3.文献調査


3-1.ドライミスト

<3-1-1 ドライミストとは>
 ドライミストとは 、水が蒸発する際に周囲の熱を奪う「気化熱吸収作用」という水の特性を利用した冷房装置の事である。  ドライミストは主にポンプ・配管・ノズルの3パーツから成る。まずポンプで水に高圧をかけ、その後配管を通し、ドライミスト用のノズルから水を噴出させる。 その際、水は0.016mmという微細な霧となるため、肌や服についても人は濡れたと感じることはほとんどない。 またエアコンと違い室外機からの排熱がないため、ヒートアイランド現象の緩和も期待される。
 ここでドライミストによる湿度上昇の問題について触れたい。 ドライミストを気温30℃の場所で稼働させた場合、1℃低下させるごとに5%の湿度上昇が見込まれている。人間が不快感を覚えるのは湿度が80%を超えた時なので 、気温30℃・湿度70%の場所であれば、2℃の気温低下は可能という計算になる。

     図:ドライミストの仕組み
http://www.shimztechnonews.com/topics/t050705.htmlより

<3-1-2.ランニングコスト>
 この表はドライミストの考案者である東京理科大学の辻本誠教授によって算出されたものである。 6〜9畳(9.72〜14.58u)を冷却する際のエアコンとドライミストのランニングコストの比較表なのだが、エアコンが1600円程かかるのに対し、 ドライミストは360円程度と、エアコンの約1/5ですんでいる。  ヒートアイランド現象の緩和や、経済的なランニングコストからドライミストを導入するメリットは多く、日本国内でも六本木の66プラザ、 秋葉原駅西側交通広場、新丸の内ビルディングや、つくば付近では土浦イオンで導入されている。
図:ドライミスト ランニングコスト
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20080707/1016476/?ST=life&P=7より

<3-1-3.導入事例>
 日本でドライミストを最初に導入したのは、2005年に行われた愛知万博であったとされている。 当時名古屋大学で教授をされていた辻本教授(現東京理科大学教授)は、ドライミストの研究開発に当初から携わっており、 愛知万博で使用されたドライミストは名古屋大学の3つの研究室と5つの民間企業と共同で生産開発されたものであり、 その研究開発期間は約2年にも及んだ。各パビリオンの周辺や屋外のループ状になっていた歩行者用通路など、2000個ものドライミストを設置した。 これは涼を生み出すことのみならず、演出としても利用されていた。現在では、このドライミストは豊田市や安城市がそれぞれに再利用をしている 。豊田市では、豊田市駅のデパートと駅とをつなぐ屋外通路や広場にドライミストを設置した。
 また、大阪市では毎年の猛暑に市を挙げて対策をとる方針ができており、それを「ミスト作戦」という愛称で盛り上げている。 大阪市が画期的な取り組みをしており、ドライミストを市内の小中学校に導入しているのである。 窓付近にドライミストを設置することで外からの風の温度を下げ、教室内を涼しくするというシステムだ。さらに扇風機を稼働させることで、 より気温の低下がみられドライミストの効果を上げることができたと実証している。児童に行ったアンケート調査において、 多くの児童がドライミスト導入前はドライミストに対して否定的なイメージを持っており、「気持ち悪い」という回答が多かった。 しかしながら、実際に導入した後の調査では、多くの児童が「快適である」と回答し、今後のドライミスト稼働に対しても前向きな姿勢であるという結果が得られている。



