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地区別構想 南部地区

 南部地区(三中・六中地区)は人口減少が進み、またJR荒川沖駅の利用者の減少・駅前の複合商業施設の撤退などから駅周辺の空洞化が進んでいます。そこで、駅周辺の求心力を取り戻すことが喫緊の課題です。


 駅周辺に人を呼び戻す背景として、まず対外的な観点からはベッドタウンとしての地位の低下があります。市内で最も東京へのアクセスがよいという立地条件から東京への通勤者が居住に選択する街でしたが、近年はつくば駅やひたち野うしく駅の開発が進み魅力も向上したことから、荒川沖駅の存在感が薄まっています。


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図 3-3-a 2010-2060人口分布の経年変化(都市構造可視化計画より)

 対内的な観点では、駅から離れた郊外での市街化が進んでいることが指摘されます。南部地区は道路網が整備されているため、車を使った生活がしやすい環境にあるといえますが、車を使えなくなった場合は生活上の困難が予想されます。
具体的な地区でいうと、2010年から2040年までの人口の変動より、将来的には小岩田・永国・中・乙戸地区に人口が留まることが予想されています。これらはいずれも荒川沖駅から離れた郊外に位置し、公共交通に関しては、バス路線がまったくないか、あったとしても本数が少ない場所です。さらに徒歩圏内の、福祉施設・保育施設・スーパーマーケットなどの生活施設が不足しているため、車中心の生活から抜け出すことが困難となるでしょう。そこで、JR荒川沖駅周辺に生活拠点を作ることが望ましいといえます。
平成25年の住生活総合調査によると、住まい選びで最も重視する事柄に「日常の買い物・医療・福祉・文化施設などの利便」、次いで「地震時の安全性」「災害時の避難のしやすさなど災害安全性に関する項目となっています。荒川沖駅周辺には様々な施設が集まり、徒歩圏内にはジョイフル本田、ゼビオドーム、東京インテリアなどの大規模小売店舗が立地することなどから、利便性の点で拠点にふさわしいといえます。また土浦駅周辺の市街化エリアが浸水想定区域内であることと対照に、いずれのハザードマップにおいても荒川沖駅周辺の安全性が確認されることからも拠点にふさわしいといえます。


南部地区1

図 3-3-b (国土数値情報のデータを用いてGISで作成)

 以上の背景を踏まえ、南部地区は「東京に近い」「ベッドタウン」「駅周辺の空洞化」などの特徴から、「賑わいあふれる生活のエリア」を目指します。


提案1
公共交通の通っていない郊外から駅周辺への住み替えを促進することで、将来予想される交通弱者問題の深刻化を防ぐことができます。土浦市で行われている「まちなか定住促進事業」は、「中心市街地活性化基本計画(2000年)」で設定された中心市街地を対象にしています。上記の背景や中心市街地が浸水想定区域であることなどから、荒川沖駅周辺についても検討する必要があります。提案するエリアは立地適正化計画における都市機能誘導区域と同一(約112ha)で、現在の中心市街地エリア(約118.8ha)と同程度の範囲です。

南部地区a

現状の「まちなか定住促進事業」は様々な条件により対象者が限定されています。例えば、賃貸への住み替えに関しては市外からの転入でありかつ新婚または子育て世帯であることが必須条件となっています。駅周辺の市街化が進むエリアでは賃貸物件が比較的多いため、住み替えを誘導するには賃貸物件への補助が必要であることや、市内において人口が分散することが将来の持続可能性の点から懸念されることから市内在住の人々に対しても街中への住み替えを支援する必要があります。よって対象エリアの追加に加えて、制度内容の変更も検討します。
・変更前
賃貸:土浦市外から転入・新婚または子育て世帯
新築・建替え・購入
・変更後
賃貸:土浦市内外から住み替え
新築・建替え・購入
市の負担費用は次のようになります。
対象地:荒川沖駅周辺(約112ha)
目標:350人程度の増加
概算費用:56,464万円
概算の補足)現在の市街地活性化基本計画において市街地エリア(土浦駅周辺)の人口の7%の増加を目標と定めていることから、荒川沖においても設定した居住誘導区域内の人口の7%である350人の増加を目標とします。このうち、民営借家が102人、持家が248人としているのは、土浦市の民営借家と持家世帯の割合を参考にしたためです。
また、住み替えの阻害要因を解消する仕組みをつくります。例えば、住み替え促進と並行して住民によるまちあるきやパネルディスカッションなどを実施する事例もあります。土浦においては、近隣のつくば市に所在の筑波大学と連携した取り組みが期待されます。
 市の家賃補助による住み替えは実績に乏しく(2015.02.18時点で1件)、制度自体が市民に浸透していないといえます。そこで、制度の認知を広める必要があります。
 また土浦市には常陽銀行と連携したまちなか定住促進の取り組みがあり、市が設定した市街地エリアに住み替えを希望する人はリバースモーゲージローンを活用することができます。こちらは主に郊外団地の高齢者が自分の住んでいる家を担保にローンを借りられ、それでもって市街地のサービス付き高齢者向け住宅などに住み替えることができる仕組みです。また担保にした空き家は子育て世帯などに賃貸物件で提供されます。車を使える若者は空き家を活用し郊外に住み、公共交通に頼らざるを得ない高齢者は街中に住むというスキームが生まれます。子育て世帯の流入によってベッドタウンとしての地位の向上にもつながります。そのため、居住誘導区域を設定することを通して、荒川沖にもこの制度が適用されることを目指します。

