4−1.第1案
4-1. JAつくば市堆肥化センター利用の循環システムの調査結果
大学食堂の生ごみを堆肥化するためには、堆肥化を行う場所が必要である。つくば市に新しい堆肥化施設を建設してもらうのか、食堂が堆肥化施設を建設するのか、企業の堆肥化施設を借りるのか。その中で条件を決め堆肥化方法をしぼった。
1、既存の施設がある
2、大学食堂から近い
これら2つの条件から出た堆肥化循環を行う方法の一つが「谷田部堆肥化センター」である。JAつくば市谷田部の谷田部堆肥化センター(以下堆肥化センターとする)と大学食堂の間で堆肥化循環を想定してみる。

4-1-1. 堆肥化センター
JAつくば市谷田部内に設置された青壮年部、さらにその中にある産直部会の鎌賀氏が運営する堆肥化施設である。
JAつくば市谷田部ー青壮年部ー産直部会ー鎌賀氏ー堆肥化センター
4-1-1-1. JAつくば市谷田部
JAつくば市谷田部とは、サイエンス大通り沿いから少し横道に入ったところにある、巨大な倉庫群を基点とした複数の農家からなる組合である。JAつくば市谷田部の近くには山岡屋やそば屋等がある。つくば市内にはいくつかのJA(=Japan Agricultural Co-operatives=日本農業協同組合)がある。その中の一つがJAつくば市谷田部(以下、谷田部農協とする)である。谷田部農協に属するのは農家と農協職員で、農協職員は各農家の生産量や農産物の流通を調整している。

4-1-1-2. 青壮年部
青壮年部とは、30年前に谷田部農協内の青年たちが結成した「青年部」が、時代を経て青壮年部と名称変更したものである。名称変更は農家を志す若者の人口が減少し、会員の大部分が壮年になってしまったための苦肉の策であった。発足当初の目的は、散り散りに個人規模で行う青年農家達をまとめて結束することで、互いに協力して生産体制を安定させたり、新しいことに手を広げやすくすることであった。その目的は今も産直部会(「1-1-4」で解説)で引き継がれている。実際農協とは、農家が属しているだけで農家同士のコミュニケーションが図られるわけではなく、互いに働きかけをして初めてコミュニケーション、信頼関係、共同作業、新分野への開拓がはじまる。いまから30年前に青年部という組織を作り定期的に集会をすることで、農協内の青年の間に一つの輪ができた。

4-1-1-3. 産直部会
産直部会は、昭和59年に谷田部農協の青壮年部の有志によって結成された。流通の際に市場を通さず谷田部農協から産地直送で「有機野菜」を首都圏コープへ出荷するという事業であった。現在もやはり産地直送でGPS(=GREEN PLAZA SYSTEM)という集配センターへ出荷していて、GPSは首都圏コープの各店舗や組合員の家へ野菜を配送している。有機野菜のみを出荷することで信頼を得て固定ユーザーを獲得し、現在も同じ体制を維持し続けいている。

4-1-1-4. 鎌賀氏
鎌賀氏は酪農を営み、谷田部農協内の産直部会に属している。氏は牛を飼育しているため、かつてから産直部会で行っている有機農法に必要な堆肥を生産してきた。2004年11月から法律(「1-1-6」で解説)で家畜のふん尿の野積みが禁止されることになり、壁と屋根をもつ堆肥化場所を設置する必要性が出てきた。そこで谷田部農協の協力のもと、2004年3月に堆肥化センターを建設した。
現在酪農家にとって牛ふんは処理に困る産業廃棄物である。しかしそんな牛ふんにも有効的な使い道があった。それが堆肥化である。かつてはいたるところで酪農家が出す牛ふんを、農家が引き取り堆肥として使っていた。それが化学肥料が普及してからというもの、手間のかかる堆肥化と有機農業は、労働コストに見合わないと農家から敬遠されている。かつての酪農家と農家の協力体制は、現在の産直部会において実践されている。

4-1-1-5. 堆肥化センター
堆肥化センターは、谷田部農協のさらに西にあるつくば市高須賀の農村地域に建てられた、コンクリート製の壁と床、トタン屋根からなる真新しい堆肥化施設である。幅約50メートルで、3枚の壁で堆肥期間ごとに4つの堆肥舎に仕切られている。総工費約1000万円で、個人のもつ堆肥化施設としては中規模といえる。(筑波大学内の農林技術センターの堆肥舎は2つ。)


