研究所や学園都市全体の受け入れ状況を知るために下記の機関にヒアリングを行った。さらに回りやすさを考慮するために都市内の公共交通機関(関東鉄道路線バス)の時刻表分析を行った。
財団法人茨城県科学技術振興財団つくばサイエンスツアーオフィスへのヒアリング
日時:5月12日(月)14:30〜16:00
協力:事務局長 薄井聡様
調査役 宮崎真二様
組織概要:平成17年4月設立。筑波研究学園都市に立地する研究施設の公開や開放を促がし,県内外からの見学・学習の場として活用するとともに,科学技術の普及啓発を図る。モデルコースの設定や研究学園都市のPR活動,サイエンスツアーバスの運行,見学者と研究機関の連絡,調整等の事業を行い,筑波研究学園都市の見学窓口として機能している。
<筑波研究学園都市の受け入れ状況>
・ 見学を受容できる規模や時間の制限が,研究所ごとに異なる現状。学校側からすれば「煩雑すぎる」という印象。
・ 科学教育に熱心な理事長の方針で積極的に受け入れている研究所や,過去の来訪者のマナー違反の経験から消極的な研究所など,対応やその理由はさまざま。
・ 筑波大学の対応は悪い。そのため,つくばでは研究所見学のみを行い,キャンパスツアーは東京のほかの大学で行うという学校が後を絶たない。
・ 筑波大学発ベンチャー企業の受け入れはかなり充実。
・ 筑波宇宙センターやエキスポセンター,産業技術総合研究所は常設展示があり,見学対応専門の職員も常駐している。
・ 茨城県内の学校からはあまり来訪者がおらず,校数ベースで熊本県,長崎県からの来訪者が多い。
・ 学校側には貸切バスでの来訪を要請している。理由は「つくば市内は公共交通機関が弱い」というサイエンスツアーオフィスの認識。
・ ほとんどの学校が日帰りでつくばを訪れる。宿泊するのは全体の1割以下(人数ベース)で,1学年でつくばに来た学校がみんなで宿泊するので校数ベースで見ると,さらに少なくなる。
・ 全国に対して「つくば=科学の街」や「筑波大学」という知名度はあるが,実際に何があるか,どこにあるかまでは周知されていない。
・ 西日本の学校では「東京から2時間」,「筑波大学の組織の中にJAXAや産総研」といった勘違いも。
各研究機関とも独立行政法人化の影響で,人員・予算を削減しなければならない。そのなかで,高校生・中学生の見学・研修を受け入れることはかなりの負担になっているようだ。さらに全国各地から見学者が訪れるにもかかわらず,つくば市があまりよく知られていないということが明らかになった。

次に,つくば市へのアクセスや市内移動の容易さを検証する。まず路線バスの分析である。つくばセンターから筑波大学,高エネルギー加速器研究機構,筑波宇宙センター,国土総合技術政策研究所,農林団地,以上5つの研究施設(群)を挙げ,つくばエクスプレス快速でつくば駅に着いてから,バスが発車するまでの平均待ち時間を図に示す。見学者の団体規模にもよるが,筑波大学の見学には十分に利用可能で便数が運行されていると考えられる。しかし農業系の研究施設が集積する農林団地へのバスは便数が極端に少なく。一日に4本しかない。事前に調べて発車時刻にあわせて来なければならないなど,アクセスしやすいとは言い難い。
図3-1 都市内アクセス図
つくば市へのアクセスに関しては,つくばエクスプレスの開通によりかなり改善されたと考えられる(下表参照)。さらに将来の茨城空港や首都圏中央連絡自動車道の開通などにより,茨城県やつくば市へのアクセスはますます改善されるだろう。
表3-1 東京駅〜つくば駅(つくばセンター)の所要時間
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JR利用 |
土浦で路線バスに乗り換え |
100分 |
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高速バス |
直通,渋滞の可能性 |
70分 |
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TX利用 |
秋葉原で乗り換え |
50分 |
(Yahoo!路線情報,関東鉄道HP・バス時刻表をもとに作成)
筑波大学では大学見学はどのように行われているのか。その実態を知るため,大学広報課広報室へのヒアリング,また高校生の大学見学に実際に同行することにした。
筑波大学広報課広報室へのヒアリング
日時:4月18日(金)16:00〜17:00
6月6日(金)14:00〜15:30
協力:宮城弘松様
組織概要:筑波大学への見学の対応を一手に引き受けている。見学者と学内の研究センターなどとの調整を含む見学コースの設定,当日の案内や学内の説明を行う。
・ 見学の案内は40人程度までは宮城さん1人で対応し,それ以上は2人,さらに見学者数が増える場合は別の部署にも応援を頼む。
・ 見学は平日のみ。さらに試験期間中は受け付けない。
・ 1日2校を限度に受け入れている。1校あたりの人数は80人程度が限度とされているが,300人以上の団体の受け入れ実績もある。
・ 貸切バスで来られることが多く,大型バスは本部棟,プラズマセンター,TARAセンター,陸域環境センター,農林技術センターに駐車できる。各研究センターが1台しか停められないのに対し,本部棟の駐車場には8台が駐車可能。
・ 研究センターの見学は1日1回45分が原則。同じセンターが1日2校以上受け入れるケースは非常にまれ。
・ 車椅子でも見学することができるような,エレベータが完備されているセンターは遺伝子実験センターとTARAセンターのみ。
・ 典型的な見学コースは「本部棟→第2・3エリア→中央図書館→大学会館」の往復。本部棟はバスの乗り降りに適し,大学全体を見ることができる模型がある。さらに第2・3エリアと図書館で大学特有の雰囲気を知り,大学会館に移動した後は,UTショップでの買い物やギャラリーの見学ができる。
