1.背景と目的

1.1.背景及び問題意識

近年になり、ノーマライゼーションの理念が社会に急速に浸透しつつある。国や自治体においても、福祉のまちづくりの実現にむけての法制度化が進んでいる。つくば市では、平成7年に「つくば市福祉環境整備指針」を策定し、指針に基づいて現況調査やアンケート調査を行い、課題や整備の方策を「つくば市障害者や高齢者にやさしいまちづくり整備計画」で明確化している。

現在、23人の障害者が在籍している筑波大学では、詳細なバリアフリー施策に関する現状は把握できていない。また、既存の施設については要望に応じて対策しているのが現状である。そこで筑波大学ではどの程度バリアフリーの対策が行われているか調べることにした。

平成12年度身体障害学生数 平成12年5月現在

所属

視覚障害

聴覚障害

運動障害

第一学群

2

2

第二学群

2

2

第三学群

1

1

体育専門学群

1

2

3

4

4

8

教育研究科

1

2

2

5

医科学研究科

1

1

歴史・人類学研究科

1

1

文芸・言語研究科

1

1

心身障害学研究科

1

1

1

3

社会工学研究科

1

1

数学研究科

1

1

工学研究科

1

1

2

4

6

5

15

合  計

4

10

9

23

 

1.2.本研究の目的

つくば市や文部省の基準をもとに、学内外の身障者の方の意見と、車椅子等の実体験を


反映させた基準を再考し、私たちで改めて基準を作成し、それをもとに学内調査を行う。さらに、その結果を分析・考察し、最終的に障害者の方に役立つようなマップを作成する。作成した資料は障害者の方だけでなく、大学側にも配布する。理由として、配布した資料によって大学側に施設の現状を知ってもらい、今後の施設等の改善を求めるためである。

 

2.バリアフリー度の基準作り

2.1.調査対象の設定

 一言にバリアを取り除くといってもその対象になる人は、障害者・高齢者・妊婦・外国人・一時障害者など幅広くとらえる必要がある。しかし、全てを対象とすることは非常に難しい。そこで、私たちは運動障害・視覚障害・聴覚障害の三つに対象を絞った。その理由としては、上の三つを調査することで、高齢者や妊婦などについての把握をも含むと考えたからである。しかし、聴覚障害に関しては人と人との間のバリアが問題であり、移動に関するバリアを取り上げることが難しく、今回の研究では取り上げないこととした。

 実際に事項からの内容にあたっては、運動障害と視覚障害で個別に作業を進めていくことにした。これは、障害の種類や程度によって求められているものが異なり、障害に合わせた現状把握をより深めるためである。

 

2.2.基準作り

私たちは、視覚障害と運動障害の2つの障害から見て、現在存在する基準が障害を持つ人々にとって本当に有益なものになっているのかを調べることにした。そして、足りない部分があるとするならばそれを補い、現状を評価するために新たな基準作りを行うことにした。しかし、私たちは障害を持つ人々が普段どのように感じ、行動しているのかを全く知らないので、実際に障害を持っている人々にヒアリングを行い、障害に関する文献を調査し、できるだけ障害を持つ人々の気持ちに近づくために実体験を行い、それをもとに既存の基準を見直すことにした。

 

2.2.1.既存の基準

つくば市では平成2年度に「つくば市総合計画」が策定され、つくばに住む市民が、いきいきと活動できる『市民主体』と『人間尊重』のまちづくりを打ち出している。こうした考え方は、障害に関わらず、誰もが自らの意志に基づき自由に社会参加できるまちづくりの基本とも言える。一方、平成5年度に「つくば市総合計画」を受けて策定された「つくば市地域福祉推進計画」では、『暮らしを支える環境を整備する』という章において、障害の有無や程度に関わらず、誰もが暮らしやすいまちをつくるために、公共的建築物や道路の整備などにおいて配慮を行っていくことを掲げている。これらをふまえて平成7年に作られた「つくば市福祉環境整備指針」では、つくば市が首都圏の業務各都市、県南地域の中核的都市としての期待が高まっていることを念頭におき、将来に向けた都市化の動向をも見据えながら都市環境を福祉の観点に立って計画的の整備していくために、施設整備に当たっての基本的考え方および技術的基準を明確化したものである。

また、大学では文部省が定めた「建築設計資料」を参考にして整備を行っている。この資料は、高度化、多様化しつつある学習需要に対応して学校開放を進めるなど、生涯学習の場としての学校施設の活用を推進し、身体障害者や高齢者を含めた者が安全かつ快適に学校施設を利用できるようにキャンパス内の各種施設を整備する際に留意すべき事項をとりまとめたものである。整備対象施設として、キャンパス内歩道、図書館、校舎、体育館、管理棟などがあり、特に障害を持っている人などが利用しやすい状況になっているかどうかを検討しておくことの重要性が書かれている。この二つの資料を用いて、現在使われている基準からそれぞれの障害に関わりがあると思われるものを抜き出した。

2つの基準を比べてみると重なり合う部分はあまりなく、重なっている基準でも数値が微妙に異なっていたり細かな説明が異なっていたり省かれていたりする。全体的につくば市福祉環境整備指針の方が細かく基準が作られているが、特に建物外部についてより多くの基準が作られている。

 

2.2.2.運動障害について

文献調査

 平成9年度環境計画実習の論文である『筑波研究学園都市におけるバリアフリーの評価』と、『交通機関の「やさしさ」の向上をめざして』、の2冊の文献を読んで基礎知識をつけた。これらの文献には、障害者にとって通りにくい場所や通行の障害となっているもの、工夫されている場所、改善されたものなどの説明が写真付きで詳しく説明されている。これらでわかった点についてはヒアリングで積極的に質問することにした。

その他、各自で図書館に行きバリアフリーに関する文献を調べ、得た知識をレポートにまとめて班員に伝えていった。

また、実習をはじめた直後の新聞で、竜ヶ崎市のあるグループが車椅子対応のトイレマップを作成したと知り、現地に行ってこれを拝借してきた。A3用紙1枚の簡単なものであったが、私たちが製作しようとしていたマップの参考にすることができた。

 

実体験

私たちは障害者の立場に立ち、学内交通のバリアを自分たちでも感じ取るために、ヒアリングで挙げられた不便な場所や通りにくい場所を実際に車椅子(手動および電動)や松葉杖を使って通ってみた。また、短時間使用しただけでは、表面的なものしか得られない恐れがあるので、手動の車椅子と松葉杖に関しては1日中体験することにした。体験の内容は、平日に朝、家から車椅子や松葉杖使用して通学し、学外の道路や横断歩道なども通り、学校でも普段どおり授業を受けるというものである。

 

一日体験:車椅子

体験日

62日金曜日 晴れ

体験者

山口

気づいた点

  • 進行方向に対し横方向の傾斜がつらい
  • 坂はどこでもつらい
  • 東大通りを超えるときの信号の間隔(渡りきるぐらいのところで点滅)
  • 東大通りの横断歩道を渡りきったあとに歩道に入るときの段差が登れなくて、ひかれる恐れがある(段差の小さい所を見つけてなんとか渡ることができた)
  • 段差を乗り越えるときに勢いつけて超えようとするときに横転する恐れがある
  • エレベーターで出るときのバック走行。車椅子が蛇行してしまうので出にくいから慣れるまで大変。
  • 歩道を走っているとき、自転車に迷惑をかけないために端を通ろうとするが、車椅子が蛇行してしまい、道の真ん中に入ったり、端からそれて舗装されていないところに落ちてしまった
  • あまり動きたくない
  • 人の多いところに行きたくない(心理的にも交通的にも)

  • 3学A棟キャッシュコーナー前のドアを入るとき、段差があり、入れなくて困っていたらドアを開けてくれる人がいた。
  • 建物内の廊下…滑るけど、それほど支障はない
  • 視覚障害者のヒアリングで言ってたが、どんなことでも声をかけられたらうれしいという気持ちがわかった。
  • 視点の違い(高さ)

 

 