<3-1-4.現地見学>
 実際のドライミストの概要を把握するため、六本木まで見学に訪れた。 見学日は5月3日(火)、曇り、気温15度ほど。まだ涼しかったためドライミストは稼働していなかった。 地下鉄六本木駅から降りてエスカレーターをのぼってすぐのアーケードに30m設置されていた。 下には簡易な休憩スペースも設けてあり、夏場には人々の集まる涼空間としてその機能を果たしている事が見学して伺い知る事が出来た。
<3-1-5.ドライミスト実験>
 ドライミスト装置を導入した事例があったものの、その冷却効果を実際に確認するために、市販のミスト噴霧装置、 ガーデンクーラースターターキット(株式会社タカギ) を使用して次のような簡単な実験を行った。 5月25日(水)、 13:00~14:00にかけて、ドライミスト(ノズル×3)をアパートのベランダに設置し、同時に温度計をベランダ、窓の付近、部屋の奥に設置し、 どの範囲までドライミストの効果があるのかを、10分毎の気温変化を記録した。結果を右に示す。

 グラフの赤線は最も気温低下が大きかったベランダの温度計の結果である。 グラフの青線は比較対象として用いたつくば市(館山)の気温。 実験の結果、ドライミストを稼働して10分後に2.3℃の気温低下が見られ、その後気温は少し上昇した。これは、ドライミストを稼働させたことによっ 冷却効果が表れた後、ミストによってベランダの湿度が上昇しミストが気化しづらくなり、冷却効果が弱くなったためであると考えることができるが、 つくばでもドライミストの効果はあることが実験から予測される。ただし、ベランダは閉鎖空間であるので、実際に野外の開空間に提案をする際には 風向きや冷却効果の得られる範囲が異なると考えられるので、提案を実現する前には提案場所での実証実験を行うことが望ましい。

 一般にドライミストは人の頭上から噴霧するので、装置によるある程度の範囲の空間の冷却効果は期待できる。ドライミストの冷却効果を最大限に享受するために は受動的ではなく、能動的にミストを浴びることが必要である。それはミストの量が多い所の方が涼しいが、ミストを浴びることによって濡れるためである 。したがって、ドライミスト装置を設置する際には冷却効果とミストによって濡れるという二つのバランスが取れるように配慮しなければいけない。

3-2.打ち水



<3-2-1.打ち水とは>
 打ち水とは気化熱を有効活用するもので、地面に水をまいてその水が蒸発するたびに地面から熱を奪うことで 、まわりの空気の温度を下げるというものである。この打ち水に私たちは雨水が使用できると考えた。つまり、ただ撒くというローテクということに加えて 、雨水を使用するというエコな要素を持ち合わせた涼の取り方を提案したい。

 ここで打ち水の具体的な効果について、独立行政法人国立環境研究所所属で都市の熱環境について研究をしている一ノ瀬氏にお話を伺ったところ 、打ち水は朝や夕方の比較的気温が低い時間帯に行うのが効果的であるということがわかった。
<3-2-2.打ち水の導入例>
 東京都裏原宿では、街路空間に涼を生み出すように打ち水が行われている。その冷却効果を示したものが下図である。 打ち水を開始した12:00以降、最大で約2.0℃もの温度変化があるのがわかる。この事例では日中に実施しているが、先述したようにより効果をあげるためには朝夕の実施が望ましい。

  別の事例としては岡山市撫川のRSKバラ園西側駐車場で、打ち水実験が2008年8月に実施された例がある。方法としては、大きさ1200uの駐車場に、 10分間で500リットル、それを計4回(11 時13 時15 時17 時)にわたり、打ち水を行った。その結果、体感温度が3〜5℃低下するなどの効果が得られた。
<3-2-3.エアコン室外機への打ち水の導入>
 エアコンの室外機など夏期に排熱源となり、ヒートアイランドの1つの原因となっている。打ち水は、道路など地面に行うばかりでなく、 こうしたエアコンの室外機付近へ行っても周辺空気を冷却し、ひいてはエアコンの冷却効率を高める効果が期待できる。 中部電力ではエアコン室外機に打ち水を噴射することで、エアコンの運転効率が向上し、省エネが実現されることを実験で証明している。 実験で外気温度が35℃の時、図5のように消費エネルギーが26%削減され、また排熱温度が約3℃も低下していた

次にこれの方法をどの場所に設置するのかを見ていきたい。



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