこで私たちは土浦の強みである「城下町」に「リノベーション」という学習を掛け合わせ、「水路を歩こう計画」を提案します。具体的には亀城公園と土浦駅を結ぶ水路の復元と、2つのゾーン設定を行います。亀城公園周辺を「②新たな土浦の中心ゾーン」として平日のにぎわいを、土浦駅周辺を「③Tsuchiura
GOゾーン」として休日のにぎわいを創出し、これらを「①自然と歩きたくなる水路」で結ぶことによって、平日も休日も人でにぎわう中心市街地の実現を目指します。
図4 水路を歩こう計画図
①自然と歩きたくなる水路
前述の通り、亀城公園から土浦駅を結ぶ水路を復元します。水路の具体的なイメージは図5のとおりです。車道部分の水路を復元し、それに調和した街並みを実現します。これによって、市民の憩いの場となり、自然と人でにぎわう水路となります。
図5 自然と歩きたくなる水路イメージ
②新たな土浦の中心ゾーン
本ゾーンでは、行政機関の集約によって市民に歩いてもらう提案をします。前述の通り、土浦には多くの行政機関が立地していますが、茨城県の土浦合同庁舎では築48年を迎えるなど、施設の老朽化が進んでおり、また土浦駅から1km圏内の行政機関は4施設のみとなっており、行政機関は郊外に点在しています。そこで、本ゾーンに合同庁舎を建設し、土浦合同庁舎をはじめ、土浦税務署、土浦法務局を、本ゾーンに移転・集約します。これにより、亀城公園周辺が再び土浦の中心になり、平日のにぎわいを創出します。なお今回の提案で上の3つの行政機関を選択した理由としては、他の行政機関はその性質上、駅前に立地することが不適当であったり(県立中央青年の家や土浦拘置所など)、すでに移転が決定(土浦労働基準監督署とハローワーク土浦)していたりするからです。
図6 新たな土浦の中心ゾーン
③Tsuchiura GOゾーン
本ゾーンにはTsuchiura GO特区を設定し、それにより市民に歩いてもらうゾーンにします。具体的には特区内のTsuchiura GO参加店舗に対し、税金の軽減や家賃の補助を行います。また、これらの店舗で買い物をしたTsuchiura
GO参加者に対し、Tsuchiura GOの地域ポイントを上乗せすることによって、店舗を特区内に集約し、休日のにぎわいを創出します。
図7 Tsuchiura GOゾーン
・実現可能性
JICA-STRADAを用いて、水路復元による土浦駅周辺の交通への影響を分析しました。その結果、水路復元によって、周辺道路の交通量が増加するものの、混雑度(交通量/交通容量)は1.0を超えず、渋滞は発生しません。また今回の水路復元かかる費用を、韓国の清渓川の事例を参考に、30億円と推定しました。
図8 混雑度の変化
農業・医療
土浦市には、最新の設備を備える土浦協同病院が存在し、医療環境に恵まれています。
また、耕作放棄地や新治地区の3つの廃校など、活用できる資源があります。
ここで私たちが取り入れる学習は、「園芸療法」です。園芸療法は、農業と医療を繋げて考えることとして知られており、健康の増進やストレスの軽減、高齢者及び障害者の就労支援、身体機能の向上といった効果が認められています。また、農作業に医師が関わり支援することで、健康な人からそうでない人まで老若男女どのような人でも、農業に関わることができます。こうした効果から、近年、園芸療法は単なる作業療法ではなく、社会問題を解決する仕組みとしての期待が高まっています。
そこで私たちは、土浦の強みである「農地や廃校、医療機関」と「園芸療法」という学習を掛け合わせ、「リハビリ農園」を提案します。市内及び市外から農業に興味がある人をはじめ、高齢者、リハビリ患者、医者、医療実習生などを新治地区に呼び、新たな市民参加型農園を計画します。これによって、広く農業に関わり学んでもらうと同時に、高齢者や障害者を中心に健康を増進させます。また、廃校となった藤沢小学校、斗利出小学校、山ノ荘小学校の3校のうち新治地区の市街地に最も近い藤沢小学校を付属施設として活用します。具体的には、農園で収穫された農産物の加工、農産物及びその加工食品の販売所とすることに加えて、農産物を調理した食事を市民に提供する食堂を設け、地域との交流を促します。また、市外からの参加者が宿泊する施設としても利用します。これらの提案によって、土浦市における他分野の課題をまとめて解決することを目指します。
図9 廃校となる3校の位置
図10 リハビリ農園概要
・実現可能性
園芸療法を市民参加型農園に適用させた例として、北海道の留萌市で計画された「リハビリ・リンゴ園」があります。この農園は継続的に活動しており、この農園で商品化されたリンゴジャムがモンドセレクション銀賞を受賞したなど、農業プロジェクトの一つとして成功を修めています。また、市外から参加した人が、その後、留萌市に定住したといった報告もされています。農業と医療環境が整っている土浦には十分なポテンシャルがあると考えられます。