一日体験:松葉杖

体験日

68日木曜日 晴れ

体験者

関根

気づいた点

  • 普通に歩くスピードよりかなり遅い
  • 階段は混んでいると焦ってしまい、踏み外してしまい恐い。
  • 勾配のゆるい坂でもかなり疲れる
  • 脇の下よりも手を握るところが痛くなる
  • 両手をふさがれるため、不便であるし、転びそうになるとき足も手もでなく恐い。
  • 階段のときは松葉杖を使わず、片足で昇り降りした。
  • ドアは体で押しながら入っていく。
  • ドアを開けて待っていてくれる人は結構多かった。

 

 

 

ヒアリング

日時

5月19 15001700

メンバー

斎藤・坂下・関根・山口

場所

研究室

対象者

筑波大学院生

障害の程度

右大腿部から切断、普段は義足または松葉杖を使用

生活圏・

行動範囲

通学には自動車を利用。第3学群F棟前の障害者駐車場使用し、その周辺および図書館まわりを移動。

移動する上で不便を感じるところ

  1. 学内において

  • 学内のほとんどがタイル張りであるため歩きづらい。(タイルは滑りやすく、歩きやすい素材はアスファルト材)
  • スロープは歩きづらく、階段との併設が望ましい。(同じ下肢障害を持つ人でも、車椅子の人はスロープが必要だが、義足の人にとっては階段のほうが使いやすい)
  • ドアが狭い。ほとんど開き戸であるが引き戸(スライドドア)が望ましい。(入る際にドアを支えている必要があるため)
  • トイレの場所が分かりづらい。
  • 起伏が激しい。
  • 学内に信号がない。(学内のループ道路は木が多く歩行者が自動車から見えづらく、また運転者のマナーが悪いため、急いで走ることのできない下肢障害者は安全に横断できない)
  • 駐車場から施設まで遠い。
  • 自転車の駐輪が邪魔。特に2学、3学書籍部前。
  • 図書館下の駐車場から図書館1階入り口までのアプローチ。
  • 大学会館書籍部へのアプローチ。

 

  1. 学外において

  • 大通りの歩道と車道の段差が大きいため、通りを横断する場合急な坂となっており危険を感じる。特に下肢に障害を持つ人にとっては(高齢者にとっても)下り坂のほうが歩きづらい。
  • つくばは明かりが少ない。
  • 車道に沿って木が植えられているため、その木の根が歩く際に障害になる。

コメント

  • 障害が見た目ではわかりにくいため、苦しいときも助けを頼みづらい。
  • 学内で評価できる点として、すべての棟にエレベーターがある。車椅子用のトイレがすべてにあるわけではないが、少なくとも洋式トイレはある。
  • ハード面ではすべてをカバーする事は無理。ソフト面、心の面でのバリアフリーが必要である。また、広い範囲すべてをバリアフリーにするのは無理。逆にそういった人たちが集まる場所から整備していくしかない。
  • 心のバリアフリーに関しては、健常者のマナーの悪さを感じる。

(例えば、学内の身障者用の駐車場にパイロンが立ててあるが、それは

障害者以外の人がそこに駐車してしまうからである。しかし、障害者

にとって車からいったん降りて、パイロンをどかしまた車に乗り込ん

で、という動作はとてもたいへん。)

 

日時

69 16001730

メンバー

甲斐・坂下・白鳥・関根・船田・山口

対象者

筑波大学生

場所

中央図書館

障害の程度

先天的な障害(脳性麻痺が足に残った)

歩くのは1kmが限度

生活圏・

行動範囲

住まい:追越17号棟1階(風呂付き)

移動手段:電動車椅子(価格40万円、重さ60kg−6人でやっと持て

る、充電15時間で30km、時速2.5、4、6kmで移動可能)

移動範囲:追越から第1学群まで20

電動車椅子ではつくばセンターまでが限度

移動する上で不便を感じるところ

  • 自転車が邪魔(マナーが悪い、駐輪場の整備が必要)
  • 段差(ちょっとした段差でも動けなくなる)
  • 第2,第3学群、外国語センター付近の坂
  • ちょっとした傾斜でも転倒の可能性(ex.体芸図書館前)
  • ドアの幅が狭い、廊下の幅が狭い。
  • エレベーター(障害者対応のものでも幅が狭い、慣れるまで乗るのが難しい、慎重にいくと扉が閉まる)
  • 街灯がなく夜は危険
  • 学内ループ道路(がたがたしている、幅が狭い)
  • ペデストリアン(自転車が通るので一人だと危険)
  • 身障者用トイレ(管理が行き届いていないところが多い)

その他

 

1)マップについて

  • 高さの情報が必要(数値では分かりにくく、実際に通れるか通れないかが重要)

一人で行動できる範囲がわかる地図がほしい。

2)その他

・中央図書館について…新館のエレベーターは幅が広い。

…本館の2つのエレベーターは左右開口時間が違           

           う。

  • スロープの手すりは誰のためだろうか

…車椅子用ではないのではないか。下りるときは使わない、上る

    ときは使う人もいる。

・交通量の多いとき助けてほしいと思う。

 

日時

612

メンバー

甲斐・斎藤・船田

場所

日本ヒューマンケア協会

対象者

日本ヒューマンケア協会 Tさん

障害の程度

  • 脇下の感覚がないため、体を支えられない
  • 指が動かないため、平坦なところしか通行できない
  • 常に車椅子を使用(手動)

移動をする上で不便に感じるところ

 

1)車椅子での通行に関して

・物理的な制約(エレベータ、段差など)

  • アプローチはスロープと階段の2つを用意してほしい
  • 排水溝の溝はキャスターがはまるとバランスを崩す
  • 常に足元を見て歩く
  • 介助者がいないと段差は恐い
  • 傾斜は角度がきついと大変
  • 東京は介助者の制度があるのでよいが、他のところでも真似してほしい
  • 長い坂はブレーキしづらい
  • スロープが滑りやすいとブレーキが効かないため大変である
  • 雨の日は滑りやすいので大変である
  • 表面がなめらかなほうが動きやすい
  • 駅の階段は23人呼んで助けてもらはなくてはならない

 

2)バスの利用について

  • 固定装置があっても、装着に時間がかかる
  • 固定装置を装着しないと不安定で恐い
  • 身障者対応バスの入り口:スロープがあるもの、または低床式

以上の理由から、使うことはほとんどない

 

3)駐車場に関して

  • 駐車スペースの前に置いてあるコーンは邪魔である
  • 乗車の際、ドアをいっぱいに広げるため、スペースが広いほうがよい
  • 障害者対応の駐車場の利用に関して、障害者かどうかわからない人が利用している場合があり、利用制限は難しく、モラルにまかせるしかない
  • 券発行機がある場合、ボタンが押せない場合がある

 

4)身障者用トイレに関して

・扉が重い場合がある

  • 車椅子が回転するスペースがあまりない

 

5)心のバリアフリーに関して

  • 人に手をかけてもらう事が一番つらい
  • 行った先々でまた別の人に助けてもらうことがつらい
  • 介助者に気を遣うこと
  • 人の目(特に子供など)が気になる
  • 車椅子の置き方に困る

 

コメント

 

1)事前に知っておくと有為な情報

  • トイレの場所
  • 段差
  • 入り口の幅
  • スロープ
  • 最短距離
  • 車椅子で入れるかどうか
  • 駅からの距離
  • エレベーターがあるかどうか

2)電動車椅子について

  • 便利ではあるが、重いため逆に大変な場合がある
  • 電動車椅子では一人では電車に乗れない
  • 筑波大学の様子(大学の広さ、起伏の激しさ)を聞いた感じでは、自分も筑波大学生なら電動車椅子を利用していると思う

 

メールによる質問であったため数多くの質問に答えていただくことはできなかった。

日時

68日木曜日

方法

e-mail

対象者

筑波大学卒業生

移動手段

普段は電動車椅子を利用。

行動範囲

  • つくば市内。さらに電動車椅子で行ける範囲。
  • 公共の交通機関は使わない/使えない。
  • 東京などは行くときは主に電車を利用。

公共機関について

  • 公共機関は利用しにくい。
  • 特にバスは高い段差があり、入り口・通路が狭く介助者も解除しにくい。
  • タクシーは乗車拒否されたことはないが、されるかもという恐怖がある。