4-1-1-6 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律
鎌賀氏は牛ふんを野積み(畑のよこに牛ふんを積んでおくこと)し、堆肥化していた。しかし環境汚染の問題から野積みが法律で禁止されることになり、やむを得ず堆肥化施設を建設した。その法律の野積みに関する部分を抜粋したのが以下である。
この法律によって以下の事項が2004年11月1日から適用される。
・野積みの禁止:ふんの処理・保管施設は、床をコンクリートその他の不浸透性材料で築造し、適当な覆い及び側壁を有するものとする
・素掘りの禁止:尿やスラリーの処理・保管施設は、コンクリートその他の不浸透性材料で築造した構造の貯留槽とすること
・管理方法:家畜排せつ物は、管理施設において管理すること
(農林水産省 http://www.maff.go.jp/)
このように、法律により屋根付きの囲いを設けその中で堆肥化を行う必要が出たのである。
(資料4枚 「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」)
4-1-2 現在行われている循環
大学の食堂で出る生ごみを堆肥化センターで堆肥化するという話は、「谷田部の農家でおこなわれている、堆肥化循環の流れの中に混ぜてもらう形でおこなわれる」ということを確認しておく。自分たちで新しく堆肥化施設を建設するわけではないので、既存のシステムに従って堆肥をすることになる。そこで既存のシステムについて解説する。

4-1-2-1 堆肥化センター
谷田部農協には産直部会という、有機農法をおこなう組織があり、その組織の中で必要な堆肥を確保するために堆肥化センターがつくられた(「1-1-4」を参照)。現在おこなわれている堆肥化循環は、産直部会が有機野菜を出荷する過程で出てくる、廃棄野菜をGPS(集配センター)からまとめてトラックで持ち帰り、堆肥センターで堆肥化する流れである。産直部会は、土壌の質の維持という観点から、自ら出荷している野菜以外の残さは堆肥化の対象とはしていない。
4-1-2-2 GPS
GPSは埼玉県にある野菜の集積場で、関東一帯へ野菜を出荷している。GPSへの野菜の出荷は、谷田部農協が運送会社に委託して行っている。一方、GPSから出る廃棄野菜(「1-3-1」を参照)はGPSが委託した運送会社のトラックによって堆肥化センターへ運ばれる。
4-1-2-3 堆肥化原料
堆肥化センターでは堆肥化自体にお金をかけていない。堆肥化センターで堆肥をつくるのに用いている原料は牛ふん、廃棄野菜、おがくず、しめじ、なめこ、しいたけでいずれもお金をかけずに仕入れている。牛ふんは鎌賀氏をはじめとする産直部会の3人の酪農家から、廃棄野菜はGPSから、おがくずは不明、きのこは近隣のきのこ工場で出る廃棄きのこを無料で仕入れている。
4-1-2-4 堆肥化過程
堆肥化の方法を説明する。堆肥化センターに堆肥の原料となる廃棄野菜や牛ふんが運び込まれると、ブルドーザーでそれらを適度な比率で混ぜ込み、積んでおく(混ぜ積み)。その際、発行を促進するために菌類(しめじ、なめこ、しいたけ等のきのこ)も混ぜ込んでおく。一ヶ月後放置し発酵させておいた牛ふんや廃棄野菜などの混在物をブルドーザーで切り返し、中に空気を含ませ発酵を促進させる(切り返し)。切り返しを一ヶ月おきに合計4ヶ月かけて行い堆肥は完成する。
原料を混ぜ込む際の比率(重さの比)
牛ふん:廃棄野菜:おがくず:きのこ=8:1:0.5:0.5

4-1-2-5 堆肥の販売
完成した堆肥は、3tを10000円で産直部会内の農家に販売している。産直部会では、10aあたり3tの堆肥の散布が義務づけられているため、販売に際して、マニアスプレッタという専用機械での散布も同時に行う。散布料金は10000円のうちに含まれている。
堆肥化センターに搬入する廃棄野菜の量は年間100〜300tで、生産される堆肥の量は年間700〜1000tである。現在、堆肥化を行っている農家は産直部会に3つあり、それらから生産される堆肥量が、産直部会の全農家の畑を散布できる量と均衡している。