南部地区b

提案2
 駅周辺部における生産年齢人口の減少と郊外における人口集積が進むと、市街地が拡大し財政を圧迫することが懸念されます。そこで子育て世代をターゲットに駅周辺部への住み替えを促進するために、駅前において市街地再開発事業を実施します。
 荒川沖駅東口はかつてショッピングセンター「さんぱる」がありましたが、すでに撤退・解体され現在は駐車場となっています。駅前という立地にもかかわらず効率的な空間利用がなされていないことは問題です。そこで、駅周辺の空洞化を防ぎ賑わいを取り戻すことを再開発の目標とします。
 再開発を行う主体は民間であるので、市は誘導する方針を定めます。まず有効利用されていない対象地(約0.87ha)において地区計画を策定し、容積率の緩和や再開発促進区への設定などを盛り込みます。さらにその他の補助制度(優良建築物等整備事業や市街地再開発事業)を明示することで開発を誘致します。
 以下は再開発が行われた際の具体例です。
地域地区:商業地域、準防火地域
主要用途:共同住宅、集会所、飲食店等
敷地面積:約8,729u
延床面積:5,300u
建築面積:1,750u
 北側に位置する一戸建ての住宅の日照に配慮し、駅からのアクセスを円滑にするようコアの位置を検討します。また、公共・公益施設の整備等の評価による容積率特例制度による容積率緩和を行います。
 公益施設の一環として、都市公園を設置し駅前景観の向上を図ります。
 建物の1,2階部分は「都市に開かれた文化空間」とし、図書館や公民館、美術工芸室、調理室、テナントの設置なども考えられます。
 3階以上は子育て世帯向けの居住空間とし、子供の成長に合わせて自由に変更可能な間取りを備えた3LDKを想定します。1階部分にはキッズルームを設け、地域の人々との多世代交流も図ります。
将来増加が予想される高齢者についても生活環境を整える必要があります。趣味のサークル活動や社会への貢献、友人との会話などは生きがいにもつながりいきいきとした生活を生みます。拠点内にそのような活動が行われる場を生み出す必要があると考えました。そこで参考にしたのが柏市の「ビレジサポート」です。こちらは高齢者主体の地域コミュニティづくりの成功例であり、先進的な例です。具体的な活動内容は美化活動・保育園のお手伝い・サークル活動・庭木剪定・緑道整備・料理教室など多岐にわたります。これに倣いコミュニティカフェを併設し、主にシニア世代の拠点となることを目指します。
再開発後の管理運営の方針も定めます。都市公園等の公益施設部についてはPFI事業(BTO方式)を用いて財政支出の縮減を図ります。具体的には民間主導の再開発事業に市は特定建築者として参加、またPFI事業者と契約し運営をまかせる代わりにサービス対価を払う仕組みです。さらに、再開発ビルにテナントを設ける場合、空きテナントを発生させない仕組みづくりも必要です。実際、駅西口に再開発事業によって作られたマンション「さらさ」の1階部分は現在空きテナントとなっている現状があります。市では中心市街地(土浦駅周辺)を対象に開業支援事業というものを行っており、開業から1年間は1か月の家賃の半分を支援しています。再開発に合わせて荒川沖でも事業展開を試みることが空きテナント対策にもつながるので、合わせて考える必要があります。



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