質問とその答え

  • 動きがとれなくなってしまったというような経験はあるか

→はい。歩道のない車道で電動車椅子に乗っていたら草むらに隠れ

ていた穴に落ちた。

  • 通行できないような段差がある場合どうするのか

→まわりの通行人に頼むか、迂回する。

  • cmの段差を越えることが困難だと感じることはあるか

→電動車椅子だと困難は感じないが、ない方がよい。振動がきつい。

→手動だとさらにきつい。押してもらう人によっては進入していく

スピードによっては車椅子から落ちるのではないかと心配。

  • 左右に傾斜のある場所は慣れた人でもやはり走行しにくいのか

→はい。あまり通りたくない。

  • 坂を走行する際に恐怖を感じることはどうか

→下っている時に前から自転車がくるとき

 

日時

62日 16:0017:30

メンバー

白鳥・関根・船田・山口

場所

対象者宅(天久保)

対象者

つくば市内に住む女性

障害の程度

脳性麻痺 第一級障害

一人では動くことができなく、普段は横になっている

生活圏・

行動範囲

谷田部まで(介助者の運転する車で移動をする)

阿見の友人宅

近くの公園

つくばセンターに買い物

質問とその答え

  • 移動する上で不便だと感じるときはあるか

→車椅子のとき道路が濡れていると滑りやすく危険

  • 筑波大学の印象について

→広くて迷いそう

→自転車が邪魔

→坂が多い

  →スロープがなだらかであればよい

  • マップにどのような情報があったらよいか

→エレベーターの位置とそこまでのアクセス

→身障者用トイレの場所

→駐車場がどこにあるか

  →スロープが何処にあるか

その他

  • 車椅子で入れない店があることが不満

言葉を発することに困難を伴うため数多くの質問をすることができなかった

 

2.2.3.視覚障害について

文献調査

ここで用いた文献は主に津田美知子の「視覚障害者が街を歩くとき」(都市文化社)である。この本は、視覚障害者がどのようにして歩くのかという疑問をもとに、視覚障害者の歩行に関するケーススタディを行った記録が書かれている。ヒアリングにおいて全盲の人々について知ることができたので、文献調査では特に弱視に重点をおいて調べた。

 

実体験

ヒアリングによると視覚障害者は白杖の使い方を習っているのでそこから情報を得ることができるが、私たちではそれが不可能であるので必ずしも視覚障害者と同じ立場に立つことはできないと言われた。しかし、視覚障害者の気持ちを少しでも感じることができればと、目隠しをして杖を持って大学内を歩いてみた。目隠しをして誰もが最初に感じることは、何も見えないことからくる恐怖感である。今までに私たちが目から得てきた情報があるところでは、頭の中で自分がどこにいてどのような状態なのかを想像することができるので、多少の伝い歩きをすることも可能であった。しかし、全く行ったことのないところや、あまり行ったことがないので頭の中にイメージがつかめないようなところでは、自分一人ではほとんど動くことができなくなってしまう。他の人に声で誘導してもらうことで、ゆっくり移動することはできるが、移動における精神的疲労はより大きくなる。生まれつき全盲の人々は全く視覚的情報がないところから、メンタルマップ(頭の中に地図をイメージしたもの)を作って移動しているので、このような状況であるのではないかと思われる。また、私たちでも耳や手、足の裏からの情報が大きな頼りとなる。特に手や足の裏から得る情報はとても重要だが、触っている物が何であるか理解できない場合は逆に不安が増すことにもなった。

 

ヒアリング

学内外を含めて3人の全盲の方からヒアリングを行うことができた。

 

日時

526 17:0018:30

メンバー

坂下、山口、秋山、森下、草野

実施場所

筑波大学人間学系棟1F

対象者

筑波大学院生

障害の程度

全盲:強い光のみ区別がつく(生まれたときから)

生活圏・

行動範囲

一の矢学生宿舎の障害者用の部屋に入居している。

普段の通学範囲は、一の矢から人間学系棟を歩いて移動している。10日〜2週間に1回、学内バスを利用している。

学群生の頃は友人に連れていってもらっていた。

不満や不便に感じるところ

  • 路上の駐車
  • 水たまり
  • 自転車の迷惑駐輪
  • 木の枝
  • 廊下にある本棚や傘立て
  • 第二学群と第三学群の間にある池に落ちたことがある
  • バスの利用については、運転手に顔を覚えてもらうまでは使い勝手が良くなかった。
  • 自分が乗ろうとしていないバスまでもが、毎回停まってしまって申し訳ない。

要望

  • 視覚障害者誘導ブロックは、できれば大学会館付近の生活の場まで欲しい。
  • 通路での立ち話中にぶつかりそうになるときは、健常者側からよけて欲しい。

歩くことについて

  • 距離感(部屋の広さ、混み具合)は音の響き方でわかる。
  • 小さいときから目が見えずに歩き回っているので慣れている。
  • 狭い廊下ならば人がどちらによけたかわかる。
  • 白杖と足底で誘導ブロックを感じるので、靴は底のうすい物を履く。
  • 雨・風の日は音がかき消されるので普段より気を使う。
  • 自然を楽しんだり、ぼーっと歩くのは相当慣れた道でないと無理。
  • 普段はものすごく集中して歩いているので、話しかけられただけでも集中力が途切れ、方向感覚が狂ってしまう。
  • 同じ歩行訓練を受けても、その後の行動範囲はその人の経験・勇気・性格などで違ってくる。

一人で初めての場所へ外出するとき

  • 駅の中の移動は歩いている人のみなので、一人でも安心。
  • 待ち合わせは構内のどこか、もしくは確実なところで。
  • 自力で行く場合は駅からタクシーを使う。
  • 目的地の最寄り駅ではなく、タクシー乗り場がある駅の中で最も近い駅を利用する。

実体験について

  • 一時だけ使ってみても、白杖から伝わってくる情報は感じ取れない。

筑波大学について

  • 筑波大学は全国的に見てバリアフリーが進んでいるといわれているが、筑波大学はキャンパスが広いので、他大学よりも相当努力しなければ同じレベルにはならない。

健常者に対して

  • 学内で声をかけられることはほとんどない。
  • 自転車が誘導ブロックの前にあってぶつかりそうなときや、不安そうに立ち止まっているときは、声をかけて欲しい。
  • 偶然声をかけたときに断られたからといって、もう良いのかと思わないで欲しい。
  • ある程度はハード面があって、足りないときはソフト面でカバーを。

地図に載せたい情報

  • 誘導ブロックの位置
  • 健常者に対して、迷惑駐輪スポット

 

 

日時

69 13:0014:30

メンバー

坂下、山口、秋山、森下、草野

実施場所

つくば市内のファミリーレストラン

対象者

筑波技術短期大学学生

障害の程度

全盲

行動範囲

  • 日常は学園都市内
  • 時々東京に行く
  • 筑波大学(屋外)にも来る

実際の行動範囲と自分の望む行動範囲のギャップ

  • 目が見えないと自分の望んだところにすぐいけない。
  • 初めて行く場所は、前もって準備して下調べをしたり、他の人と2,3度行ったりする。
  • 駅の時刻表をあらかじめ調べ、切符は予約しておく。

 

屋外の移動で不便に感じること、必要なもの

  • 最低視覚障害者誘導ブロックは必要。
  • 視覚障害者誘導ブロックはありすぎると歩きづらいし、晴眼者にとっても邪魔になる。
  • あらかじめ地図があると便利。
  • ここから何mというのは50mぐらいまでは見当がつく。

屋内の移動で不便に感じること、必要なもの

  • 点字ラベルが各部屋にあると良い。
  • 階段の手すりに凹凸があると良い。

 

公共機関について

バス

  • 運賃がわからないので、前もって調べるか、降りるときに聞く。
  • 時々ボタンを押しても、目的のバス停ではないところに停まってしまうことがある。
  • 運転が乱暴なバス会社がある。
  • 降りたところに視覚障害者誘導ブロックがあるとすごく楽、少しでもずれたところに停まられると、ブロックを探すのに時間がかかる。

