2.4.5 学内避難所設置の提案
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つくば市指定の避難所について
つくば市では、全ての小中学校を避難所に指定していて、その他に体育館、公民館、保育所などの施設を予備避難所としている。学内の避難所設置にあたって、まず大学周辺にある大曽根小学校、要小学校、吾妻中学校、桜小学校、桜老人福祉センター、上境保育所、春日公民館の7箇所の避難所の収容人数の推計を行った。まず、つくば市の地震被害想定をもとに、8%の家屋で被害が出るとことを想定した。被害を受けた住民は町丁目ごとにボロノイ分割による最近隣避難所へ避難すると仮定して、各避難所の避難人口を推計した。避難所の収容可能人口は、施設の有効面積より避難住民1人に2uを割り当てて算出した。推計した避難人口と避難所の収容可能人口から、大学周辺の避難所は筑波大生を受け入れる余裕がほとんど無いことが分かった。また、周辺住民さえも収容しきれない避難所もあった。さらに、ライフラインの被害などでもっと多くの人が避難することも考えられ、大学周辺の避難所に筑波大生の収容は期待できない。
図2.21:大学周辺の市指定避難所の収容人口
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学内避難所設置の提案
筑波大生がつくば市指定避難所へ避難しようとすると、避難所までの距離と避難所の容量という2つの問題が出てくる。距離については、最も近い吾妻中学校でも大学の中心地区から約2q離れていて、遠距離避難が強いられる。容量については、前節で述べたとおり避難所の周辺住民の収容だけで余裕のない状況である。
また、アンケート結果から約9割の学生が地震災害に対して備えをしていないことも分かった。これは、避難時の備蓄不足とも関わってくる問題で、支援などに頼らなくてはいけなくなる。そこで、私たちは、大学内に避難所を設置する準備をして、備えが不十分な学生のためにも避難所として物資の支援を受けられる態勢をとらなくてはいけないと考え、
学内に避難所を設置することを提案する。
B 耐震性の検討
学内避難所を設置するにあたって、大学内の建物について、その耐震性を筑波大学構造工学系の今井弘先生にヒアリングを行った。
その結果まず、一般に大学の建物は中廊下形式という構造で、高校までの学校の建物よりも構造的に揺れに強いということがわかった。高校までの学校の建物はそのほとんどが、廊下が建物の片側(主に北側)にある片廊下形式で作られている。そして鉄筋コンクリートの壁(以下RC壁)が教室の縦方向にしか入っていない。廊下側の壁は上と下に開け閉めできる戸が付けられていて、RC壁ではない。これは、教室の採光性や通気性を重視しているからである。つまり、片廊下形式の建物は横方向の揺れに弱くなっている。これに対して、大学の建物は中央に廊下があり、その両側に教室がある中廊下形式で作られている。採光性や通気性も重視していないので、廊下側の壁もRC壁でできている。採光性や通気性を重視していないのは、大学生は成長期を過ぎているので、照明や冷暖房をつければよいという理由による。中廊下形式の建物は、縦の揺れにも横の揺れにも強い構造になっている。(図2.22)
また、筑波大学の建物は新耐震基準ができた昭和56年より以前に立てられた建物もあるが、それらも昭和46年の旧耐震基準の一部改正以降であり、実質的に新耐震基準とほぼ同じ基準で作られている。阪神大震災において倒壊や大破など大きな被害を受けた学校建物は旧耐震基準で造られた建物が多く、新耐震基準で造られた建物には大きな被害はでていないという報告もある。
そして、体育館は屋根が軽いため構造的に普通の建物よりも揺れに強いということも言える。ただし、ガラス窓、天井など二次部材の被害は事前に対策をする必要がある。ガラスに飛散防止のシートを貼ることや、天井を補強することなどの対策がある。
以上耐震性の面から、大地震が起きても、筑波大学の建物、特に体育館には構造的には大きな被害は出ないということが言える。
図2.22:片廊下形式と中廊下形式
C 収容人数の検討
学内に避難所が設置されたとして、どれくらいの学生が学内避難所に来るだろうか。
仮定 ・学生総数は14000人。
・つくば市地域防災計画の地震被害想定より、約8%の家が被害を受けるとする。
・学生へのアンケート結果より、アパート・宿舎での生活が困難になった場合、40%の学生が大学内の避難所に行きたいと答えている。
・過去の例から避難所では一人当たり2uのスペースを使用する。
計算 14000(人)×0.08×0.4×2(u/人)=896(u)
よって、896uの広さが必要になる。
また、仮に全ての学生のアパート・宿舎の電気水道といったライフラインが止まって生活ができなくなったとした場合は、次のようになる。
