C地権者へのヒアリング調査結果
つくば市からの紹介を受けて、2001年(平成13年)6月14日(木)につくばエクスプレス「島名駅(仮称)」周辺の開発地域に土地を所有している、つくば市島名在住の地権者(K氏)にヒアリング調査を行った。ヒアリング項目は以下の通りである。
1、 里山(所有している土地)の現状について
2、 金銭的負担・管理について
3、 メリット・デメリットについて
4、 緑(里山)を残す意識があるかどうか。(社会的視点と個人的視点それぞれから)
5、 利用―方法・頻度について
6、 周辺からの声
7、 これからについて
8、 その他
以下順に、調査した結果を掲載する。
1.里山(所有している土地)の現状について
島名集落は圏央道とつくばエクスプレス(以下、新線)事業による東西の開発によって森林を伐採せざるを得なかった。しかし、行政(つくば市)に緑・集落保全の観点から開発地区指定の緩和を申請し、その結果いくらかは緑を守ることができた。
しかし、農業の後継者不足、後継者といっても若くて50歳代であること、K氏自身が高齢であることから実際の里山の農業利用はできず荒れているというのが現状である。K氏は農業を続けているとはいえ、その収入はわずかなものであり、年金収入に頼っているというのが現状であるという。それでも今までは、所有する赤松林から得られる松の葉がたばこや野菜・椎茸の生産者に用いられていたので、わずかながらも里山を利用する形態はあったものの、昨夏の松枯れによってそれもできなくなっている。かつては茨城県が松の消毒などの処置を行っていたが、今ではそれも無い。現状には満足せず、満足する方向にも向かっておらず、理想とどんどんかけ離れていっているという。
2.金銭的負担・管理について
草刈りなど行っていたものの、農業利用が困難な現在ではそれも行き届かない。天気のいい日に行う程度である。かつては地権者の責任ということでやっていたが、今は年齢的にも困難である。たばこ生産者が松の葉を得ることの引き換えとしてある程度は管理していたものの、今日ではそれもない。金銭的負担は税金(固定資産税)があることである。
3.メリット・デメリットについて
メリットはなく「ただ(里山を)もっているだけ」というのが現状である。デメリットは上記2に記載したことである。強いて言うならば、里山という森林をもっていることで、CO2・エネルギー問題にいくらか貢献しているという自負があることぐらいである。
1. 緑(里山)を残す意識があるかどうか。(社会的視点と個人的視点
それぞれから)
K氏は個人的にも、社会的にも緑は残すべきだと考えている。一度壊してしまった自然は二度と戻らないから将来の世代のために残しているという。ただ、全員がそういうわけではなく、社会的には緑を残そうという意識はあるものの、地権者として経済的負担を考えると理想論だけを追い求めても無理があるというのも理解できるという。将来のことよりもまず今の自分をという人も多くいる。実際に島名地区でもかなりの地権者が開発のために売却したとのことである。
5.利用―方法・頻度について
利用は現在ない。かつては薪を1万束作っていたが松枯れでできなくなってしまったことと、海外からの安い輸入品に押されて、採算がとれないことから行っていない。たばこ・野菜・椎茸の生産者が松の葉を求めて山に入っていたがこれも松枯れのために今年で最後だろうと見ている。
6.周辺からの声
自分の土地に人が入ってくることは悪さをしなければかまわないが、かつてユリの花をごっそりもっていかれたことがあった。学園地区に居住する方々からは、地権者の集まりで、緑地保全要求が出されている。しかし荒れてしまっている現状では無理である。都市住民の市民農園という形での参加があるが、実際には1年ともたないから無理だろうとみている。同様につくば市の管理で市民農園という考えがあるが無理だろうとみている。
7.これからについて
緑地保全の観点から「保健保安林」指定の申請を農水省にだしているが、申請が通る見込みはなく、行政にその気はないと感じている。指定が受けられれば土地の所有は名目だけになるものの、しかるべき管理もできてある程度の施設(小規模な喫茶店)も建てられて、学園地区の人々にも利用される望ましい形ができると考えている。しかし指定をうけてしまうとつくば市に税金が入らないことから抵抗がある。
本気で緑・集落を守る気があるのなら行政が本気でやってくれないと無理がある。いくら個人単位で守る意識があっても税金などで優遇をうけなくては限界がある。そうでなければ島名地区の緑もどんどん売られて開発されていく可能性は高いとみている。そして行政自体も担当者がころころと変わることや政治家・行政・土木業者の対応が現実にあっておらず後手になっていることから不信感を抱いている。現実は法制度だけではなく、農業の長年培われた知恵・慣習で里山を守っているということを理解して欲しいとのことであった。
8.その他
新線開発計画自体が大きすぎると感じている。かつては野ウサギも出る環境であったが県道明野線の開通によっていなくなった。このように道路には自然を分断するという面がある。新線開発には道路整備も大きく計画されているが、自然との折り合いをどのようにつけるのか。そもそも道路整備と緑・集落の保全はジレンマである。しかし道路や駐車場を整備しなくては島名駅は採算の取れないただあるだけの駅になってしまうのではないか。計画によれば島名駅周辺には住居・商業施設ほか様々な計画があるが、もっと駐車場を考えなくては車社会つくばに対応できない。そのような観点から、開発計画にのって土地を売っても、十分な見返りを期待できないと考えてとりあえず土地を売らないでおくというのも一つの選択肢だと考えている。