設備について

廊下

・障害物があるのはダメ。

手すり

  • 出入り口の向かい側に廊下に点字シールや凹凸などで出入り口の存在を知らせていても、向かい側に部屋があるのはわかるが、何の部屋かわからない。
  • 高さは特にこだわりはない。
  • 視覚障害者にとっては、つかまるものではなく、伝い歩きをするためのものなので、形・大きさより標示が必要。

点字表示

  • 手をのばした位置か、それよりやや上に。
  • ドアにあると、点字を触ったときにノックと間違えられてしまう恐れがある。
  • スイッチのONボタンに印が欲しい。
  • 浮き文字は認識に時間が必要。

ドア

  • 内開きがいい。外開きは後ろに下がらなければならない。
  • 引き戸と内開きならばどちらでも良い。
  • 外開きのドアが開いた状態だとぶつかることもある。

視覚障害者誘導ブロック

  • 余計にあると逆に迷ってしまう。
  • 道の中央と端では、道の中央に設置してある方がよい。中央は自転車がよく通るが、よけてくれれば問題ない。
  • ブロック1枚の大きさは統一されていない(現在、どこかの省が統一基準をたてている。)
  • 誘導ブロックの1つ1つの点が大きすぎると、誘導ブロックとわからないことがある。
  • 視覚障害者誘導ブロックに片足をかけて歩行する人もいるので、誘導ブロック上になくとも、近くに障害物があるのは危険。
  • 視覚障害者誘導ブロック上の自転車の駐輪はやめて欲しい。

スロープと階段

  • どちらも使い勝手は同じだが、スロープの方が疲れない。
  • スロープの始めと終わりに視覚障害者誘導ブロックがあるとさらに良い。
  • 螺旋状の階段は、方向感覚が狂い、よくつまずきそうになる。

エレベーター

  • ボタンのところに点字があっても読む時間がない。
  • 乗り場に何階に何があるかを点字表示した方がよい。
  • エレベーターから降りるとき、今何階かは誰かに聞く。感覚に頼るのは嫌。音声案内があった方がよい。

案内板

  • 触地図より文章化されたものの方がよい。
  • 東京駅の触地図はわかりにくかった。
  • 変なところで細かいところがあり、分かりやすい触地図がなかなかない。

横断歩道・信号機

  • 筑波大学内のループの横断は車のスピードが速く、信号もないので恐い。
  • 音響式信号は夜になると音が出なくなってしまう。都会だと周辺の騒音で聞こえにくい。

トイレ

  • トイレに関してはあまり不自由を感じない。

雨の日

  • 水たまりが多いと嫌な思いをする。
  • 雨で音が消されると歩くのが恐い。

健常者に対して

  • 晴眼者は障害者に対して声をかけて欲しい。一言ですごく助かる。こちらからは声をかけづらい。
  • 声をかけるとき、急に危ないと言われても困る。危険だと思ったら前もって声をかけて欲しい。
  • 誘導の仕方もきちんと知って欲しい。
  • 自転車で対向してくる場合は、相手がよけてくれないと困る。
  • 自転車が真横をすれすれで通ると恐い。
  • 立ち話をしている人たちをどうやってよけたらいいかわからないことがある。

 

日時

612 9:3011:30

メンバー

坂下、山口、秋山、森下、草野

実施場所

東京都盲人福祉協会

対象者

東京都盲人福祉協会および日本盲人連合会長

障害の程度

全盲

全盲と弱視で異なる点

全盲

  • 歩くときは必ず白杖か盲導犬を用いて、誘導ブロックを100%頼りにする。
  • 足の裏で視覚障害者誘導ブロックを感じる。

弱視

  • 白杖、盲導犬はあまり用いない。
  • 視力で誘導ブロックを感じる。(色がはっきりしていないと使えない)
  • 地下道や駅構内が暗いという声があるので、明るい方がよい。

誘導ブロック

  • 基準がないため、点ブロック(誘導ブロック)と線ブロック(誘導ブロックで30種類以上が存在。
  • 各メーカーが競って開発し、自治体に売り込んだため、通産省工業技術院が2年間かけて実験し、来年3月までにはJIS規格になる予定。
  • 点ブロックは1枚30cm×30cmで、直径2cm、高さ5mmの円形状の突起を2025個配置したもの
  • 線ブロックは同じく30cm×30cmで、高さ5mm4本の線を配置したものが実験の結果から、案として出ている。
  • 建設省が昭和50年頃黄色が好ましいとした。基準ではなかったので、美観の点から床と同色とするところがあった。弱視にとっては色が同じだと見えない。逆に老人性白内障の人にとって、黄色はまぶしすぎるとの声もある。(見ないようにすればまぶしさは感じないのでは)
  • 簡易ブロック(合成樹脂で貼り付けたもの)ははがれやすいが、無いよりはましなのでつけられていった。
  • 埋め込み式のものは頑丈ではあるが地盤が緩いとがたついてしまう。
  • 最近では、地面に焼き付けるタイプのものもあり、最も望ましいと思われるが実現されているところは少ない。
  • 位置は道の中央でも端でも良い。
  • 誘導ブロックは利用者が多いところでは二重になっている。

音声誘導

  • 誘導で、視覚障害者誘導ブロックと同じぐらいに音声誘導は大事だが、あまり整備されていない。
  • 基準がないので、様々なものが存在する。
  • メーカーによる売り込みで自治体ごとに異なり、メーカー同士で互換性がない。いずれにしてもユーザー抜きで開発されるので、問題があることが多い。(例:電波を用いたもの、赤外線、FM、人工衛星など)
  • 建設省は現在、今後3年間アイデアを募集しているが、障害者側から見れば、今すぐにでも必要。
  • 音声による誘導(チャイム)は慣れた人には有効だが、初めて来た人にはチャイムが鳴ると余計混乱してしまう。
  • 学内に設置するとしたら、校内の入り口や、各建物の入り口には音声誘導を、廊下にの角にはチャイムを

障害の程度による違い

  • 0.01の視力…近くだと道路の白線がぼんやりと見える。視覚障害者等級1級
  • 0.6の視力…新聞も読める。視覚障害等級6級
  • その他にも視野狭窄(視野が極端に狭い)、明るいと見えない、暗くなると見えないなど、様々な障害がある。そのためこれらを含めて考える必要がある。

文字情報などについて

  • 点字を読める障害者が少なくなってきているので、点字だけでは不十分になりつつある。
  • 浮き文字はホテルの部屋番号の表示などでは有効。
  • 触地図は全く役に立たない。
  • 点字は指先1本でたどるので、施設の全体像が指1本ではわからない。一度行ったりして、全体像を予備知識として持っている場合は多少有効。
  • 地図には文字情報をきっちりと載せてくれると助かる。

始めていく場所に欲しい情報

  • 敷地の規模(広いところほど歩きにくい)
  • 敷地内の建物の数とその配列
  • 初めての駅に行くときは、あらかじめ電話をして出口の数、位置、出口からバス停までのアプローチを確認する。

日常でよく使う交通手段

電車

  • 自宅(世田谷)から一人で毎日通勤している。
  • 乗車口がわからなくて落ちてしまうことがある。(毎年必ず数件は起こる)
  • 車両編成によって降りる位置が違う(継ぎ目のガタゴトという音で判断する)

バス

  • とにかく使いづらい。
  • まずバス停の位置がわからない。
  • どこ行きのバスかわからない。(いちいち乗って運転手に確認する)
  • ブザーの位置がわからない。

共通すること

・空いている席がわからない。

白杖について

  • 基準は特にない。
  • タイルの目地や溝にはまってしまうという声について、垂直に持つとすっぽりはまってしまう。(きちんと使えばはまることはない)

日本の白杖歩行技術は欧米に比べて2,30年遅れている。

階段について

  • 中途半端な幅の階段は、杖を使わないと歩きにくい。(視覚障害者は、階段をリズムで昇り降りするので、白杖は普通用いない。)
  • 下りるときの方が危険を感じる。

