5-1.ヒアリング調査の目的

第4章で説明した神奈川中央交通の事例を参考に、つくば市にも自転車積載バスを導入したいと考えているが、導入の実現には、さまざまな壁が存在すると予想された。
そこで、導入への壁や自転車積載バスのシステムの詳細、導入の経緯などを詳しく知るために、神奈川県都市計画部交通企画課、神奈川中央交通株式会社、つくば市交通政策化の三箇所でヒアリング調査を行った。

5-2.神奈川県都市計画部交通企画課

調査日時:平成21年5月29日
調査目的:神奈川中央交通の自転車積載バスに対しての県で行っている援助、行政として必要な規制について詳しく調査することで、導入の際につくば市で必要となることを調べる。

調査内容:
まずラックバスを導入するに至った背景について伺ったところ、自転車積載バスが走っている茅ヶ崎市周辺では、もともと自転車の需要が高く、海岸脇にサイクリングロードを作るなど自転車そのものへの意識が高い土地だった、ということだった。
そこで神奈川中央交通が外国で使われていた自転車積載バスに目を付け、積載バスを導入すれば、事故防止や環境への配慮などで需要が見込めると判断し、導入を検討したそうである。
その際に需要調査を行ったかを伺ったが、県側では行っていないとのことだった。
自転車積載バスの導入は神奈中側が主体で、導入への動きは大体二年前から始めていたそうだが、交通法など法律面で改良しなければいけない懸案が多かったという。
そのため県は国や県警との仲介という役割で協力し、道路交通法関係の条件を少しずつクリアしていったということだった。
県側は自転車積載バス導入に金銭面では負担をしておらず、法律面での協力が主であり、現在はパンフレットなどによる広報活動を行っているそうだ。
自転車積載バスの許可が下りるためにはいくつか条件があった。
まずラックをつけることでバスの全長が伸びることについて。
道路交通法により車体の延長は全長の10分の1までと決まっている。
そのため全長1075cmの神奈中のバスでは自転車を載せるには二台が限界となる。
ラックの長さが二台分になったのはこれをクリアするためである。
他に条件をクリアするためにナンバープレートの移動、自転車を前後に積載した四パターンでの光度(cdカンデラ)調査、などを行った。
ラック自体の安全性については、アメリカの企業の製品を輸入しており、ゴムの固定用レバーは急ブレーキにも耐えられるものであるとのことだった。
ラックが前面についている理由については、ラックをもし後ろにつけると運転手側からは作業が終わったか確認できないからだということだった。
最終的にナンバーやウインカーが見えるか、ライトの照度は規定に達しているか、交差点で曲がりきれるかなどを様々な条件でシミュレートして安全であることを確認した上で、県警と運輸局が許可を出たそうだ。

考察:
神奈川県で行ったヒアリングでは、自転車積載バスの法律面で考えるべきことを教えてくださった。
安全についての調査は神奈川中央交通がすべて行っており、費用も全てそちらに任せてあるということから、関東鉄道に導入したとしても、つくば市の住民に税金の負担を負わせることはなさそうだと言える。
自転車積載バスについて県のほうでも好意的に見ているらしく、計画当初は県側では観光地としても有名な箱根を走らせるルートなどを考えたりもしたそうだ。
その案は勾配が急なためラックがぶつかるかもしれないなど、調査が必要だったため見送りになり、とりあえずとして試験期間は現在の平坦なルートを走らせることになったそうだ。
しかし勾配でのラックの安全性については、未調査ながらほぼ安全であると見られているようだった。
もしつくば市で導入できれば、筑波山への観光ツールとして活躍することも期待できると考えられる。
(対応:神奈川県都市計画部交通企画課 伊藤明様、岩崎忠様、岩本一人様)

5-3.つくば市交通政策課

調査日時:平成21年5月29日
調査目的:自転車積載バス導入の提案を行い、つくバスでの導入の可能性について意見を聞く。また、つくば市の現在の交通状況や現在の取り組みを調査する。

