7.今後の展望


今回の提案の骨子は公務員宿舎の植栽管理を、
さまざまな制約により必要十分なサービスを提供できない所持者から、
潜在的に植栽管理の意思と能力を持つ住民へと、権限と責任を大きく委譲させることにある。
公務員宿舎の植栽において、今回の提案に沿った管理体制を実施・継続してゆくことで、
宿舎に植栽整備の行き届いた住みやすい住環境が保持されることが期待できる。
しかし、最終発表会において先生方及び出席の方々に指摘された点も多い。
特に、糸井川先生、吉野先生には、かつての、
そして、現役の自治会長としての経験を含んだ貴重な意見をいただけた。
これらの評価を踏まえ、今後の展望を提示してゆく。


7-1.最終発表における評価

 最終発表における評価・感想を類型に基づき分類すると、以下の点を挙げることができる。


住民による植栽管理への能力的不安。
住民の参加意思に対する不安。
提案の具体性の欠如
剪定作業後の処理費用に関する不備

これらの評価のうち、住民の能力に関する不安、
作業後の処理費用査定の不備は提案の具体性の欠如より生じる見通しが立たない、
立っていないことに起因する問題であると考えられる。
ゆえに、我々が今後の展望を提示する上で取り組むべき課題は、以下の2つである。

 すなわち、

  @提案を実行する際の具体的な作業量及び必要コストなコストの算出。
A住民に対し参加を促すための制度と意識の改革。

7-2.作業量及びコストの算出

実際に行う剪定作業については、季節ごとに行わなければならない作業の種類、量が異なる。
また、自治会ごとの植生も異なる。 ゆえにこの場ですべての公務員住宅自治会にあてはまる
明確なガイドラインを提示することはできない。

とはいえ、園芸業者、仁礼氏(竹園3丁目自治会会長)へのヒアリングより、
住人が負担可能で、かつ植栽を維持できる作業量の大まかな目安として後片付けを含め2時間程度、
午前中に終了する量の作業という数字を得ている。
この数字は、夏ならば機械による敷地庭の芝刈りおよび植え込みの伸びすぎが目立つ枝を切る程度、
冬ならば敷地内に散らばる枯葉を集めて袋詰にする程度の作業を想定したものである。

この数字が実際に住民の参加意欲を削ぐものであるかどうか、
我々はさらにアンケートによる調査を進めなくてはならない。
また、具体的に毎月1回、2時間程度の手入れで管理できる植栽の量が
どれほどなのかということについても造園業者及び
自治会へのヒアリングを重ねなければならない。
これらの調査を通じ、具体的な作業量を住民に示すことにより
導入時の不安を取り払うことができるものと考える。

 また、機器の購入コストをつくば市周辺のホームセンターの店頭価格より求めると、
この作業に用いられる電動機器の導入にかかるコストは電動刈り払い機が1台1万円から2万円、
リール式芝刈り機が1台3万円から5万円、剪定用バリカンが1台1万円から2万円である。
これらの機器を運用するためには、加えて屋外用の電源延長ケーブルが必要となる。
購入数の目安は集合住宅ならば1棟あたり刈り払い機2〜3台と剪定用バリカン1台、
戸建て型ならば5から10世帯につき芝刈り機1台と自治体全体で剪定用バリカン3台である。
それに加え自治会規模に合致した数量を購入したあとには、
機器を収納するための物置とそのためのスペースも必要となる。


これらすべてを自治会費から出費するとその額は自治会財政に大きな負担をもたらす。
しかし、現有資産を有効活用することによりこれらの導入コストは大きく抑えられる。
例を挙げると、延長ケーブル、物置などは祭り等の自治会活動に使用された既存のものを流用する。
電動機器も必要性の高いものから順次導入し、それまでは住人が個人所有する枝切りバサミなどを使いまわす。
敷地清掃が行われる週を単位ごとに区切ることにより、導入機器の台数は単純計算で4分の1にできる。
これらの工夫により自治会への財政負担を最小限に抑えることができるだろう。


7-3.参加を促す制度と意識の改革

参加意欲の問題に関してはさらなる分類をすることができる。
すなわち、
 
 @住民の参加意欲
A自治会長の実行意欲
の二点である。


@の住民の参加意欲に関しては、実施した住民アンケートから得られた結果より、
ある程度の数の住民参加を見込める結果が得られた。
しかし、今回の発表会の評価からは、アンケート対象の地域的特性等において、
必ずしもアンケート結果がすべての自治会に適用できるとは言えない事実を再確認した。
また、アンケートは実施以前の情報であり、実際に作業を行った結果、
かえって参加意欲を無くしてしまうケースもありえる。
住民の参加意欲を保つためにも、植栽が整備された状態に保たれることの意義を明確にするとともに、
場合によってはさらに即物的な利益の提示なども必要となるだろう。


 また、Aの自治会長の実行意欲に関しては、発表後の講評において出された、「実際に運営する側の意見としては、実行は口で言うほど簡単ではない」「住民にあれをやれ、これをやれ、と言いたくない」「私はやりたくない、面倒だ」などといった意見が、住民に参加を呼びかけることの困難さとともに、率先して植栽管理の範を示すべき自治会長の士気の低さを示している。

今回の我々の提案は、構造的方略よりはじまり、その後に心理的方略により住民の行動を変容させることを目指すものである。

すなわち、


  @自治会活動によって一定量の作業を義務とし、それに参加しない住民に対しては一定のペナルティを課す。

  A実施を通じてコミュニケーションをとり、自治会主導の植栽管理に対する理解と協力を得る。

   また、経験誘導法により、作業を行うことがよいことであり、あたりまえであるという意識を植え付ける。


 ゆえに、第一段階を開始する時点で、自治会活動において大きな権限をもつ自治会長の協力抜きに我々の提案実現はない。 我々の課題はいかに自治会長の協力を得るかという部分が最優先となる。そのためには、具体的な管理案の提示、植栽管理によって得る利益とコストの算出が必要となるだろう。


7-4.まとめ

 公務員宿舎住民主導の植栽管理を実現する上で、住民の取りまとめ役として、自治会長の協力は不可欠である。 そのためにも、コストや住民の参加意欲に関する事例の収集が必要である。


 今回の研究の期間中、竹園3丁目自治会において植栽管理についての数々の試みがなされている。 今回の発表においても、多くの参考とした点がある。 この先例を分析することにより、他の自治会にも応用できる要素を抽出することができるだろう。


 講評において指摘された点に留意したうえで、住民が住民の要望に対して柔軟な対応を取ることができる植栽管理を行う必要がある。 樹木を適正量まで削減するには多くの資金が必要であるとともに、所有者との交渉を通じた意思のすり合わせが必要となる。 自治会には長期にわたる樹木の伐採計画を立てるとともに、それに沿って活動を続けることができる、長期的活動を視野に入れた運営が求められる。 これらを踏まえ、じき買い・住民主体の植栽の維持・管理体制を提案として起用することで、将来的に植栽整備の行き届いた公務員宿舎の住環境作りが可能になるのではないだろうか。