その他

  • 白線のみで歩道と車道を分けている道は、全盲にとっては何の意味もない。(車がこないときは、道の真ん中を歩く。)
  • 段差2cmでもわかりにくいと感じる(運動障害者との差)
  • 道の素材はアスファルトがベスト。

健常者への訴えかけなど

  • 何のために視覚障害者誘導ブロックがあるのかを知ってもらうべき。
  • 日本では教育の段階で健常者と障害者は分けられてしまう。社会に出て初めて両者が接するので、接し方がわからないことが多い。
  • できるだけ健常者の方から声をかけて欲しい。

 

2.3.新しい基準の説明

2.3.1.運動障害の基準

 

私たちは、運動障害の方が学内を走行する際、どのような部分が障壁になるのかを、文部省建築基準・つくば市福祉環境整備指針を元に、文献調査、ヒアリング、実体験で得られた意見を考慮しながら作成した。

 

建築物について

駐車場の位置は、車から降りての移動が困難な方が使用されることから、利用する入り口の近くに有ることが望ましい。駐車スペースは、車椅子、松葉杖、または義足の方が利用される事から、車椅子などで接近できるスペースやドアを十分に開く事のできるスペースが必要になるので、乗降用として140cm以上の幅員が確保できるように、幅員は350cm以上としなければならない。このような、特に整備された駐車場には、障害者シンボルマークの表示や、乗降用スペースの斜線表示、案内板の設置などを行い、さらには、駐車場への進入口から障害者用駐車スペースまでの誘導標識を設置し、利用者にわかりやすくなければならない。この他、主にソフト面の問題として、障害者用駐車スペースに、障害を持たない人の利用を防ぐためのパイロンの有無や、人の手を借りることなく駐車できる状態にあるかをチェックする必要がある。障害者の方にとって、一度パイロンを移動して駐車するという動作は非常に大変であり、駐車場の管理者に移動してもらうのは心理的負担になるため、このようなパイロンの存在は有ってはならない。

 

素材は、滑りにくいものである必要がある。また、バランスが取りやすくするために平坦なものが望ましい。車椅子利用に慣れてない人は、平坦でない場所でバランスをとるのは難しい為である。やむを得ず段差が生じてしまう場合には、なるべく2cm以下にすることが求められる。しかし、素材、形状によっては2cm以下の段差であっても車椅子の通行が困難であったり、足が引っ掛かるなどの危険性があるので、やはり段差は無くすことが望ましい。

 

グレーチングは、車椅子の前輪がはまらないようにする必要がある。車椅子の前輪の幅は2.2cm−2.5cmが多く、これがどのような状態で走行した場合でもはまる事の無いようにする必要がある。

 

車椅子が余裕を持って回転できるよう、170cm×170cm以上ある必要がある。設置場所はエレベータ前や階段下など、路面条件が異なる個所の前である。スロープの踊り場と同様に、平坦でバランスがとりやすいようにする必要がある。

                       

車椅子使用者は、段差がある個所での通行はスロープの設置が必要不可欠であるが、義足、松葉杖使用者の方は階段の方が利用しやすい場合もあり、健常者の通行も考慮すると、段差が存在する個所には階段とスロープが併設されている必要がある。勾配は、屋内では8%以下、屋外では5%以下である必要がある。屋内と屋外で差があるのは、屋外の方が地形による影響を受けやすい為と考えられるが、いずれにせよ、平坦に近いほうが望ましい。幅員は、屋内では120cm以上、屋外では140cm以上必要となる。屋内の数字は、車椅子一台が十分に坂道を走行できる幅を表している。屋外の場合は、路側部にゴミが存在している可能性などがあるため、さらに余裕を持たせている。さらに、高低差が75cmを越えるごとに、車椅子利用者が休憩できるための踊り場を設ける必要がある。踊り場は、長さ、幅ともに150cm以上のスペースが必要であり、水平になっている必要がある。

また、始点、終点、曲がり部分、折り返し部分、他の通路との交差部分など、路面条件が変わる場所には、安定して一時停止ができるように同様の踊り場が必要となる。この他には、屋外に関しては雨天時の走行を考慮すると、屋根・ひさしが存在していることが望ましい。

 

乗り場ボタンは床から高さ80-110cmに設置し、大きく操作しやすいボタンである必要がある。また、より低い位置に車椅子使用者用の専用操作盤が設置してある事が望ましい。開口幅員は90cm以上、カゴの内部は幅140cm以上、奥行き135cm以上を確保し、車椅子使用者が問題なく乗降できる必要がある。また、内部には、車椅子使用者が届く位置の緊急呼び出しボタンやインターホンの設置、両側面に車椅子専用の操作盤、正面に割れにくい鏡、車椅子当たりの設置が必要となる。鏡は、車椅子の使用者が後ろを振り返ることなく後方確認が行なえるようにするためのものである。車椅子当たりとは、カゴの下部をステンレス板などで強化し、車椅子が当たった場合でもカゴ内部が大きく傷付くことの無いようにするためのものである。専用操作盤は、取り付け位置によっては操作ができないものがあるので、正しい位置に取り付けられているかどうかを詳細に調べる必要がある。非常時の連絡設備はなお一層そのことが考慮されていなければならない。この他の問題としては、従来のエレベーターは開口時間が短いものが多く、車椅子で乗降する際に扉が閉まってしまうケースが多い。車椅子使用時に十分な開口時間が保たれているかどうかも重要な点である。

 

松葉杖、義足の使用者と健常者が問題なくすれ違えるように、幅員が120cm以上である必要がある。また、幅が4mを越える大きな階段については、手すりを使用する人が両端まで移動する必要がないように、中間にも手すりを設置する必要がある。形状は、直階段や折れ階段のように踏面の寸法が一定している必要があり、らせん階段や回り階段のようなものは不適当であると言える。同時に、同一階段での蹴上げの寸法は一定である必要がある。これらは、松葉杖、義足の使用者がリズム良く階段を上り下りできるようにするためであり、特に、中心部に近づくほど踏面が減少するらせん階段や回り階段は、非常に危険であると言える。この他、通行中に万が一バランスを崩した場合の事を考慮して、階段の両側には手すり又は立ち上がりの設置が必要と言える。

 

手すりの高さは、平均身長を考慮して80-85cmに設置する必要がある。また、外径は3.5−4.5cm程度とし、壁とのすき間を5-6cm設け、しっかりと握ることができる状態でなければならない。

 

通行量が多い外部との出入り口は100cm以上、内部の出入り口では80cm以上の幅員が必要である。これは、車椅子使用者や松葉杖使用者が問題なく通行できる最小の幅である。出入口下部には段差がある個所が多いが、車椅子で走行する際の障害になったり、足が引っ掛かる原因となるので最低でも2cm以下とし、無いことが望ましい。ドアの形状は、引き戸が最も望ましい。これは、車椅子使用者にとって、前後の移動を要する開き戸の開閉は難しい動作であるからである。開き戸の場合は、内開きで軽い開閉ができるものであればより通行しやすいので、現状の出入り口に関してはこれらがあてはまるかどうかチェックする必要がある。また、滑り止め対策として玄関マットを置くことが望まれる。玄関マットを設置する場合は、段差が無いものや車椅子のキャスターが沈まないような材質であるかどうかを考慮する必要がある。

 

幅員は、車椅子使用者および松葉杖使用者双方が無理なくすれちがえるよう、主要な廊下では180cm以上必要となる。

 

道路について

幅員は、車椅子使用者と松葉杖使用者が問題無くすれ違えるよう、最低180cm以上確保する必要がある。もし、電柱などの占有物がある場合は、最低1人および1台が安全に走行できるように90cm以上確保する必要がある。路上占有物は、道路製作時には存在しなかったものが多く、走行を妨害しないよう、設置には十分注意する必要がある。また、植樹帯の枝や草が成長して通行を妨害している可能性があるので、常に手入れをする必要がある。また、筑波大学では駐輪場でない路上に自転車が放置されている事が非常に多く、通行の妨げとなっているケースが多い。ヒアリングの中でも一番多く指摘された問題であるので、自転車の駐輪を徹底したり、放置自転車を作らないような環境作りが必要であると言える。

 

