4-1.各地の事例
日本国内で自転車積載バスが運行されている事例はいくつかある。
例えば環境対策と観光ツールを目的としてニセコバス株式会社が運行する北海道ニセコ町の事例や、赤城山の山道を通学路とする学生の補助を目的として、群馬県前橋市で運行している車中に自転車を乗り入れる自転車積載バスの事例がある。
今回我々が手本としたのは、神奈川県茅ヶ崎市周辺で導入されている神奈川中央交通の事例である。
この事例は、街中での移動が主な利用目的であり、バス前方に自転車を2台固定できるというものである。
利用者が乗車の際に固定装置に自転車を固定し、利用するのに片道100円かかる。
現在は試験運行中であり、期間は平成21年3/26〜8/31までで、9/1から本格実施をする予定である。

北海道ニセコ町「ニセコバス」、群馬県前橋市「日本中央バス」、神奈川県茅ヶ崎市、藤沢市「神奈川中央交通」
4-2.自転車積載バスを導入した背景
神奈川県茅ヶ崎市・藤沢市は、自転車を利用する人が多く居住している。
日常生活で使おうとする人、町の南側にあるサイクリングロードを利用しようとする人、またこの地域ではサーフィンを趣味にする人々も多く居住していて、サーフボードを抱えて自転車に乗り、海岸まで移動している人などがいる。
自転車の実用性から、茅ヶ崎市と藤沢市は非常に高い自転車需要を招いてしまった。
この地域は自転車であふれ、「日本の北京」と呼ばれるようになった。
さらに、雨天時の傘差し運転や夜間時の防犯問題といった、自転車マナーの悪化という問題も発生した。
また行政では、公効率の良い交通・移動の確保、公平な交通サービスの提供、交通が環境に与える負荷の低減を目指し、公共交通機関の利用を促進しようと計画していた。
地域の自転車問題と行政が抱える交通問題を解決するため、自転車積載バスという新交通サービスが誕生した。
4-3.導入路線
自転車積載バスは、神奈川中央交通が自ら実証実験等を行い、高低差が少ない平坦な土地で、道幅も安全が確保されている、人々の暮らしに密着した既存のルートで運行されている。
この運行路線は、辻堂駅と茅ヶ崎駅の間(直線距離で約4km)を通っていて、海岸線近くや商業地区、住居が密集した地域を通っている。
住居が密集した地域を通っているルートだけは、その地域の特性から道幅が少し狭い。
走行ルートは商業店や飲食店の集積した地区を運行しているため、どのバス停で降りても買い物などが楽しめるようになっている。
茅ヶ崎駅周辺の道路(google street view)
4-4.ラックの構造
バスの前面に約80cm飛び出る形で、ラックが装着されている。
このラックには自転車を前後交互にすることにより、2台まで積載することが可能である。
積載後は、固定するためのバーを自転車の前輪をはさむように装着すれば積載完了である。
慣れない頃は1人では積載が難しいため、運転手の補助を受けることができる。
この過程をこなすことは非常に簡単であり、慣れてくれば1人でも自転車を積載することができる。
また安全性については、ラックの素材事体は弾力性のあるものなので、急ブレーキ時や他の衝撃時には吸収し、しっかりと自転車を固定する。

自転車を積載するラック 自転車を固定するレバー
4-5.導入後
自転車の積載については、休日のレジャーを目的とした利用が多くあり、少しずつ利用者に受け入れられ休日を中心に利用者がいるようであった。
また、平日であっても急な雨天時などにバスに自転車を乗せるなどして、本来の目的を果たせているようである。
しかし、実際に導入したことにより、問題も浮き彫りになってきた。
まず問題となったのが、積載台数の少なさである。
神奈川中央交通では1台のバスにつき2台の自転車が積載できる。
しかし利用者の間では、状況によっては2台以上の積載を望む意見があった。
この2台というのも現在の日本の法律では限界の積載台数であり、今後これ以上に積載台数を増やしていくことは難しそうであった。
さらに、タイヤ幅の太いものや自転車のカゴが自転車の前後についているものは、ラックの自転車積載可能幅の限界を超えてしまうため、乗せることができない。
以上のようなことがこの試験運行期間で把握できたことであり、今後の改善が期待される。