調査内容:
つくば市で自転車積載バスの導入について説明したところ、つくバスに導入するとしたら利用者の邪魔になってしまうということだった。
つくバスは車椅子の方でも利用しやすいノンステップバスということを利点としているので、人が多いときには自転車は危ないということだった。
その点に関しては、神奈川中央交通の例からも、ラッシュの時間帯は利用をやめるということにしていたので、その点について説明したところ、それならば可能かもしれないとのことだった。
自転車積載バスの導入に対しての、法律や条例などの制約については、法的な問題はないが、安全性について警察との協議が必要とのことだった。
自転車積載バスの構造についてどのようなタイプがいいと思うかお聞きしたところ、つくバスはノンステップバスなので、後方がとても高くなっているそうだ。
そのため中に乗せるのは大変だと思うので、外につけるラック形式のほうが妥当、とのことだった。
またラックをつけるとしたら、外側の後ろだと停車中に盗まれる危険性があるから前のほうがいいということだった。
現在のつくば市の自転車利用の現状についてについてお聞きしたところ、自転車の市民の利用台数は把握していないとのことだった。
また、「自転車まちづくり」についてお聞きしたところ、現在「自転車のまちづくり基本計画」を策定中で、今後自転車中心の街づくりを推奨していくそうだ。
「自転車まちづくり」の宣伝については、つくば市各所でパンフレットを配布して広めているということだった。
現在の自転車利用の面から見て、どこに自転車積載バスの導入をすれば可能性があるかお聞きしたところ、大穂地区では、自転車とバスの需要あり通勤や買い物で自転車が多く利用されているとのことだった。
また龍ヶ崎鉄道(茨城県)では、自転車積載電車を運行中だが、通勤・通学時間帯の混乱を避けるため、積載は予約制となっているそうだ。
導入モデルとなっている(研究学園〜つくばセンター)のルートについてお話したところ、その路線がモデルとして適当なのか、利用者のターゲットは誰なのかをきちんと考えるべきでは、とのご意見をいただいた。
またレンタサイクルのほうが自転車とバス両方に利便性があるのではないかという提案もいただいた。
市は現在レンタサイクルの新しいシステムを検討中で、たとえば研究学園駅にレンタサイクルの拠点をつくって、センターからバスで来た人がそのレンタサイクルを使って買い物や通勤をするというシステムを検討中だそうだ。
積載バスは台数に限りがあるが、レンタサイクルならもっと多くの人に使ってもらえるのでは、ということだった。
自転車積載バスを導入するとしたら、市の方で助成をすることは可能か、という点についてお聞きしたところ、もし導入したとしても、今のところ市は助成しないが、将来的には助成する可能性はある、とのことだった。
クーポンの案についてもお聞きしたところ、発行は協賛店の負担でも、買い物客が増えるから協力してくれる可能性はあるし、地域活性化にもつながるかもしれない、とのことだった。
また導入モデルについても、関東鉄道よりも、現在の利用者が比較的少ないつくバスのほうが、積載に適しているのではないかとのことだった。
それならば市も協力しやすいし、もし試験運行をしたいのなら、そのときは協力するかもしれない、ともおっしゃっていた。

考察:
自転車積載バスの提案に対し、印象は良かった、というのが収穫であった。
つくば市が現在勧めている「自転車まちづくり」と方向性が合致していることもあり、エコロジーや地域活性化の面からも期待は高そうであった。
今後の課題としては、ヒアリング中にも指摘を受けた、研究学園〜つくばセンターでどのような需要が見込めるのか、という点である。
需要に関してはルート沿いの住民にアンケートを行い、導入されたらどれだけの利用者がいるのか、どの層が利用してくれるのか、などをデータで示す必要があるといえる。
またバスの詳しい情報もアンケートに記載する説明があるといえる。
そしてレンタサイクルについて、どう対応するかという点である。
レンタサイクルに関しては、つくば市はレンタサイクルシステムを一回導入しているが、その後は広まらず、あまり利用されていないということが事前調査で分かっている。
なぜレンタサイクルはうまくいかなかったのかを明らかにし、自転車積載バスがレンタサイクルより優れている、ということを言わなければいけないということがわかった。
(対応:つくば市交通政策課 中澤様)