・ 学内を移動するときは休み時間は避けるように行程を組んでいる。自転車で行き交う学生と高校生との交錯を防ぐため。
・ 見学者に対して,講義や実習の様子を見せることは効果的だと考えている。しかし,先生の理解や見学者も入れるような大教室のやりくりを考えると,実現されることはまれ。
・ 生物資源学類の場合,模擬講義に熱心で,可能な授業の題目・教員名を載せたリストを作成し,生物系の見学を希望した学校に紹介している。
・ 研究センターでの見学は全国的に珍しく,筑波大学見学の売りの一つになっている。しかし,態度の悪い高校を受け入れ拒否するなどの事例も。
・ 見学者には大学構内の地図が印刷されたパンフレット,希望により学類,研究センターのパンフレットを配布している。さらに6月下旬以降は帰り際に来年度の入学案内を配布。
・ 引率の先生が筑波大学の卒業生というケースや,過去に引率でつくばに来た先生が別の学校に異動してまたつくばに生徒を引率するといった事例も少なくない。
・ 希望する団体を受け入れるだけで精一杯な現状では,より積極的に外部に宣伝することは不可能。
・ さらに今後も希望が増えるとすれば,見学を受容する上限を設けて,それ以上は断る必要があるかもしれない。
以上から,筑波大学も研究施設同様,独立行政法人化の波を受けている。法人化前には2000人以上いた職員が1700人前後にまで削減されている。しかしそれでも全国的に見て学生一人当たりの職員数は依然多く,広報職員の増員の可能性は低い。そのような中でも,見学希望の声は増え続けており,広報室の負担はますます多くなってきている。大学への見学者に対する早急な対応策が望まれる。
高校生への同行調査
日時:4月24日(木) 15:30〜17:00
場所:筑波大学キャンパス内
協力:愛知真和学園大成高等学校 生徒7名と教員1名
筑波大学広報課広報室 宮城弘松様
<見学者の概要>
・ 2・3年生の希望者69名のうち,33名が関東方面へ,36名が関西地方へそれぞれ見学を実施。
・ 午前中は決められた大学(関東地方では東京大・早稲田大,関西地方では大阪大・京都大)を見学。午後は生徒が見学する大学を自ら選ぶ。
・ 関東地方に来た33名のうちの1グループ7名が筑波大学を訪れた。
・ 筑波大学に見学に訪れたグループは,午前中は早稲田大学を見学。つくばでは午後に大学見学のみを行い,滞在時間はおよそ1時間半。
・ つくばへの交通手段は,つくばエクスプレスと路線バス。
・ 事前学習はなし。行き先が決まったのも直前。
<見学内容>
・ 集合場所は大学本部棟。大学の模型を見せつつ,見学内容に関する簡単なガイダンスを行う。
・ 大学本部棟から医学専門学群棟まで,ペデストリアンデッキを歩きながら案内(図3-2)。
・ 施設の中に入って説明したのは中央図書館と大学会館のギャラリーのみ。その他の施設については名称と簡単な説明のみだった。
<見学を終えての印象>
1時間半で大学本部棟から医学専門学群棟までを歩くという,かなり急ぎ足な内容だった。生徒たちは大学内を歩けたことについてはある程度満足していたようだが,歩き続けて疲れたことと,施設の説明が十分に行われず見る時間もほとんどなかったについては多少不満があるようだった。筑波大学のキャンパスは広大なため,限られた時間で多くの施設を見せることは難しい。
また,見学中,案内を担当した広報課職員ではなく,見学に同行した班員が多くの質問を受けた。センター試験に関することや,宿舎での生活,周辺の環境など,筑波大学の学生だからこそ答えられるような内容が多かった。大学に関する話は大学生から聞きたいというのが高校生の本音かもしれない。
実際に見学に同行してみて,今回のような形式の大学見学については,改善すべき点が多くあると感じた。


図3-2 同行調査した際の見学経路(矢印)
各研究機関も筑波大学も独立行政法人化の影響というのは大きいようだ。そもそも見学者への対応というのは研究機関の本職ではなく,人員削減を行う際,真っ先に見学者への対応要因は削減の対象になってしまう。しかし,一方でSSH制度の導入や科学教育の重点化政策により研究機関見学の需要は高まっている。さらにつくば市の場合,つくばエクスプレス開通という話題性による見学者増と,そのなかでも少人数の班別行動の増加という特徴がある。このように現在の受け入れ状況の悪さの根本的な原因は,行政政策の結果にあるといえるかもしれない。これらに対応していくことも必要だ。
さらに他の観光地,例えば東京や京都などと比べた場合,知名度が低いというのは問題とすべきである。たしかに「筑波研究学園都市」や「科学の街・つくば」といったイメージは伝わっているようだが,実際にどこにあるのか,どんな施設があるのか,といった基本的な情報は知られていない。Webサイトの充実や旅行雑誌への掲載などを行い,全国に「つくば」を周知させる必要があるだろう。
市内交通についても改善すべき点はある。大成高校のように少人数で筑波大学見学のみならば問題はないが,その他の研究施設をめぐる場合,既存の路線バス網は十分とは言えない。学校側にとっては東京で大型バスを借りるというのがもっとも快適な旅程になるのだろうが,それではつくば側が見学を受け入れる経済的なメリットを得る場面がいよいよ限られてくる。
さらに,筑波研究学園都市では生徒たちが本当に見たいと思っていたものを提供できていない可能性も指摘できる。時間の制限や研究施設ごとの規定はあるが,同行調査の結果を見ると,筑波大学でもそのことは言えるようだ。見学者が何を見たいと考えていて,それに答えられているのか。そこを検証し,現在の見学の質を高める,さらに筑波研究学園都市を楽しんでもらうという必要がある。