歩道に段差が存在する場合は、勾配を付け自転車等が走行できるようにする「切り下げ」が存在するが、車椅子の走行も考慮する場合、切り下げの垂直勾配は8%、水平勾配は2%以下にする必要がある。また、長さ150cm以上の水平部を確保する必要がある。歩車道境界には排水がたまらないようにする。

 

舗装は、凸凹や段差が生じないように平坦性を確保する必要があり、雨天時でも滑りにくい舗装材が望ましい。路面は、水たまりを生じさせないように水はけを良くする必要があるが、水平勾配が急であると車椅子使用者が走行時にバランスを崩す恐れがあるので、勾配をつける際には十分注意する必要がある。また、タイルを張ったり敷石をしている場合は、路面の凸凹や破損に十分注意する必要がある。

 

2.3.2.視覚障害の基準

屋内に関するもの

  1. 出入り口
  2. 段差

    視覚障害者にとって境界の存在に気づくために段差は有効な情報源になることがある。しかし、出入り口の段差は扉のところにあるので、境界の存在を示すものではないので、できる限り段差がないことが望ましい。

    形式

    扉の形式として望ましいのは、楽に安全に開閉できる自動式引き戸、引き戸、内開きの

    開き戸の順である。外開きの開き戸は開けるときに後ろに下がらなくてはならない。し

    かも、外開きの扉が開けっ放しの状態だと、扉が通行の妨げになることがあるので、あ

    まり望ましくはない。

    扉の色

    扉の色に関する項目は既存の基準では、触れられていなかった。しかし、文献調査より、

    弱視者にとっては扉と壁の色の対比があることで、扉の位置が分かりやすくなることが

    分かった。新たな基準として加えた。また、ヒアリングから、弱視にも様々な障害があ

    るが、色の対比があるものならほとんどの弱視者にとってその対比が有効であることも

    分かったので新たな基準として加えた。また、扉の透明性については、扉の存在に気づ

    かず衝突してしまう恐れがあるため、前面がガラス張りのものなどは避け、縁は分かり

    やすい色にするなどの配慮が必要である。

    点状床材

    扉の前後に点状の床材を敷設したり、床の材質を変化させることによって、 扉の存在

    を示すことが望ましい。床の材質の変化は、あまり凹凸のないものは足の裏にとても神

    経を集中しさせていないと気づくことは難しいが、白杖をスライドさせて使うことによ

    って感じることができる。

    文字の室名表示

    文字による室名表示は大きな文字で近づいてみることができるようにドア・またはドア

    付近の目の高さに設けることが望ましい。また、室名表示の位置が分かりやすいように、

    プレートの色を壁の色と対比させることが弱視者にとっては有効になることが文献調査

    より分かったので、新たな基準として設けた。

    点字の室名表示

    点字での室名表示を扉の取手、もしくは取手側の壁面の手が届く位置に設置すること

    が望ましい。ヒアリングから、ドア自体に点字表示のあるものは触っているときにノッ

    クに間違えられることもあるという声があったので、ドアの点字表示は望ましくないこ

    とが分かった。また、同一建物において、点字表示の位置がばらばらだと、点字表示を

    探すのに手間がかかるし、気づかないことも有り得るので、できる限り統一した位置

    に設置することが望ましいと考えられる。

    点字プレートの素材

    既存の基準では点字表示することが望ましいという項目のみであった。しかし、ヒアリ

    ングから、点字シールは簡単に取り付けられるが、使っているうちに剥がれてしまうこ

    とがあることが分かった。このことを考慮すると金属プレートなどの耐久性に優れてい

    るもので点字表示することが望ましいといえる。

  3. 廊下

段差

出入り口との段差と同様、境界として必要な段差以外はできる限りないことが望ましい。

視覚障害者は白杖を前後左右に振って、前方にある障害物を把握して、これを避けなが

ら歩くため、壁面からの突出物や障害物はできる限り少ないほうが望ましい。ヒアリン

グから、ものの位置を知らない間に動かされるのはとても困るという声、意見があった。

 そこで、廊下に必要なもの(例えば消化器やごみ箱)は規定の場所にあれば、あらかじ

 めそこにあることが予測でき、避けやすいといえるので、これについての基準も設けた。

壁の手触り

壁を手で伝いながら歩くことがあるので、壁仕上げは手触りの良いものが望ましい。

床の色については既存の基準では触れられていなかった。しかし、文献調査から床に歩

行の方向にラインや色の対比があると、弱視者にとっては歩行のめやすとなることが分

 かったので、新たな基準として作った。

B階段

直階段や折れ階段が望ましい。螺旋階段は一面の幅が違うのでけつまづきそうで危険な

形状である。

蹴上げとは一段の高さのことで、踏面は一面の幅のことである。数値としては蹴上げ16

cm以下、踏面30cm以上、蹴込み2cm以下とされている。視覚障害者は階段を一

一段白杖で確認するよりも、一定の幅でテンポ良く上り下りするので蹴上げが高すぎて

も、踏面が広すぎても歩きにくいことがある。 そこでこの数値を考慮した上で、歩幅を

考慮した蹴上げと踏面にすることを加えた。

同一寸法

同一階段では蹴上げ、踏面の寸法を一定にすることが重要である。一段目と二段目の蹴

上げが違うと、リズミカルに上り下りすることができず、けつまづく危険がある。

段鼻は一段の面の縁のところである。この縁の部分に上から見て段と段の境が分かるような色をつけることが必要である。縁に特別に色がつけられていないと、上から見たときに段が分からず、大変危険である。ヒアリングからも階段は上りよりも下りの方が恐いという声が多かった。

階段の両側に壁または手すり壁がない場合は2cm以上の立ち上がりを設ける必要がある。立ち上がりがないと、階段から転落してしまう危険性もある。

階段の昇り口・降り口の床には点状床材・仕上げ・色の対比をつけるなどして注意を喚起することで、階段と廊下の区別を明確にする必要がある。階段の始点終点部に点字表示や凸上のものなどで何階か分かるようにすると望ましい。

  1. 手すり
  2. 手すりについては支えるためにつかうというよりも、伝え歩くための手がかりとなるものである。高さは80cm程度、形状は握りやすいもので、壁とある程度の間隔がある、手触りのよいものが良い。

    特に視覚障害者にとっては、端部が下方または壁に曲がっていることで、始点終点が分かるので、端部の処理が重要である。また、手すりの色調を壁と対比することで、手すりの位置が分かりやすく、方向のめやすとなる。さらに理想は端部・曲がり角・階段の始点終点の要所に現在位置や方向・行き先などが点字表示されているものである。

  3. トイレ

標示

男女別の標示を見やすい大きなマークや文字を用いて行う。既存の基準に加えて男女別の違いを 色調などで分かりやすくしたり、標示が近づいてみられるように目の高さの設置する必要があると考えた。

既存のものでは触れられていないが、同一建物内において、男女のトイレの位置の配置を統一する(例:右側は男・左側は女)ことで、確認が楽になる。筑波技術短期大学では、このような配置の統一がされていた。

(扉の色と点字標示については、出入り口の項目と同様である。)

  1. エレベーター

視覚障害者にとって、音による誘導案内は大変有効なものであるので、音声案内を設置することが望ましい。

既存の基準には触れられていなかったが、カゴ内にはボタンを押す際に必要な階数・開閉・非常呼び出しボタンに点字標示をする必要がある。各階には、上下ボタンと階数標示を点字標示する必要がある。カゴ内に何階に何があるといったような点字標示があっても、読む時間がないこともあるので、そのような標示は乗る前に標示されていると、とても便利であることが分かった。

建物の床とカゴの隙間は白杖が挟まらないようなものにすることが必要である。白杖の規格は決まっていないので、数値として基準を設定することは難しい。

(扉の色については出入り口の項目と同様である。)

 

 

 

