4−2.第2案

4-2.第2案:筑波大学農林技術センター利用の循環システムの調査結果

4-2-1.背景
 農林技術センターは筑波大学の研究施設であるため、食堂と連携することが他の堆肥化施設に比べ、容易であると考えられる。また、食堂との距離が最も近い堆肥化施設である。そこで、私たちは農林技術センター内の既存の堆肥化施設を利用した生ゴミの堆肥化による循環システムを構築できないかと考えた。

4-2-2.目的
 農林技術センターにある既存の堆肥化施設を用いた循環システムを構築する。





4-2-3.方法
 食堂への聞き取り
  調査実施日時
   5月7日(金) 15:00
  調査対象
   一食、二食、三食

 食堂へのアンケート調査
  調査実施日時
   6月14日(月) 14:00
  調査対象
   一食、二食、三食、体芸食堂、大学病院内食堂、一の矢宿舎、
   追越宿舎、平砂宿舎

 農林技術センターへの聞き取り調査
  調査実施日時
   6月9日(水) 13:00
   6月15日(火) 17:00
  調査に協力していただいた方のお名前
   筑波大学農林技術センター技官
    米川様、片桐様、今野様

4-2-4.調査結果
業務目的: 農林技術センターは、農林学をはじめとして様々な学問分野にかかわる実験・
実習教育ならびに自然科学、社会科学の研究に供すると共に、地域交流、国
際交流を通じて我が国内外の農林技術の発展に寄与すること

農場の面積: 2154.65a
家畜の頭数: 牛 17頭  羊 3頭  鶏 100羽
  堆肥材料: 牛糞 214.3t  尿  62.7t
廃棄野菜 約40t  稲ワラ 3t 
年間肥料量: 220t



大学食堂→農林技術センター  生ごみを堆肥化する際にもっとも問題となるのは生ごみの分別である。生ごみ処理機は全てのごみを処理できるわけではないので、徹底した生ごみの分別と水切りの必要性がある。そのため食堂側に分別に関する聞き取り調査を行った。

食堂への聞き取り結果
 ・調査を行った食堂は現在、生ごみ分別を行っていない
  その理由は「手間がかかるから」「現在のごみ処理方法では分別しても、可燃ごみとして一緒に収集されてしまうので、分別の必要がないから」ということだった
 ・今後の分別に関しては、どの食堂も「手間がかかる」ということを問題点として挙げていた
 ・今後、生ごみの分別を行っていく際には、“従業員の分別に対する意識の向上が必要である”“分別が浸透するまでには時間がかかる”ということだった

考察
 生ごみの分別に関してはどの食堂も消極的な意見である。分別を行っていない現状では、食堂側が“分別の手間”を問題点として挙げるのは当然の結果であると考えられる。しかし、食堂側は分別を行っていくために必要な“食堂の意識の向上”について十分理解していた。そのため、今後、生ごみの分別を浸透させていくためには、時間をかけて食堂側の意識を向上させていくことが必要である。


 農林技術センターで生ごみの堆肥化を行う際には、大学からでる生ごみを一次処理し、堆肥原料としなければならない。そのため大学食堂に生ごみ処理機を設置し、生ごみを一次処理する必要がある。ここでいう一次処理とは、水切りを行った生ごみを、生ごみ処理機に通して乾燥・発酵させ、堆肥の原料にすることをいう。

生ごみ処理機の選定
 生ごみ処理機設置の問題において具体的に数値を出すために、生ごみ処理機の処理方法、コスト面、特徴、処理能力の点と食堂への聞き取りから既存の生ごみ処理機を選ぶ。

処理方法
 生ごみ処理機には大きく分けて 乾燥型、発酵型、消滅型 の3種類がある。私達の目的は生ごみの堆肥化であるため、生ごみを消滅させてしまう消滅型については考えない。

コスト面
 乾燥型と発酵型では、一般的に乾燥型の方がランニングコストは低いが、初期投資が高い。今後長期的に使用を行っていくならば、乾燥型の利用が望ましい。

特徴
 乾燥型はごみの量を減らすのに良い。また、使用の手間や維持に関しても発酵型に比べて容易であり、処理にかかる時間も少なくてすむ。

処理能力
 食堂から出る生ごみの量は以下の通り

表4-2.1 食堂から出る生ごみの量

 表4-2.1から食堂でもっとも生ごみの量が多いのは2食 の50kg/日である。従って、想定する生ごみ処理機は1日に50kg以上の生ごみを処理できるものでなければならない。処理能力の低い家庭用生ごみ処理機ではなく、食堂や学校などで使われている処理能力の高い業務用生ごみ処理機を想定する。