5-4.神奈川中央交通

調査日時:平成21年6月1日
調査目的:自転車積載バス導入の詳しい経緯や、実際に導入にするにあたっての問題点や、現在の利用状況などを聞き、実用性の確認を行う。

調査内容:
自転車積載バスを導入した背景と経緯についてお聞きしたところ、神奈川県でも聞いたように、自転車積載バスが走る藤沢市と茅ヶ崎市はもともと自転車の需要が高い場所であり、南にはサイクリングロードがあるなど、自転車の利用率は高かったそうだ。
多くの自転車が走る様子は日本の北京と言われるほどだ、とも言われていた。
また各路線が走る藤沢市と茅ヶ崎市は環境に対する意識が高いことから、自動車よりも二酸化炭素排出量などの面で公共交通機関が優れているため、市の政策と合致していることからも、地理的需要は高いと判断したそうである。
ラックが2台であることに関しては、先の神奈川県のヒアリングでも分かっているように、道路交通法の関係上、2台が限界だったそうだ。
ラックを輸入しているアメリカの会社では他にも1台用や3台用など様々な種類があるということだった。
バスが走っていた辻堂駅〜茅ヶ崎駅周辺のルートは合計13台のバスで営業していたらしく、今回自転車積載ラックを試験期間ということで、半分の7台に設置したそうだ。
自転車積載バス自体は今後の需要次第でさらに増やしていく予定だそうだ。
利用状況についてお聞きしたところ、平日はまばらで、休日に数台乗っていることがある、という状況だそうだ。
現在バスの中にアンケートと回収箱を置き、利用者に自転車積載バスの利用について調査しているということだが、その中で利用目的について調べると、一番多かったのはレジャーだそうだ。
しかしこの結果はアンケートを開始した時期が、地域のお祭りとかぶっているため、その影響でレジャーが増えたのかもしれない、ともおっしゃっていた。
導入する前に需要調査を行ったか伺ったところ、需要調査は行わず、まず自転車積載バスを導入し、様子を見る計画だったそうだ。
なぜ行わなかったのかお聞きしたところ、ラックが設置されたバスは初めて見る人にとっては怪しいものだし、どんな物なのかわかりづらいので、需要を調べることはあまり考えていなかった、ということだった。
ラックの使用料金は100円であるが、この設定は初乗り料金170円の半額以上という規約から考えて、ワンコインで気軽に、ということで設定したという。
神奈川中央交通としては、試験期間としてとりあえずバスを走らせてみて、市民に自転車積載バスに慣れてもらい、便利なものだと知ってもらうことで、徐々に需要を増やしていこうという考えであったそうである。
今のところ200枚近くが集まっているそうだが、反対意見は一人もいない、ということらしい。
ルート選定の理由についてお聞きしたところ、辻堂駅?茅ヶ崎駅間の既存のバスルートの中から、道路が平坦で走りやすく曲がりやすいルートを選定したとのことである。
ただしバスが通るルートは、舗装はされているが道によっては車道が狭いところもあるので、実際にラックを積んだときのバスの全長を考慮して、走行した時のバスに取り付けられたラックの軌跡を測り、ぶつかる危険性がないか調査を行ったそうだ。
県の協力体制についてお聞きしたところ、まず自転車積載バスを導入するにあたり、バス車体にラックを装着する為に、道路交通法等を確認し、それに準拠した設置方法を考案していた。
その際、神奈川中央交通だけでは難しいため、県警や運輸省との仲立ちとして神奈川県に協力を依頼したということだった。
前述のとおり、県からは経済的な支援は特に受けておらず、ラック取り付け作業や調査費用は神奈川中央交通ですべて賄っているそうだ。
ラックを取り付けるためにはバンパー部分を工事する必要があるが、それにはいくら費用がかかったのか質問したが、企業秘密ということで詳しくは教えていただけなかった。