屋外に関するもの

@歩道

有効幅員

幅の狭い歩道は様々な障害物に接触しやすい環境を生じさせているので、できるだけ

広い幅員か望ましい。障害物を避けていくことは遠回りになるだけでなく、方向感覚

を狂わせてしまう。電柱・標識・街路樹・信号柱などの設置は有効幅員を狭めないよ

うに考慮する必要がある。

・車止め

学内にはあちらこちらに車止めがみられ大きな障害となっているため、車止めの項目

 を新たに設けた。車止めはできるだけ歩行の妨げにならないように設置する必要がある。

また色はできるだけ目立つものにし、あまりに低いと認識しにくいのである程度の高

さに設置することが望ましい。

・植樹帯

植樹帯の草木が歩道のところまで伸びていると、歩行の障害となることがあるので、

常に手入れをする必要がある。

・駐輪

歩道を狭める大きな原因となっている迷惑駐輪・駐車や放置自転車については、毎回

ヒアリングでも問題として取り上げられたほど重大な問題である。これらについて

は、基準をつくるというよりも、一人一人、意識を持つことが一番の解決策といえ

る。

・グレーチング

グレーチングの隙間に白杖がはまってしまうことがあるので、あまり大きな隙間は設

けないことが望ましい。白杖の規格は決まっていないので、数値として基準を設ける

ことは難しい。

  1. 階段

幅が300p以上の広い階段については手すりを中央にも設けた方が望ましい。材質

については、雨で濡れてしまうと滑りやすく危険なので、滑りにくいものを用いることが望ましい。 その他については屋内の階段と同様である。

B切り下げ

歩車道境界が滑らかだと、境界が分からず、いつのまにか車道に出てしまうことがあり大変危険であるので、ある程度の段差があることが望ましい。しかし、車椅子使用者にとって段差がある事は大変な障害であるので、両者を考慮した結果、切り下げによって生じる段差は2cmとされている。だが、実際は2cmでも視覚障害者にとっては認識する事ができなかったり、車椅子では超えられなかったりする場合があるため、双方を考慮することはとても難しい。また、車道を横断する場合、勾配の方向に歩くので、勾配の方向が歩道の動線とずれていると、進行方向がずれてしまう。よって歩道に沿って勾配があることが望ましい。

C誘導ブロック

誘導ブロックは視覚障害者にとって、移動をする際に最も頼りになる重要なものである。誘導ブロックの上に足をのせ、また、同時に白杖でブロックを確認しながら歩行をする。種類としては道を誘導する線状ブロックと危険を警告する点状ブロックの2種類がある。設置場所についてはとくに公共性の高いところや視覚障害者の利用が高いところに継続的に敷設することが望ましい。設置をする際には、マンホールや排水溝なども考慮し、連続して敷設することが望ましい。また、点字ブロックを片足で踏んで歩行することもあるので、ブロック周辺のスペースも確保する必要がある。

材質としては十分な強度があり、滑りにくく、誘導ブロックの上の歩行は心地よいものではないという声もあったので、できる限り歩きやすい材質が好ましい。

 規格については現在、日本全体で約30種類もの誘導ブロックが存在する。様々な種類の誘導ブロックが存在することは使う側としては、好ましくない。2001年の3月までに誘導ブロックに関するJIS規格が作られる予定である。今後、設置していく誘導ブロックについてはこの規格に沿ったものにするべきであるとした。

  1. 歩道舗装

 舗装には平坦性・滑りにくさ・水はけの良さなどを考慮したものが望ましい。あまりに凸凹した歩道は転倒する恐れがあり危険である。ヒアリングから雨の日は大切な情報源である音も雨でかき消されてしまい、水溜まりに事前に気づく事ができず、外出は大変である事が分かった。水溜まりについては水はけのよい舗装を用いることによって、軽減できると考えられる。

 また、とくに誘導ブロック周辺の舗装は凹凸の少ない素材を用いるという基準を新たに設けた。これは、誘導ブロックとの凹凸の区別がわかりにくいと、せっかくの誘導ブロックが有効に使えないためである。さらに、新たな基準としてタイルの目地は白杖が引っかからないように配慮する必要性を取り上げた。

E案内標識

 案内標識の設置については、伝い歩きの障害にならないように配慮した上で設置するべきである。また、標識は近づいてみられるような高さで、文字は分かりやすい大きな文字で表すことが望ましい。

 

3.学内のバリアフリー度の実際

3.1.調査範囲の設定

調査の範囲は、障害者の意見も取り入れつつ、学内の移動で障害者の方の利用頻度が高いと予測される移動のネットワークに限定した。

 

3.2.マップ作成

以上の範囲で学内調査を行い、調査結果をもとにマップを作成した。

 

3.2.1.運動障害のマップ

運動障害のマップには、自分達で定めた基準を満たしていない、移動する際のバリアーとなる箇所を書き込んだ。

 

3.2.2.視覚障害のマップ

視覚障害のマップには、視覚障害者にとって有益な情報となる視覚障害者誘導ブロックの位置や点字標示の有無について記入した。また、移動する際に特に危険と思われる箇所や障害となる物の位置についても記入した。

 

3.3.問題点

3.3.1.運動障害の問題点

車道の横断について

筑波大学内のループ道路は、歩車分離されていて歩行者の安全性が確保されている。しかし向かいの歩道に移動するための車道の横断に関しては決して安全とは言えない。危険性の一つの理由としては、歩道の切り下げがあまり考慮されていない点が挙げられる。学内では歩車分離によって歩道と車道の高さに違いをもたせているわけだが、歩道の切り下げとは、歩道と車道をを同じ高さにするために歩道の高さを一部分低くしている部分である。大学内の切り下げ部分は多くの部分で勾配がきつく、車道との境界で立ち止まるための水平部分がないため、車椅子使用者の場合車道に飛び出してしまう危険性が高い。また車道から歩道に入るときの切り下げ部分には多くのところで段差があり、なかなか乗り越えられず、車道でもがいている間に車にひかれてしまうという可能性があり危険である。また、バス停から降りたあとに歩道を渡ろうとしても切り下げのあるところや横断歩道が近くにないため、なかなか反対側の歩道に渡れない。反対側の歩道にいく理由としては単に駐車場からの移動や、バス停からの移動の通行のためだけでなく、大学の案内図が反対側の歩道にある場合にそれを見に行くためにも車道を渡らなければならないので、切り下げのある横断歩道が近くにないと非常に不便である。

また横断歩道の照明が少なく、暗いことも問題だ。これは障害者だけではなくその他の人にも当てはまるのだが、車が横断者を認識したり、横断者が車を認識できないと非常に危険である。同じような理由で横断歩道の部分で視界を遮るような障害物もなくすべきだ。特に車椅子使用者や、子供などは背が低いので、これに配慮する必要がある。

 

筑波大学内のペデストリアンについて

つくば市には歩行者専用道路であるペデストリアンが南北に広がっているのだが、筑波大学内にもその一部があり、通行頻度が高く、常に多くの学生が利用している。このペデストリアンにも多くの問題がある。第一の問題として、その素材が滑りやすいことが挙げられる。実際に雨の日に車椅子に乗ってペデストリアンを通ってみたが、坂を下るときには手が滑ってブレーキがかけにくく、さらに路面が滑ってうまく止まれなかった。これは車椅子使用者だけに当てはまる問題ではなく、自転車に乗っている人や、歩行者にも当てはまり、よく転んでいる人を見かける。

次の問題点として学内のペデストリアンはアップダウンが激しいことが挙げられる。これは車と交差しないためにこのような構造になっている点では安全性があるといえるが、この坂の多さはだれしも不便に思っている点であろう。しかもこれらの坂はいずれも勾配が激しく、登るのに誰もが大変苦労する。また進行方向に向かっての勾配だけではなく、進行方向に対する横方向の勾配も障害者にとっては問題である。この横方向の勾配は雨水を横にそらすためにこのような工夫がされているのだろうが、車椅子でこのような勾配のあるところを走行する場合、どうしても横方向に引き寄せられてしまうことが、ヒアリングや実体験で証明されており、通行するのに不便である。また、義足歩行者もこのような道があるとバランスがとれなくなってしまってすぐに転んでしまうということがヒアリングで分かった。筑波大学内ではこのような道はいくつも発見されているのでこれについても考慮するべき問題であろう。

