春日4丁目の環境負荷を軽減するためには、住民である学生の、意識の改善が必要となる。コンビニエンスストアの利用や、無駄な車、電気、水道等の使用が、環境に負荷を与えていることを意識している学生は、まだまだ少ない。そこで、自分の生活がどの程度環境に負荷を与えているかを意識するために、環境家計簿をつけ、少しでも環境負荷を減らそうということがこの調査の目的である。
一般的な環境家計簿は、一月当たりの電気、水道、ガス、ガソリンなどの使用量から、それにより発生するCO2量を割り出し、環境負荷を計算するものであるが、他にもその日の行動を得点化するタイプのものなど様々な種類のものがある。今回は調査期間が限られているため、一週間にわたって一日の行動を得点化するという模式的なものにする。
生活環境班が独自に作成した環境家計簿(資料環境家計簿)を、50人の協力者(注1)に配布し、5月27日(日)から6月2日(土)の一週間にわたり、毎日その日の行動を振りかえり、得点を記入してもらう。その得点が、一週間でどのように変化するのかを調査する。それと同時に、その日に出た空き缶、ペットボトル、食品トレーの個数を記入してもらい、その個数の変化を調査する。その後、環境家計簿をつけたグループと、環境家計簿をつけなかったグループ(注2)で、日常の環境負荷軽減行動についてのアンケート(資料 生活環境に関する調査)を行い、両グループの行動に差異が認められるかを調査する。
注2:対象を体育でニュースポーツを受講している3年生、及び社会学類開設法哲学受講者の合計100人とした。
環境家計簿の得点は、2日目から順調に増加しているが、6日目、7日目と下落している(図2‐2‐1)。
次にアンケートの結果である。環境家計簿をつけた人の意識の変化をたずねたところ、9割近い人が意識の改善はあったと答えた(表2‐2‐1・図2‐2‐2)。つまり、環境家計簿は意識の改善に役立つと言える。
アンケート(資料生活環境に関する調査)Q14の9項目(車に関する3項目は、車を所有している人とそうでない人の差があるため除いた)の環境負荷軽減行動に対し、それをしているかという問に、はいと答えると1、時々と答えると2、いいえと答えると3の環境負荷を与えていると仮定し、両グループの環境負荷の平均を算出した(表2‐2‐3・図2‐2‐3)。環境家計簿をつけたグループの平均は17.33、つけていないグループの平均は14.77と環境家計簿をつけたグループのほうが、環境負荷の平均が高かった。このデータを、両グループの負荷量に差が無いという仮説をH0、差があるという仮説をH1として検定を行った。結果、z値は3.6315となりH0は棄却され、両グループには差があるといえる。つまり、環境家計簿をつけているグループのほうが、環境負荷を与えているという結果になった。そのほか男女別(表2‐2‐4・図2‐2‐4・2‐2‐5・2‐2‐6)、住居の形態別(表2‐2‐5・図2‐2‐7)、地区別(表2‐2‐6・図2‐2‐8)に集計してみたが、統計的に有意な差は認められなかった。
環境家計簿のポイントが、2日目以降順調に増加していたにもかかわらず、6日目から一転減少した。これは、6日目7日目が、金、土曜と週末に当たったため、買い物や外食等に車を使ったり、飲み会などをしたりしてペットボトルや空き缶が大量に出たためではないかと考えられる。曜日ごとの得点の平均と、個人の得点との相関係数の平均は、約0.7となり、非常に相関が強いことを示している。つまり、曜日は得点に何らかの影響を与えているようである。このような曜日に因る周期を是正し、より正確な調査をするためにも、一週間という短い期間ではなく、一月以上の長い期間での調査が必要である。
次に、環境家計簿をつけたグループのほうが、より高い環境負荷を与えていた点についてである。当初は、環境家計簿をつけることにより、環境に対する意識が改善され、それが環境負荷軽減行動につながると考えていた。しかし、結果は意識の改善は顕著に見られたものの、行動は改善されないどころか、むしろ悪いという結果になった。これは、環境家計簿をつけたグループは、環境家計簿をつけることによって9割近くの人が、日常生活が環境に与える負荷について意識するようになった。しかし、実際に「積極的に環境負荷の軽減に努めた」と回答したのは、わずか1人にとどまった。つまり、行動自体は両グループには差が無かったと考えられる。ところが、今回の調査は、自己採点方式だったため、環境家計簿をつけていたグループは、つけていなかったグループと比べ、自分の行動が環境に与える負荷について顧みていていた分、自分を厳しく評価し、結果的に環境負荷が高くなった、と考えられる。質問項目を、環境に対する意識について問う項目にしていれば、このようなあいまいな結果ではなく、はっきりとした差が出たかもしれない。今後、環境家計簿を一月、半年と継続することによって、環境負荷軽減行動にどのように結果が現れるかを調査したい。