4-1-3 生ごみ/廃棄野菜/野菜残さ/残飯
生ごみは、大きく廃棄野菜、野菜残さ、残飯の3つに分けられる。堆肥化に適しているのは順に、廃棄野菜と野菜残さで、残飯は堆肥の品質を管理するのが困難である。現在堆肥化センターでは有機野菜の廃棄野菜のみによって堆肥化が行われている。
ここでは、廃棄野菜、野菜残さ、残飯の定義、主な特徴等について述べる。
4-1-3-1 廃棄野菜
「廃棄野菜」は出荷される時点で発生する生ごみで、虫食いや品質の悪化などにより売り物にならなくなり、返品扱いとなった野菜である。産直部会はGPSへ出荷した有機野菜で廃棄となったものを持ち帰り、堆肥の原料として利用している。(「1-2-2」を参照)
4-1-3-2 野菜残さ
「野菜残さ」は調理される前にでる生ごみで、野菜をカットした芯や皮、葉野菜の外側の葉などである。野菜残さは残飯に比べ水分が少なく、塩分・油分が含まれないため、脱水処理の手間がなく、塩分、油分による品質悪化もないので、堆肥化をおこなうのに好都合な生ごみである。
4-1-3-3 残飯
「残飯」は調理された後に出る生ごみで、おもに食べ残しである。米や麺類のように水分を含んでいたり、炒め物のように塩分・油分をふくんでいたりして、堆肥化には不都合な生ごみである。また発酵分解の困難な肉や魚の残飯まで分別することは不可能である。
4-1-4 有機野菜
産直部会で生産される有機野菜とはどういうものなのか。平成11年に「改正JAS法」が国会で成立し、有機野菜のガイドラインもできた。有機農産物に関するガイドラインを以下に示す。
有機農産物とは、化学合成農薬、化学肥料、化学合成土壌改良材を使わないで、3年以上を経過し、堆肥など(有機質肥料)による土づくりを行ったほ場において収穫された農産物を「有機農産物」、3年未満6ヶ月以上の場合は、「転換期間中有機農産物」という。
(有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン
http://www.greenjapan.co.jp/nose_yukifood_guide.htm)
しかしながら、産直部会で生産する野菜は完全な有機野菜ではなく、有機肥料80%以上の減農薬野菜だということである。
4-1-5 堆肥化センターと大学食堂の間で堆肥化循環を想定
以上の堆肥感センターで行われている循環に大学食堂の組み込むとどうなるのか。堆肥化センターと大学食堂の間で堆肥化循環を行った場合、どのような問題があり、どのような課題を解決しなければならないのかを検証してみた。農家への聞き取り、アンケート調査、大学食堂への聞き取り、アンケート調査、そしてまた農家への聞き取りを繰り返し、出てくる問題をそれぞれに質問し、その答えが実現可能かを再びそれぞれに聞くという調査を繰り返し行った。