また、廃校を商品関係施設として活用することは、もともと調理室が備わっていることが多いために、それほど難しいことではありません。実際に、鳥取県湯梨浜町の羽合小学校は廃校になった後、センコースクールファームという食品加工施設として活用されています。ここでは、地元の障害者や高齢者を雇用し、野菜類の加工及び販売を行っています。
図11 リハビリ・リンゴ園
福祉
土浦市内の公園は、市内全域に分布しています。一方で、霞ヶ浦総合公園は豊かな自然があるにもかかわらず、それを活かしきれておらず、「土浦市民が感じる土浦の活かしきれていない資源 第5位」となっています。さらに公園全体で見ても、平成27年度の市民満足度調査より、「公園などの子供の遊び場などの整備」の項目は、49位/55位と公園に対する満足度が低いことがわかります。このことから、公園の活用が求められており、かつ可能であることがわかります。
ここで私たちが取り入れる学習は「市民参加」です。地方行政の財政状況の悪化や、多様化した住民のニーズ、これらを受けた市民のまちづくりへの参加意欲の高まりなどにより、現在、市民と行政がまちづくりを行う「市民参加」が多くの自治体で取り入れられています。
土浦の強みである「公園」と「市民参加」という学習を掛け合わせ、「わがまち公園づくり」を提案します。これは、市民が自ら公園を活用し、作っていく取り組みです。公園で市民参加を取り入れる理由としては、市内のどの地区にも存在しているため、シンポジウムのような1会場のみの開催に比べ、住民の移動負荷が低減でき、また公園はすべての住民が利用可能なオープンスペースであるため、気軽に参加でき、偶発的にまちづくりに触れる機会を作り出すことができます。
今回の提案では、総合公園の霞ヶ浦総合公園、運動公園の新治運動公園、街区公園の樫の木公園、総合公園の乙戸沼公園の4つの公園でわがまち公園づくりを行います。これらの地区や分類の異なる公園を選ぶことで、将来的に様々な公園に応用していくことを目標としています。提案のフローは以下のとおりです。
①NPO団体などの市民団体に公園で住民向けに企画を実施
想定される企画内容として、ヨガや太極拳などのスポーツ教室、親子向けの子供同士が遊べるような企画などが考えられます。市民団体へのヒアリング調査の結果から、現在各団体がバラバラに行っている企画を整理し、連携などもしていく仕組みを整えるのと同時に、公園自体も現状より柔軟な使い方をできるよう調整していくことで、公園の活用から活性化が実現できると考えられます。また市民へのヒアリング調査の、「子供と一緒に参加できるイベント」や「ほかの子供たちと交流できるようなイベント」、「簡単な体を動かせるイベント」があったら参加したいという結果から、各公園の利用者のニーズにマッチングするような企画を実施すれば、参加者が増え、公園の活性化が図られると考えられます。
②実際に公園を活用して浮かび上がった課題や新しくほしい設備などについて市民の間で話し合う
ヒアリング調査でも「遊具がつまらない」や「犬の飼い主のマナーが悪い」などの公園に対する不満が挙げられましたが、その内容は公園によって様々です。そこで、その公園を利用する市民が主体的に課題などについて話し合うことにより、その公園に深くかかわるようになります。
③市などと協力しながら市民が望むような公園を市民の手で作っていく
②までの過程で浮かび上がった課題や改善点を、実際に形にしていきます。遊具や制度に関しては、行政との連携が必要なので、ここで行政との協議会などの過程を経て、その地域のニーズに合った公園を実際に作っていきます。市民が自ら公園を作っていくことで、市民が望む公園が実現し、また公園に対して愛着を持ち、普段から公園に関わっていくようになります。
図12 わがまち公園づくりのイメージ
・実現可能性
市民団体による公園の活用に関しては、兵庫県の有馬富士公園で行っている「パークマネジメント」という事例が既にあります。この公園は、企画を行う市民の団体を遊園地でいう「キャスト」と見立て、様々な企画を実施。それにより、10年間で公園の入園者が2倍近く増えたというというものです。この公園は霞ヶ浦総合公園より規模が大きいという違いはありますが、土浦の様々な市民団体を活かせば土浦においても応用可能であると考えられます。また、この事例では、公園の利用促進・活性化を最終目標としているのに対し、今回行う提案は、公園の活性化から、公園を実際に変えていくという過程に重きを置いています。
この提案を行うことで、行政側にもメリットがあります。まず、公園の分類ごとの清掃費などの維持管理費は、柏市の試算によると街区公園:29万7 千円近隣公園:500 万円地区公園:510万円となっており、その内訳は以下のグラフの通りです。このグラフから分かるように、街区公園の維持費のほとんどが清掃や枝の剪定・草刈りなどの費用が占めていることがわかります。清掃や枝の剪定・草刈りなどは住民でも十分対応可能で、実際に柏市などでは、そのような清掃などの維持活動を一部住民のボランティア団体に委託している事例もあります。よって、土浦市に関しても、この提案が実現すれば、各公園の維持管理費が抑えられ、その分を公園の改善に充てることも可能だと考えられます。