食堂への聞き取り調査
 ・食堂側が生ごみ処理機導入の際の問題点としてあげていたのは、“設置スペース”“値段”“ランニングコスト”“においがでないこと”など、本体の性能に関するものだった

以上から乾燥型の生ごみ処理機で処理能力が50kg以上のものを文献で調査し、その中で他の乾燥型に比べランニングコストが低く、性能の高い新日本石油の石油乾燥式業務用生ごみ処理機DNS−K60Bを取り上げた。

石油乾燥式業務用生ごみ処理機DNS−K60Bの特徴

本体価格:330万円
ランニングコスト:5000〜6000円(1トンあたり)
     1回60kgの処理で350円程度のランニングコスト



1回あたりの処理量:20kg〜60kg
1回あたりの処理時間:約4時間/20kg 〜 約11時間/60kg
減量比率:1/5
設置スペース:0.9u
重量:330kg
 今回の調査では、各食堂で同じ生ごみ処理機を導入すると仮定する。まず、調査を行った食堂を経営している業者が同じ食堂ごとに、一の矢宿舎と三学食堂、一学食堂、二学食堂、体芸食堂と追越宿舎と平砂宿舎、大学病院の5グループに分けた。経営している業者が同じ食堂のグループにしたほうが食堂同士の連携がとりやすいと考え、このようにグループに分けた。
 なお、農林技術センターに生ごみ処理機を導入することも想定したが、“食堂全ての生ごみを処理するため、必要とされる処理能力が大きく生ごみ処理機の設置費用が格段に高くなること”“食堂から農林技術センターに生ごみを運搬する際のにおいの問題”“処理前の生ごみは質量・体積が大きく運搬費が高くなる”という問題点から、今回の調査では各食堂に生ごみ処理機を設置することを考えた。

全体の初期費用:330万円(生ゴミ処理機の価格)×5箇所=1650万円

  表4-2.3 各食堂の生ごみ処理機導入後の処理費の変化(少数第1位を四捨五入)


ランニングコスト: 生ごみ処理機を利用することにより、発生するランニングコストであ
る。文献調査から一回60kgの処理で350円のランニングコストがかか
ることが分かっているため、1kgあたり5.8円かかるとし、
ランニングコスト=年間生ゴミ処理量×5.8円 とした。
 処理費減少分: 生ごみが堆肥化されることによって、収集業者が集めるごみのうち、生ご
みの分の処理費用はなくなる。よって、年間生ごみ量×14.7円/kg(※)を
計算することで処理費減少分を求めることができる。
※1kgあたりのごみ処理費用は、現在食堂のごみを収集している筑波学園環境整備へ
 の聞き取りと食堂のごみ処理費用から算出
       差額: 処理費減少分―ランニングコスト
       

 ここで、現在のごみ処理費のデータのある、4つの食堂におけるごみ処理費の変化を表に示す。また、処理費総額での変化は以下の表に示す。



  現在のごみの処理費: 食堂へのアンケート調査から
   改善後のゴミ処理費: (現在のゴミ処理費)−(処理費減少分)+(ランニングコスト)
      処理費の変化: (現在のゴミ処理費)−(改善後のゴミ処理費)
改善前後の処分費比率: (改善後のゴミ処理費)/(現在のゴミ処理費)


考察
 表4-2.3から、どの食堂も生ごみ処理機を導入することによってごみ処理費が大きく削減されるということが分かる。また、表4-2.4より、一学食堂、二学食堂、三学食堂、大学病院食堂では生ごみ処理機設置に伴い、約20%のゴミ処理費が削減されるといえる。そのため、生ごみ処理機を導入する際に問題となるのは初期投資である。
 各食堂が生ごみ処理機を購入した場合、平均で年間51247円のごみ処理費が削減されるため、各食堂のごみ処理費削減額のみで生ごみ処理機の設置費用330万円を返済するためには、約64年かかる。途中で故障する可能性もあるため、食堂側がこれほど長期的な見通しで生ごみ処理費を設置、運用することは考えられない。しかし、食堂以外の団体、例えば自治体や大学が生ごみ処理機の設置を行えば、食堂側はその後、年間51247円の黒字である。そのため生ごみ処理機の設置に関しては、自治体や大学が生ごみ処理機購入のために補助金や予算を出し、食堂が運営・管理していく形態が望ましいと考えられる。
 農林技術センターへの聞き取り結果から、“大学食堂の生ごみを堆肥化する場合の最大の問題点は、堆肥舎の規模が小さい”ということであった。家畜排泄物処理法の適用による牛糞の野積み禁止に伴い、来年度、農林技術センターでは堆肥舎を現在の120uから2倍の240uに拡大する計画がある。しかし、聞き取り結果より、堆肥舎を現在の2倍に拡大しても、農林技術センター内での循環を行うことが精一杯で、外部から堆肥原料を持ってきてまで循環させることを現段階では考えられないということだった。そこで大学食堂からでる生ごみを堆肥化した場合の堆肥量の計算を行い、具体的に数値化してみた。