次の問題点はこのペデストリアンの幅員である。基準にと比べてみると、幅員も基準を満たしている。先ほども述べたようにこの道は交通量がとても多い。しかも通行するのは自転車ばかりで、道幅は狭くなっている。だからこの交通量でこの幅員は間違っているのではないかと思われる個所がたくさんある。実際、車椅子使用者にヒアリングしたときには、交通量がとても多いため、朝、授業に行くときには授業開始の1時間半前には家を出るということを聞いた。それくらい努力をしなければこの道は通れないということを実感した。

またペデストリアンの問題の最後として、自転車の駐輪の問題についてふれたい。ほとんどの筑波大生は、主に自転車を使って学内を移動するのだが、それに伴い自転車の駐輪マナーが悪くなっている。大学構内でのいたるところに自転車がとめられてあり、それによって幅員が狭くなったり、通行するのに邪魔になっている。これは単に学生のマナーが悪いというだけではなく、駐輪場の絶対数が足りないのではないかという問題もある。これは道の幅員の問題ともあわせて考えるべき重要な問題である。

 

3.3.2.視覚障害の問題点

私たちで作成した基準をもとに学内を評価していった結果、いくつかの問題点があることがわかった。以下に、項目ごとにあげていくこととする。

誘導ブロック+歩道(ペデストリアン)

・誘導ブロックが設置されているのは大学のごく一部

 →さらに設置されている中でも、途中途切れ途切れで、ネットワークとして確立されていない

 →破損のひどいところや、土がかぶってしまってブロックの凹凸を足の裏で感じにくい

  ところがある

・誘導ブロックと床材の色の対比が考慮されていない

 →視覚障害者のなかでも、全盲の人は誘導ブロックを足の裏で感じているが、弱視の人は視覚で確認しており、その際にブロックと床材の色が似ていると、見づらくなってしまう

・警告ブロックから危険物までの距離が30cm以下のところが多い

・誘導ブロックのすぐそばに輪止めが設置されている

 →視覚障害者の中には、片足のみをブロックにのせて歩く人もいるので、誘導ブロックのすぐそばに障害物があると、ぶつかってしまう。また、輪止めの色が周囲の色と似ていると、弱視の人にはその存在がわからないこともあるので、輪止めの色にも配慮が必要となる

・草木がはみ出して生えている

 →誘導ブロック上を歩いていると、草木があたる箇所があった。視覚障害者にとって、足元の障害物は白杖で察知できるが、顔の高さにある障害物は認識が困難であり、木の枝などが目に刺さってしまう危険がある

 

階段

・踏面と蹴上げの長さが一定でない

 →視覚障害者はリズムで階段を昇り降りするので、踏面と蹴上げが一定でないと、リズミカルに昇り降りできずにつまずく危険もある。そういった階段は視覚障害者にとっては段差の連続でしかない

・踏面と段鼻の色の対比があまりない

 →踏面と段鼻の色が同色系だと、上からみたときに階段全体が単色となり、段が見づらく、弱視の人にとっては危険なものとなる

・踊り場にさらに1,2段あるところがある

 →踊り場に段があると予測していないと、つまずいてしまう

 

案内表示

・教室名表示のプレートの位置が全体的に高い

 →教室名表示の高さは大体が170cm以上で、弱視の人が顔を近づけて文字を見ることが困難となっている

・プレートと壁の色の対比がなされていない

 →弱視の人にはプレートの場所自体を探すのも大変なことなので、色の対比がなされていると、見つけることが容易になる

 

出入り口

・扉と壁の色が同色系なところや、ガラス戸で扉の存在がわかりにくいところもあった

 →特にガラス戸は、枠の幅が狭く見づらい色だと、扉の存在に気づかずにそのままぶつかってしまうこともある

・点字シールの貼ってある位置が統一されていない

 →学内にはドアノブなどに点字シールが貼ってあるところがあるが、トイレや大教室など、ドアノブのない扉では、点字シールの貼ってある位置が場所によって異なり、気づかないこともある

・点字シールのはがれている扉もある

 →教室によっては、点字シールがはがれてしまっている箇所もあり、耐久性の面で点字シールよりも金属製の点字プレートのほうが優れている

・扉の形式は引き戸のところはほとんどない

・建物の外から入る扉のなかには、開閉時間が早かったり、重い扉があった

 

廊下

・特に研究棟の廊下には本棚や傘立てなどの障害物が多い

 →廊下に障害物があると、伝い歩きができなくなってしまう

 

 

 

 

4.考察

既存の基準の再考

 私たちは、障害者というと安易に『車椅子』を思い浮かべがちである。しかし、先に述べたように、障害の種類は多様であり、障害ごとに求めるものは異なっている。それにもかかわらず、文部省、つくば市などの既存の基準について調べてみると、そのほとんどは『車椅子』使用者と視覚障害の中でも全盲の方を中心に考えられたものとなっていた。視覚障害といっても、視覚の著しく衰えている弱視については考慮されておらず、既存の基準には案内表示の高さ、色の対比や文字の大きさが盛り込まれていない。本来バリアフリーの基準というものは、様々な障害を考慮して作成されなくてはならない。このことから私たちは、現在、存在している基準の再考が必要であると考えた。

 

移動のネットワークを考慮した施設の整備

 次に学内の評価をしてみると、学内には個々の設備自体が存在していないことや、その設備が存在していても、十分に機能しないことにより障害を持つ方の移動のネットワークが成立しないことが多くなっている。実際、障害者の方の「○○へ行きたいが、でも行くことができない」という声が聞かれる限り、学内のバリアフリー度としては満足いくものではないといえるだろう。障害者の行動範囲を広げるためにも、移動のネットワークの確保を考慮した施設の整備が必要であると私たちは考えた。

 

心のバリアフリーの充実

 上の二項目の一方で、私たち一人一人が考えなくてはいけない問題がある。誘導ブロック上や歩道を狭めるような自転車の駐輪といったモラルの問題や、障害者の方を見かけたら気軽に声をかけるなどの心のバリアを取り除くという問題である。設備が整っているだけでは全てのバリアを取り除くことはできない。設備面と心のバリア両方を取り除いてこそ、はじめて有効なバリアフリーといえるのである。

 

 

 

6.参考文献

つくば市(1995):「つくば市福祉環境整備指針−人にやさしいまちづくりをめざして−」

つくば市(1996):「つくば市障害者や高齢者にやさしいまちづくり整備計画

                     −人にやさしいまちづくりをめざして−」

文部省(1996):「文部省建設設計資料」

齊藤三十四(1999):「バリアフリー社会の創造」,明石書店,pp.193

津田美知子(1999):「視覚障害者が街を歩くとき

    −ケーススタディからみえてくるユニバーサルデザイン−」,都市文化社,pp.292

(財)運輸経済研究センター(1995):「交通機関のやさしさの向上をめざして」

井上茂樹・車田宇子・式元広・西沢まき子(1997

:筑波研究学園都市におけるバリアフリーデザインの評価,

筑波大学環境科学研究科環境計画実習, pp.37

佐島毅・瀬尾政雄(1986

    :盲人が白杖単独歩行する際に遭遇する歩道上の障害についての調査,       

       視覚障害教育・心理研究, 4(2), 110

J.LOVIE-KITCHIN, J.MANSTONE, J.ROBINSON AND B.BROWN

訳:橋本千賀子(1991)

    :弱視者の歩行において視野のどの領域が重要であるか

                   視覚障害教育・教育研究, 8(12), 5769   

小林一弘(1999):見えにくさのある目で見るということ「視力0.06の世界」(1)

                   弱視教育, 37(1), 1418

小林一弘(1999):見えにくさのある目で見るということ「視力0.06の世界」(2)

                   弱視教育, 37(3), 2327

小林一弘(2000):見えにくさのある目で見るということ「視力0.06の世界」(3)

                   弱視教育, 37(4), 2327

 

 

7.謝辞

最後に、この実習をするに当たってご指導いただいた石田先生および都市交通研究室の方々、資料の提供をしてくださった筑波大学施設部および学務の方々、施設見学に応じてくださった筑波技術短期大学の皆様、ヒアリングに協力してくださった皆様には心より感謝申し上げます。