4-1-5-1 分別
「産直部会へのアンケート及び聞き取り」、「学生へのアンケート」、「食堂への聞き取り」をもとに「分別」についてまとめ、考察してみる。
考察に使うアンケート結果
1、「堆肥の原料として使用可能な生ごみ」(産直部会へのアンケート)
2、「生ごみからできる堆肥のどこに気を配るか」(産直部会へのアンケート)
3、「環境への影響」(学生へアンケート)
産直部会に属する農家の方々に「堆肥の原料として使用可能な生ごみ」は何かを伺ったところ、魚や廃棄野菜は可能だという答えは多かったが、残飯や肉はあまり堆肥化できないこともわかった。産直部会に属する農家の方々に「生ごみからできる堆肥のどこに気を配るか」伺ったところ、品質や安全性、原料に気を配ることがわかった。これらのアンケート結果から、分別に際して農家が要求していることは
・堆肥の品質や安全性を確保するために生ごみの分別が必要だということ、
・堆肥の原料として堆肥化センターに運ばれてくる生ごみに肉や残飯がふくまれているようなら品質上安心はできないこと
の2点であると言える。有機農業を行う農家は口を揃えて、「品質の悪い堆肥でつくられた野菜を提供することで、消費者への信頼を裏切ることはできない。」と言っていたことからも、いい野菜をつくり続けたいという産直部会の切なる願いがうかがえる。食堂が分別を怠ることで、農家と消費者との間に築かれた信頼関係を壊すことはできない。従って食堂は生ごみの分別を徹底して行う必要があると言える。
では食堂は可燃物について生ごみを分別し、さらに生ごみを野菜残さと残飯に分別して廃棄することは可能であろうか。食堂への生ごみの細分別について聞き取ったところ、分別に際して困難な理由として「今以上の分別に際して人件費を余分にかける必要がある」こと、「長い間行われてきた廃棄の行程を変えるのは困難である」ことをあげていた。
産直部会は自分たちのこだわりの面で、食堂はコスト面で、2者の間で堆肥化循環を行うことが困難だと述べている。
付け加えると、現在堆肥化センターで堆肥化に使っている生ごみは自分たちで作った野菜の廃棄野菜のみである。しかし産直部会に伺ったところ、「油分や水分の少ない野菜残さなら受けいれることができる」ということだった。ただし品質管理の点から有機野菜の残さであることが条件である。
4-1-5-2 有機野菜の野菜単価
「産直部会へのアンケート及び聞き取り」、「学生へのアンケート」、「食堂へのアンケート及び聞き取り」をもとに「有機野菜の野菜単価」についてまとめ、考察してみる。「有機野菜の野菜単価」はそこから派生する「食堂の値上げ」、「有機野菜と値上げに関する消費者の反応」の問題があり、それらについてもまとめ、考察した。
考察に使うアンケート結果
1、「作物の質」「収穫量」「出荷額」「肥料代」「散布の手間」(産直部会へのアンケート)
2、「提供可能な価格」(産直部会へのアンケート)
3、「食堂の予想価格」(食堂へのアンケート)
4、「学生の予想価格」(学生へのアンケート)
5、「味」「安全性」「安心感」「環境への配慮」「健康への影響」(学生へのアンケート)
「有機野菜の野菜単価」
産直部会に属する農家の方々に堆肥を使った際の「散布の手間」について伺ったところ、「とても大変、やや大変が」全体の56%であったのに対し、「とても楽だった、やや楽だった」が15%であった。化学肥料を使わず、堆肥を散布することで有機野菜をつくるのは手間のかかる作業だといえる。一方で、有機野菜の「作物の質」について伺ったところ、質に対して「とても満足、やや満足」している人が、全体の86%だった。ここで有機野菜と非有機野菜の違いを明確に説明することはできないが、生産者にとって、有機野菜はつくるのに手間はかかるが非有機野菜にくらべ、「質が良く満足のいく」商品だということが言える。しかし「出荷額」は64%が、「収穫量」は71%が「変わらない」と答えている。つまり、有機野菜とは質はいいが、「収穫量が少ないため出荷量はそれほど多くない」商品でもある。これらのアンケート結果より、産直部会にとって有機野菜は、
・「安くつくって大量に売る」というより、「手間はかかっても高質を維持する」商品
だといえる。従って産直部会の野菜単価は、他の野菜に比べ高くなるのは避けられないようである。
「食堂の値上げ」
食堂が産直部会に属する農家の方々に有機野菜を購入する場合の「提供可能な価格」について伺ったところ、「市場価格以上」と答えたのが全体の56%であった。産直部会への聞き取り調査でも、「有機野菜は非有機野菜の価格の3〜5割増しになる」と言っていた。
そこで野菜の仕入れ値が従来の5割増になることを踏まえて、食堂にアンケートを行った。
食堂が有機野菜を導入した場合、従来400円だった商品はいくらまで上がるかという質問に対し、
2学食堂が420円
一の矢食堂が500円
大学病院の食堂が580円
一学食堂が600円
三学食堂が650円
であった。このアンケート結果より、食堂が有機野菜を導入すると食堂の商品の値段が上がるのは明白であり、最も値上げ幅が低かった二学食堂をのぞくとどこも100円以上のねあげとなるこがわかった。
大学食堂への聞き取りによると、有機野菜を導入して現在の価格で商品を出すことは採算が悪いため無理である。「大学食堂有機野菜を導入した場合、食堂の商品を値上げするか、皿に盛る料理の料を減らすかして、採算を合わせる必要がある。」という。
「有機野菜と値上げに関する消費者の反応」
大学食堂の利用者である学生にも、食堂が有機野菜を導入した場合、従来400円だった商品に対していくらまでなら購入するかを質問したところ、平均が約430円であった。
これらのアンケート結果より、有機野菜を導入した場合二学食堂以外の大学食堂では、食堂を利用する学生数が減少することが懸念される。
しかし、同時に行ったアンケートで有機野菜に対するイメージを質問したところ、有機野菜の「味」がおいしそうと答えた人が65%、「安全性」を安全であると答えたのが75%、「安心感」を安心できると答えたのが69%、「環境への配慮」について環境にやさしいと答えたのが69%、「健康への影響」について環境に良いと答えたのが73%もいた。どの質問に対しても6割以上の学生が、好意的な印象を持っている。この結果から、
・大学食堂を利用する学生の有機野菜に対するイメージはよい
と判断できる。学生は有機野菜に対して好印象を持っているが、有機野菜を使った商品を購入するにはまだ踏み出せないようである。現段階では有機野菜の導入は困難だが、将来的には有機野菜を導入しても、学生が大学食堂を利用する可能性はあるのではないだろうか。アンケート結果に表れた有機野菜への興味は、学生が環境に対し真剣に問題意識を持ち始めていることを示唆しており、堆肥化循環システムがスタートする第一歩である言える。
4-1-6 考察
現段階では、大学食堂と産直部会の間で堆肥化循環をおこなうのは、産直部会の持つかたくなな有機農法への情熱と、大学食堂の持つ安いものを大量にという商業主義的な信念とが噛み合わず非常に困難である。しかし近い将来、大学食堂の消費者である学生が有機野菜を選択し始めたとしたら、大学食堂も有機野菜を導入し、産直部会との連携が持たれるかもしれない。
産直部会が消費者と大学食堂の環境問題に対する意識改革を待っているという点で、一歩先を進んでいるのかもしれない。