4.見学・研修をより充実したものにするための提案

4-1 早稲田大学における学生ガイド実施事例調査

筑波大学での学生ガイドによるキャンパスツアーの導入を提案するにあたり,先進事例として早稲田大学の担当者にヒアリング調査を行った.

○早稲田大学理工学部入試課へのヒアリング調査

日時:平成20611日(水)14001500

場所:早稲田大学大久保キャンパス

協力:高田泰典様

<学生ガイドの成り立ち>

・「理工展」という理工学部の学園祭の学生企画で,キャンパスツアーを行っていたのが学生ガイドの始まり.

・かつては大学職員(理工学部の場合,入試課)が案内をしていたが,職員の人数の問題から対応しきれなくなったため,大学側が学生に話を持ちかけ組織として立ち上げることとなった.

<学生ガイドの運営方法>

・学生ガイドは登録制.キャンパスツアー実施が決まると日程を知らせるメールが届くので,時間が空いている人が案内を担当する.

・今年度の学生ガイドは総勢28名.学生ガイドは基本的には理工学部学園祭実委員の中から選抜されている.

・理工学部については広報課から年間30万円ほどの予算をもらい,月数回学生ガイドを実施している.この予算の中から,学生ガイドに報酬が支払われている.

・学生ガイドとして見学者を案内するまでには,三度の研修がある.

1.希望者との面接・学生ガイドの内容の説明

2.上級生の学生ガイドのツアーに同行

3.上級生を参加者と想定してのリハーサル

これらの行程を経て,正式に学生ガイドとなる.また,このような研修の他に,キャンパス内の各施設の重要度や見所が記載されているマニュアルが存在する.

<キャンパスツアーの内容>

・研究室見学は行わず,大学生が日常的に利用する食堂や,入学してすぐに利用する教室などを案内する.

・以前は研究所見学も行っていたが,期待外れでがっかりしたり,理解ができなかったりと評判がよくなかった.また,研究室側にとっても見学者の受け入れは負担であり,双方にメリットがないため取り止めとなった.

・授業中の教室を見学する場合は,遠くから眺めたり,ガラス張りの教室の外から覗いたりするなどして,授業の妨げにならないようにしている.

・理工学部の場合,見学時間はおよそ60分.あまり長すぎると見学者は疲れてしまったり,飽きてしまったりする.早稲田キャンパスでのキャンパスツアーでも,間に休憩を挟んでも75分から90分が限度である.

・一団体を30名までに制限.人数が多すぎると,大学生の行動に支障をきたしてしまう,全員に目が行き届かず,スムーズな進行ができなくなってしまう.

<キャンパスツアー参加者の声>

・教室で実際の学生生活を見られることや,ガイドの学生に実際の学生生活についての質問ができるという点が大変好評.学生の生の声でガイドすることが大事である.

・大学の志願者数に影響を与えたという記録は残っていない.しかし,かつて学生ガイドによるキャンパスツアーに参加した経験のある人が,早稲田大学に入学して学生ガイドになるというケースがよくある.

・見学時間についても,60分程度が適正と考える人が多い.参加者の中の94%の人が見学時間はちょうどいいと答えた.

○早稲田大学大久保キャンパスにおけるルート詳細

55号棟

物性計測センターラボ,環境保全センター

012

57号棟

製図CAD

020

60号棟

学生ラウンジ

035

63号棟

コンピュータールーム,カフェテリア

050

59号棟

材料研究室,工作研究室

058

51号棟

図書館

110

5-1 早稲田大学戸山キャンパス

 

4-2 筑波大学での学生ガイド実施案

 上記のヒアリング内容を踏まえ,筑波大学での学生ガイド実施案を検討する.大人数の見学の場合,学生のみではすべての見学者に目を行き届かせるのは難しいため,既存の広報課による案内と並行して,小規模な団体向けに学生ガイドを導入することを提案する.現に,平成19年度の受け入れ件数98件中,35件が40人以下での見学であり,これらを学生ガイドが担当することにより,広報課の負担を軽減させることが可能である.

高校生へのアンケートの結果より,研究所などの専門的な施設よりも,普段大学生が利用している場所が見学内容として高い需要があるので,教室や食堂を見学場所として優先する.また,現状で多くの施設を見せようとすると,移動距離,時間ともに膨大なものとなるため,まずは第一,第二,第三エリア周辺に絞ってキャンパスツアーのコースを考える.このエリアには学生がよく利用する教室,食堂,図書館といった施設があり,短い時間でのキャンパスツアーを行うのに適していると考えられる.