環境家計簿協力者のアンケートから、環境家計簿は、自分の行動を顧みることに役立つことが分かった。しかし、協力者の感想に「数値的なことを書くだけのものが多いので、意識の向上にとどまり、事態を改善しようとまでは考えなかった」とあるように、行動の改善は難しいようである。また、考察でも述べたが、調査期間が短すぎる。環境家計簿は、継続してつけることによって、自分の行動を振りかえり、次からの行動を改善するためのものである。一週間つけただけでは、自分の行動を反省することはできても、それをその後の行動に生かすことはできない。やはり、最低でも一ヶ月間は継続して行い、家計簿に自分の行動の成果が現れ始めれば、環境負荷軽減行動もはっきりと増加するのではないか。
今回の調査から、意識が即行動に結びつくわけではないということが分かった。つまり意識の改善は、環境負荷軽減の必要条件ではあるが、十分条件ではない。環境負荷の軽減を、住民のモラルのみに任せるのは無理である。そこで、住民が、環境負荷を軽減するような行動を取れる抜本的な体系作りが必要なのではないか。
図2‐2‐1
環境家計簿の得点の変化
表2‐2‐1 環境家計簿の感想
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
図2‐2‐2 環境家計簿による意識の変化
|
表2‐2‐3環境家計簿と環境負荷
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
平均
|
つけていない
|
8
|
12
|
26
|
20
|
17
|
8
|
3
|
1
|
0
|
14.76
|
つけた
|
1
|
3
|
11
|
9
|
3
|
5
|
8
|
4
|
2
|
17.32
|
全体
|
9
|
15
|
37
|
29
|
20
|
13
|
11
|
5
|
2
|
15.60
|
図2‐2‐3
環境家計簿と環境負荷
表2‐2‐4性別と環境負荷
性別 | 家計簿 | 9-10 | 11-12 | 13-14 | 15-16 | 17-18 | 19-20 | 21-22 | 23-24 | 25-26 |
平均
|
男性
|
つけていない
|
6
|
6
|
12
|
11
|
8
|
4
|
1
|
1
|
0
|
14.53
|
つけた
|
0
|
0
|
5
|
3
|
0
|
5
|
7
|
3
|
1
|
19.08
|
|
女性
|
つけていない
|
2
|
6
|
13
|
8
|
9
|
4
|
2
|
0
|
0
|
15.06
|
つけた
|
1
|
3
|
5
|
6
|
3
|
0
|
1
|
1
|
0
|
15.00
|
図2‐2‐4
性別と環境負荷
図2‐2‐5
環境家計簿と環境負荷・男性
図2‐2‐6
家計簿と環境負荷・女性
表2‐2‐4 住居形態と環境負荷
家
|
家計簿 | 9-10 | 11-12 | 13-14 | 15-16 | 17-18 | 19-20 | 21-22 | 23-24 | 25-26 |
|
学生宿舎 | つけない |
3
|
4
|
7
|
3
|
2
|
3
|
0
|
1
|
0
|
14.21
|
|
つけた
|
0
|
0
|
2
|
1
|
1
|
0
|
0
|
0
|
0
|
14.75
|
アパート
|
つけない
|
3
|
7
|
17
|
16
|
13
|
5
|
3
|
0
|
0
|
15.14
|
|
つけた
|
1
|
3
|
9
|
8
|
2
|
5
|
6
|
4
|
1
|
17.17
|
図2‐2‐7
住居形態と環境負荷
表2‐2‐5 居住地区と環境負荷
地区
|
家計簿
|
9-10
|
11-12
|
13-14
|
15-16
|
17-18
|
19-20
|
21-22
|
23-24
|
25-26
|
平均
|
春日
|
つけた
|
1
|
3
|
4
|
9
|
5
|
4
|
1
|
0
|
0
|
15.56
|
つけない
|
1
|
2
|
2
|
2
|
1
|
2
|
4
|
1
|
0
|
17.27
|
|
天久保
|
つけた
|
1
|
5
|
12
|
4
|
7
|
3
|
1
|
0
|
0
|
14.79
|
つけない
|
0
|
1
|
6
|
3
|
0
|
3
|
2
|
3
|
1
|
17.63
|
|
桜
|
つけた
|
1
|
2
|
2
|
1
|
2
|
0
|
0
|
0
|
0
|
13.75
|
つけない
|
0
|
0
|
1
|
1
|
1
|
0
|
1
|
0
|
0
|
17.00
|
|
一ノ矢
|
つけた
|
2
|
1
|
1
|
3
|
1
|
1
|
0
|
1
|
0
|
14.80
|
つけない
|
0
|
0
|
1
|
0
|
1
|
0
|
0
|
0
|
0
|
15.50
|
|
平砂
|
つけた
|
1
|
1
|
2
|
0
|
0
|
0
|
1
|
0
|
0
|
13.80
|
つけない
|
0
|
0
|
1
|
1
|
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
14.00
|
図2‐2‐7
地区と環境負荷