計算 14000(人)×0.4×2(u/人)=11200(u)
よって、11200uの広さが必要になる。
後者の人数を想定して避難所を設置する建物を選ばなくてはならない。
D 避難所設置場所の提案
授業の早期再開を考慮すると、教室を避難所として使用することは避けたい。そのことと耐震性と収容人数とを合わせて考えて、第1体育館、第3体育館、総合体育館、武道館、球技体育館、大学会館の6ヶ所を学内避難所として提案する。大学会館だけ体育館ではないが、大学の建物の耐震性は問題ないことがわかっている。これらの建物の面積、使用可能な面積、収容可能人数は表2.2の通りである。
使用可能な面積の合計は11984uであり、5991人収容可能である。また、不足するようならば、机やいすなどが固定されていない会議室など、その他の建物の部屋を利用することもできる。
表2.2:避難所の収容可能人数
E 周辺住民の受け入れ
学内避難所への大学周辺住民の受け入れを提案する。理由としては、学内避難所は学生を収容してもまだ余裕があるということや、学生と同様周辺住民にとってもつくば市指定避難所は遠いということ。また、周辺住民へのヒアリングから周辺住民も避難所として大学に期待していることも分かっている。さらに学生へのアンケートでは、70%の学生が避難所運営のボランティア活動をしても良いと答えている。こうした理由から、周辺住民の受け入れを提案する。
図2.23はボロノイ分割にもとづいて、学内避難所に避難すると考えられる人の住む地域を表わしている。丸い点が提案する学内避難所で、十字がつくば市指定避難所である。(総合体育館、武道館、球技体育館の3つは近いので1つの点で表している。)丸い点と十字の間にある太い線の内側が、学内避難所のほうが近い地域である。
この地域の人口はおよそ5000人で、地震被害想定より8%の人が避難するならば、400人が震災時避難すると考えられる。400人ならば提案した6つの学内避難所で受け入れ可能である。
図2.23:学内避難所とつくば市指定避難所
F 備蓄について
避難所生活に必要な食料、水、毛布、医療品といった物資の備蓄について考える。現在筑波大学には災害用の備蓄はない。つくば市は庁舎単位で食料(カンパン)と水を備蓄しているが、その量は十分ではない。災害時、筑波大学に分ける余裕はないし、そのために必要な協定もない。国や全国からの救援物資が到着するのを待つしかない現状である。到着するのは早くても災害発生翌日以降だろう。
よって、筑波大学独自の備蓄が必要と考えられるが、備蓄には費用がかかる。食料や水には賞味期限があり、定期的に買い換えなくてはならない。また、管理費もかかる。そこで、最低限度として、水の備蓄を提案する。食料は多少我慢すれば済む。人間は水だけでも一週間生きられるという。費用は学生が負担する。ライフライン停止時、学内避難所に来るであろう、学生数14000人の40%、5600人分の水を備蓄する。一人一日2リットル消費するとして3日分、33600リットルである。購入費用は50円/リットルとすると、1680000円となる。学生一人当たり120円である。賞味期限がおよそ2年なので、年間だと60円の負担になる。管理費分を加えても、学生に十分理解してもらえる額であろう。
G 学内避難所運営について
筑波大学には職員で構成する防災組織と災害対策本部がある。防災組織は災害の発生防止と被害の拡大を防ぐための応急的防災活動を行うため組織されている。災害対策本部は重大な災害が発生、またはそのおそれがある場合に学長の指示で設置される。以下に示すのは災害対策本部において避難所の運営に関係する任務を担当する組織とその任務である。
1 全学における秩序維持
警備誘導班 2 避難場所の設定、避難住民の誘導
3 ボランティアの受け入れ及び援助先への配置
1 必要物資の調達及び配分
物品被害対策班 2 援助物資の受け入れ及び配給
3 物品の被害状況の把握
1 施設等の被災状況の把握及び拡大防止
2 各防災組織工作班への支援
施設対策班 3 構内道路の確保
4 全学的なライフライン(電気、上下水道、ガス、電話等)の確保
5 仮設的な居住環境の整備
学生対策班 1 学生の被害状況の把握
医療・救護対策班 1 負傷した教職員、学生等の応急手当
避難所の円滑な運営のために、この現状の組織と任務に対し以下のような改善案を提案する。
・ 学内避難所に周辺住民を受け入れるための避難住民対策班を設置する。その任務は、受け入れ場所の特定、避難者名簿の作成、つくば市との連絡等である。
・ 学生対策班に「学生の学内外でのボランティア活動の状況の把握と指導」の任務を加える。学生へのアンケートより、多くの学生がボランティア活動に参加すると予想されるので、その活動をまとめ、支援する。