○筑波大学における学生ガイドによるキャンパスツアーの一案

大学本部棟      〜010

 

テキスト ボックス: 写真5-1  大学本部棟の様子

 

・大学本部棟には大学全域の模型と大学紹介のパネルがあり,初めのガイダンスを行うのに適している.

総合研究棟A     〜020

 

 

テキスト ボックス: 写真5-2  総合研究棟A

 

 ・研究室が集まる場所で,学術的な雰囲気を味わう.

第二,第三エリア周辺 〜100

 

 

テキスト ボックス: 写真5-3 3A棟
t

 

・最近改修が終了した3A棟内部で,大学の教室がどんなところかを知ってもらう.

・大学食堂を実際に利用したり,休憩もかねて大学生活に関する質疑応答をしたりする.

中央図書館      〜115

 

 

テキスト ボックス: 写真5-4 中央図書館

 

・食堂と並んで,多くの学生が利用する施設.実際に学生が利用する姿を見ることができる.

第一エリア      〜130

 

テキスト ボックス: 写真5-5  1E棟 

 

・学生がよく利用するスチューデントプラザがある.

 ・第一エリアの教室(1E棟)は透明性が高く,授業の様子を覗くこともできる.

テキスト ボックス: 図5-7 筑波大学キャンパスツアールート案

 

<このキャンパスツアー案における注意点>

今回のようなコースでキャンパスツアーを行う場合,学生の施設利用,移動に重ならないようにすることが大切である.移動する時間帯が授業間の休み時間と重ならないように,また食堂を利用する場合は昼間の込む時間帯を避けるようにする.

4-3 学生ガイドアンケート

 筑波大学生の学生ガイドに対する認知度はどの程度なのか,またその内容を知った上で,やりたいと思うのかどうかを知るため,筑波大学生100名程度を対象にアンケート調査を実施した.

<アンケート結果>

学生ガイドに対する認知度は低かったが,その取り組みに対して興味を持った人は全体の4割ほどいた.

 

5-11

 

 

報酬がある場合のほうが学生ガイドをやりたいと思う人が増える.学生ガイドを行う側の意識を高め,より質の高いキャンパスツアーを提供する手段として,報酬を支払うことは有効な手段であると考えられる.

 もし予算が出せない場合でも,興味のある人については報酬の有無にかかわらず学生ガイドをやってみたいという人は少なくない.きちんと宣伝,募集をすればボランティア団体のような形で立ち上げることも可能である.

 

 

条件付でやりたいと思うかどうかの質問では,「出身高校の生徒を案内」,「自分が所属する学類に入学を希望する者を案内」という項目については,やや思うという人も含めると,報酬の有無で大きな差は見られなかった.「出身高校の生徒を案内」については,見学の申し込みをした高校の出身の学生がいるかを大学側が調べ,学生ガイドの依頼をするというシステムが考えられる.「自分が所属する学類に入学を希望する者を案内」は日常的な受け入れが実現できれば,高校生はその分野の内容をより詳しく聞くことができ,それが筑波大学への進学意識を高めることにつながるかもしれない.

4-4学生ガイド 実現に向けての課題

ヒアリング内容で得られたことを参考に,筑波大学での学生ガイドによるキャンパスツアーを提案したが,この提案は考えられる様々な見学内容のひとつに過ぎない.相手によってコースを複数用意することも必要であると考えられる.例えば東京大学では,通常のコースの他,学生生活をより詳細に説明するコースや,歴史的名所を見て回る「歴史ロマンツアー」や理工学系の学部を中心に回る「理系ツアー」などが過去に実施されている.筑波大学においても,より一般向けに大学会館や体育芸術専門学群棟のギャラリーを見て回る,より大学生活を詳細に知るため学生寮を見せる,特定の学類の分野に興味のある高校生のために,その学類に所属する学生が一つのエリアの中を重点的に見せるなど,様々な案が考えられる.また,既存の見学可能な研究施設についても,研究内容を紹介するパネルを設置することにより,見学者にとっても理解しやすくなり,学生ガイドでも案内しやすくなる.

筑波大学の中には多くの見所があり,一つ一つの施設が質の高い見学内容を提供できるはずであるが,その際,問題となるのはキャンパスの広さである.より広い範囲での見学を実現するためには,徒歩だけでなく学内レンタルサイクルの導入なども考慮すべきである.