表4-2.5 食堂からでる年間の生ごみの量

 表4-2.5から、食堂からでる生ごみは年間で約46000kgである。DNS−K60Bの減量比率は1/5であるため、年間を通して食堂の生ごみからつくられる堆肥原料は
46000kg×1/5=9200kg≒0.9トン
である。農林技術センターの年間堆肥量220トン、廃棄野菜 約40t(含水分)と比較しても、この堆肥原料は非常に微量である。そのため、現在の堆肥舎の規模であっても堆肥原料の一部として食堂からの生ごみを堆肥化することは十分に可能であると考えられる。


農林技術センター内農場→大学食堂  農林技術センターと食堂との循環をさせるために農林技術センターでつくられる野菜を大学食堂に仕入れることができないかと考えた。

農林技術センターへの聞き取り調査
 ・農地面積が小さく、つくられる農作物は少なく、種類も限られている  ・季節によって異なる野菜をつくっている  ・つくる野菜は毎年異なる  ・一部の野菜(大根)を企業に販売している  ・できた野菜は農林技術センター内で販売し、主な購入者は近隣住民や筑波大学の教職員である  ・以前2食がじゃがいもを買いに来たことがある  ・大学新聞で野菜の宣伝を行っている  ・食堂側と連携をとることで野菜を販売することは可能である  ・野菜の価格は市場価格とかわらない

食堂側へのアンケート結果
 ・野菜を購入する際には価格の安定、品質の安定、供給の安定が必要な条件である

考察
 農林技術センターで作られる野菜は、価格、品質の面では問題ないが、農地規模、栽培方法を考えると、野菜の安定供給をすることは不可能である。また、農林技術センターは季節ごとに異なる野菜をつくるため、年間を通して同じ野菜を農林技術センターから仕入れることはできない。しかし、食堂側が季節に応じた旬の野菜を仕入れることは両者の連携によって可能であると考えられる。
 この調査では、農林技術センターでつくられた野菜を大学食堂が購入することを前提として考えた。しかし、農林技術センターは近隣住民や大学の教職員に販売を行い、学内での販売促進も行っていることを考えると、現段階でも十分に大学内での循環はすでにできているということができる。つまり、無理に大学食堂に野菜を仕入れなくても、今後学内への販売を促進することで大学内での循環を行うことができる。


4-2-5.第2案のまとめ
 ここまで農林技術センターでの循環システムについて様々な視点から考察してきた。食堂への聞き取り調査から、循環システム構築に最大の問題になると考えられた生ごみ処理機の設置に関しては、初期投資を除けばどの食堂も現在よりも処理費用が削減されるという結果が得られた。また、生ごみの分別に関しては、食堂側の意識の問題であるという結果が出たため、今後、食堂側の意識をどのように変えていくか工夫しなければならない。
 “農林技術センター内農場→大学食堂”側の野菜の仕入れに関しては、現状のままでも十分に大学内での循環が成立しているという結果であった。そのため、無理に食堂に野菜を仕入れる必要はないということだった。しかし、農林技術センター内でつくられる旬の野菜を利用した新しいメニューをつくることや食堂に必要な野菜が足りなくなった場合に、食堂が野菜を購入することは十分考えられる。そのためには現在の年間を通して同じメニューを出している食堂のシステムを変える必要がある。また、その際には、食堂−農林技術センター間の連携が必要となってくる。

提言
 これまでの調査・考察を踏まえ、この調査の目的である農林技術センターでの循環システムの具体的な形として“学内循環システム”を提案する。



 当初の案では農林技術センターでつくられる野菜を大学食堂に戻すことで循環システムを構築しようと考えていた。この“学内循環システム”では、大学からでる生ごみを堆肥化し、できた野菜を大学内で積極的に販売することで循環させている。

参考ウェブ:農林技術センター  http://www.nourin.tsukuba.ac.jp/
      石油乾燥式業務用生ごみ処理機DNS−K60B
                http://product.eneos.co.jp/kankyo/gomi/index.html