考察:
ヒアリングの結果から、自転車積載バスを導入した神奈川県の事例の環境条件をつくば市のそれと比較してみると、両方とも自転車の需要は高く、道路も整備されて走りやすく、市が自転車利用を推進している等の共通点が見られた。
また今回実際にバスが走るルートを一周していただいて、茅ヶ崎周辺の街並みを見ることができた。
バスが走るルートは場所によって道路環境が大きく異なり、きちんと歩道が整備された道もあるが、中には自転車がわきを通りぬける狭い道もあり、曲がりきれるかハラハラしてしまう危うい部分もあった。
道路環境に関しては、筑波の方が上回っていると思われるので、つくばでも自転車積載バスを導入する環境は整っていると判断できる。
需要調査をやっていない、というのは意外だった。
データを参考にさせてもらおうと考えていただけに、調査が難しくなってしまった。
先のつくば市のヒアリングで、試験運行をするならば協力してもいい、というお言葉をいただいているので、実際に走らせるならば関東鉄道よりつくバスの方が現実的か、という意見もグループ内で出てきた。
またバス内でやっているというアンケートを見せてもらったが、それほど詳しいアンケートではなく、ラックに関しても賛成か反対か、という単純な問いであった。
反対意見はなかった、というのが神奈川中央交通の説明だが、実際ラックがあって困らないならば、反対意見も出ないだろう。
ただ利用する人がいるかどうかの詳細なデータは特に無いようだった。
神奈川中央交通の見方としては、「利用した人の中では反対はでていない。使わないという意見は実際に利用したことがない人から出ている。とにかく利用してもらわないと良さがわからない」ということだそうだ。
事前アンケートだけでは需要は図りにくい問題なのかもしれない。
アンケートはとりあえず参考にさせてもらい、これに質問を加える必要がある。
ラックの設置工事費用については、神奈川中央交通は地元の工場に委託しているらしいが、改造にかかる費用はバスによってまちまちなので、明確にいくらとは言いにくい、というようだった。
突っ込んで聞いてみたところ、1台につき50万円は費用がかかる、というような感じであった。
ラック自体が約10万円ということで、安価でできると考えていたが、そう甘くはないようだった。
また今回のヒアリングでは自転車積載ラックの写真や動画を撮影させていただいたが、その際ラックの部分はやはり企業秘密ということで、あまり写さないようにという注意を受けた。
そのため写真は加工を加えて記載する。
(対応:神奈川中央交通株式会社 山本昇平様 奥津純憲様)

図1:ラック設置状態 両脇から自転車を載せ、黄色のレバーを引き上げ、前輪上部を固定する。
ラックには反射板も取り付けられている。
積載にかかる時間は運転手の補助が入るとして十数秒である。
使用していないときには折りたたまれる。
簡単な仕掛けだが固定力は高く、手で強く揺らしても落ちない。




図2:運転手の視点
ラックに自転車が積載されている際の運転手の視点。
実際に運転してもらったが、運転手の目線よりもだいぶ低いところにあり、ほとんど気にならない。
急ブレーキを試していただいたところ、人がよろめくほどの勢いでも、自転車は少し揺れただけで、落ちる危険性はほとんどなさそうだった。




図3:実際の運行状況
辻堂駅バス停で撮影。
バス入り口には「Bicycle Carrier」の文字があり自転車積載をアピールしている。
バス停には看板も立てられており、市民に自転車積載バスの利用を勧めている。




5-5.ヒアリング調査のまとめ

神奈川県へのヒアリングからわかったことは、自転車積載バスのラックの構造や導入に法的な制約はないこと、導入の経緯、導入路線は平坦な道路である必要があることなどである。
また、つくば市へのヒアリング調査からは、つくば市は導入に協力的であること、現在自転車まちづくりを推奨中であることなどがわかった。
さらに、神奈川中央交通では、ラックの安全性に問題はないこと、自転車積載の容易さなどを確認することができた。